INTERPRETATION

Vol.15 岡本美枝さん「全ての経験が生きてくる」

ハイキャリア編集部

多言語通訳者・翻訳者インタビュー

【プロフィール】
岡本美枝さん Yoshie Okamoto
ドイツ国立ベルリン芸術大学音楽科卒業。日本帰国後、電子邦楽器メーカーにて電子楽器開発及び翻訳を担当。フラワーデザイン学校での通訳、和独辞典作成業務などを経て、現在はフリーランスドイツ語通訳・翻訳者として活躍中。平成15年からは、通訳ガイド・通訳入門クラスの講師も務める。

言葉に興味を持ったきっかけは?
実家が、神奈川の座間キャンプ近くにあるんです。自分では全く覚えていないのですが、母親が目を離したすきに、三輪車で外国人居住地に行っては、「えいごおしえて」と言っていたようです(笑)。小学校のクラスに、外国人の子供が何人かいたのですが、学校では日本語を話しているのに、その子の家に遊びに行くと、まるで分からない言葉で話しているんです。子供心ながら、「うわぁ、これが分かったら面白いだろうなぁ! 」と思ったことを覚えています。
また、私は祖父から大きな影響を受けています。戦争中に海軍兵学校で英語教師をしていましたが、戦後は公職に就けず苦しい思いもしたようでした。よく、「地位や財産は、世の中が変わればどうなるか分からない。でも、知識は無くならない! だから勉強しなさい」と口癖のように言っていたことを覚えています。英語はできて当然、それ以外に何かもう一つ言葉を学びなさいと、子供の頃から言われていました。ピアノを習っていたこともあり、何となくドイツ語を勉強しようかなと思ったんです。そこで、中学校入学と同時に、NHKテレビ・ラジオ講座を聴き始めました。英語は祖父から少し習ってはいましたが、学校でも科目として普通に勉強したぐらいで、特別に力を入れたというわけではありませんでした。
その後、どのようにしてドイツ語の勉強を?
高校からは、マンツーマンのドイツ語会話レッスンを受け始めました。この頃は、「将来はピアノで生きて行くんだ! 」と思っていました。ドイツ語も、マンツーマンでこれだけ勉強してきたんだから、かなりできるんじゃないかと勘違いしていたんです。ところが、夏休みにザルツブルグで開講される短期クラスに参加した時、泣きそうになりました。こんなに勉強してきたのに、ドイツ人の言っていることが全く分からないんです。自分が話していることも、相手に全く通じないんですよ。これじゃあいかん! と思い、日本に戻ってからは、現地の子供が聞く音声教材を使って、ひたすらその音を追いかけました。たまたま思いついた勉強法だったのですが、今から考えると、あれはシャドーイングでしたね。自分の話すスピードが遅いと相手もいらいらするし、発音もある程度美しくないと分かってもらえないということがわかったので、テープの声を徹底的に真似するようにしました。その後、ドイツの大学に進んだ時にも、真っ先に買ったのはテレビなんです。何を言っているかほとんど分からないにも関わらず、毎日テレビの前に座っていました。耳はいいので、音としては聞くことができるのですが、意味が分からないのと、自分の舌が回らないんです。でも、「聞こえた音がそのまま再生できて、意味さえ分かれば、私は絶対にドイツ語が話せるようになる! 」と信じていました。留学1年後ぐらいから、ドイツ人学生ともなんとか普通に話せるようになりましたから、効果はあったんでしょうね。大学でも、毎回講義をカセットテープに録音して、帰宅後ひたすらシャドーイング。ただ聞いているよりも、自分で再生すると理解度が高まります。2年ぐらいは泣きながら続けました。
大学ご卒業後の進路は?
プロになりたかったのですが、ピアノだけで食べていくには、国際コンクールで一位になる等の経歴がないと厳しいんですよね。それでも何とか道を模索したくて、アルバイトをしながら演奏活動の足がかりを探していました。しかし現実は厳しく、ずっとこのままでいるわけにもいかないと思っていた頃、新聞で「電子楽器の修理者募集」という求人広告を見かけました。何かを作ることは昔から好きだったので、面白そうだなと応募してみることにしました。ところが、面接に行ったら「音大卒業ということは、楽譜が読めるのかい? 」と聞かれ、読めると答えると、修理ではなくて楽器開発をしないかと言われたんです。ここでは、パソコンスキルはもちろんのこと、社会人としての立ち振る舞いなど、何から何まで教えて頂きました。ここでの経験は、今でも生きているんですよ。琴をはじめとした邦楽器の音が出るシンセサイザーの音源作成業務を任され、まずは音律の文献収集から始めました。音大図書館に行ったところ、ドイツ語の文献を見つけたので、この翻訳をしてみようと思ったんです。もちろん、自分で読むだけのものなので、そこまで日本語の精度にこだわらなくてもいいんですが、これが楽しいんですよ。内容は音楽だし、ドイツ語なので勉強にもなるし。これが初めての擬似翻訳体験です。訳していくうちに、あまりの自分の日本語の稚拙さに、これはさすがにひどいなと反省しました。その頃からでしょうか、翻訳・通訳ってもしかしたら面白いのかもしれないと思い始めたのは。
その後、通訳学校に通い始めたのですか?
仕事をする上で、ドイツ語を生かそうという気は全くありませんでした。帰国後、5年は経っていましたし、その間全くドイツ語には触れていませんでした。会社退職後、雇用保険の申請でハローワークに行ったら、給付金対象語学講座の案内があったんです。「ふーん、語学かぁ」と思って、その帰りに寄った書店で、語学関係の本をぱらぱらと眺めていたら、そこに載っている通訳さんのかっこいいこと(笑)! いろんな経歴の方がいて、皆さんきらきらと輝いて見えました。主婦をしながら翻訳をやっている人、全く異業種から転職して通訳になった人などがいて、「これはもしかしたら、一生探求していくに値する仕事かもしれない」と思い、その足でドイツ語の通訳学校を訪ね、入会しました。預金通帳にあったお金をすべてはたいて!
 実は学校に行くまでは、変な自信があったんです。ドイツ滞在経験もあるし、私だったらちょっと勉強すればすぐに通訳になれるだろう! って(笑)。ところが、最初の授業で、「岡本さん、公定歩合について日本語で説明してください」と言われ、固まってしまいました。「え? 公定歩合ですか? 」と……。これまで音楽一本で来たこともあり、それ以外のことに関しては、あまりにも無知でした。それから半年間、学校では新聞の音読ぐらいしかやらせてもらえず、私はあんなに大枚はたいたのに、どうして日本語しか教えてもらえないんだろうと密かに思っていました。先生には、「通訳者の資質は、何も外国語が話せるだけではありません。特にあなたみたいに学生時代留学をして、ただぺらぺらしゃべっていたような人が、どうやって大企業の会議で通訳をするんですか。日本で働く以上、クライアントはあなたの日本語でスキルを判断するんですよ! 」とこっぴどく怒られたことを覚えています。その後も日本語の勉強ばかりさせられ、ついにはNHKアナウンサー養成学校のクラスにも通うはめになりました。
通訳学校在時代に通訳をご経験されたようですね。
新聞で、フラワーアレンジメント学校での通訳募集という記事を見かけたんです。面接に行ったところ、通訳経験がないにも関わらず採用して頂きました。学生は皆若い人ばかりなので、そこまで日本語も堅苦しくなくてよかったものの、現場に出ることで通訳学校とは違う意味での勉強ができました。ドイツ人講師の授業に張り付いて一日中通訳するわけですから、当然パフォーマンスも鍛えられます。また、講師が日本滞在中のケアも仕事に含まれていたので、日本語よりもドイツ語を話している時間の方が多かったかもしれません。日本にいながらこういう環境に身をおけたことは本当にありがたいと思っています。
ドイツ語辞書作成業務にも携わっていらっしゃったようですが。
フラワーデザイン学校での仕事を終えた時、自分にはもっとスキルアップが必要だと感じていました。そこで、別の通訳学校に通いながら、昼間は和独辞典編集の仕事をしました。電子辞書のソフトを作っていたので、どこに「旗マーク」を入れるか、イタリックの時はどうするかを決めたり、古い文例や差別的な文章は削除したり、名詞の性をチェックするのです。私は、ドイツ文学や文法を専門的に細かく勉強したわけではなかったので、大変勉強になりました。名詞の性や動詞変化も、この仕事をしながら密かに復習していました(笑)。
今までで印象に残ったお仕事は?
舞台通訳です。ドイツから演出家が来日し、日本におけるドイツ年最後の企画として劇を上演することになり、舞台立ち上げ段階から通訳として入っていました。例えば機械関係の翻訳などは、A+B=Cのようにばちっと答えがでるので好きですが、芸術関係は心の底から共感して通訳でき、また舞台を一緒に作る快感を味うことができるんです。ピアノを辞めた時、もう今後は創造的な仕事はやるまいと決めていたのですが、今回通訳者として、このようなプロジェクトに関われたことは大きな喜びでした。俳優陣は、私の言葉を通して演出家の想いを理解するんだ、ということに気づいた時には思わず背筋がピンと伸びました。芸術家は、それぞれが独自の言葉を持っています。そして、それは必ずしもA+B=Cではありませんし、感覚的な話も非常に多いと思います。でも、自分がずっとそういう場所にいたということが、今回通訳をする上で非常に役に立ちました。この時ほど、通訳をやっていて、そして芸術分野出身でよかったと思ったことはありません。
今だから話せる失敗談、ハプニングは?
たくさんあります。まずは、通訳ガイドでのハプニング。ミスヨーロッパという船をご存知ですか? お金持ちのドイツ人が船でゴルフをしながら各国をまわるという贅沢なツアーで、東京にも立ち寄ることになりました。市内観光のスケジュールを組んでくださいと言われ、皇居、浅草、東京タワー、銀座あたりでどうだろうと事前に下調べに出かけました。皇居では、駐車場から歩いてここまでだと何分かかる、1時間あればここまでまわることができる、と計算したのでもうばっちりです。ところが当日、駐車場から二重橋までは遠いから歩きたくないと言われ、「それより、ロレックスのお店に連れていって」ときました! なんでも、どうしてもほしい時計があって、どこのお店でも手に入らないから、日本ならあるかしらということだったらしいのですが……。というわけで、皇居はパスして、浅草は「はい、お寺ね」と即刻引き上げ、ロレックスのお店に向かうことになりました。そんなわけで、私が立てたプランとは全く違う市内観光となったのでした。
 次は、徹夜で翻訳をして、朝あまりに天気がよかったのでサイクリングに出かけたときのことです。自宅に戻ると、エージェントから「明日から、ドイツへ行って頂けませんか」という電話が! 急な依頼だったらしいのですが、内容を確認すると、IT系の商談で特にテクニカルな話にはならないとのこと。まぁいいかと思って引き受けたところ、何とクレーム処理のかなり微妙な会議だったんです。飛行機の中で突然社長が、「ケンカしにいくからね」と言うんですよ……。「聞いてないよー! 」と心の中で思いつつ、ホテルに着くやいなや、法律用語を調べてリストを作りました。ケンカすると言っているのに、通訳がおろおろしていたらさまになりませんものね。
 そして、フラワーデザイン学校の授業での出来事。ドイツ人講師が言ったことが、一文全く分からなかったことがあったんですよ。今にして思えば、その場で聞き直せばよかったのですが、なんせ初めての通訳で舞い上がっています。おそらくこういうことだろうと、自分で想像して通訳したら、直後に講師が、今私が訳したことと全く同じ内容をドイツ語でおっしゃったんです。確か、「白い壷の後ろには、なるべく白を置かない方がいいですよ。コントラストが出なくなりますので」というようなことだったんですが、どうしよう!と思って、咄嗟に、「これは重要なことですのでもう一度繰り返します」と言って、何とかその場をしのぎました。
通訳と翻訳ではどちらがお好きですか?
通訳です!でも、例えば今の私のレベルより少し難易度の高い通訳に出かける前日は、「あぁ大人しく自宅で翻訳していたいなぁ……」と後悔することもあります。逆に、翻訳をずっとしていると、ご飯を食べていても、テレビを見ていても何だか落ち着きません。納期や、これから調べなければいけない用語のことが頭にあって、ゆっくりできないんです。そんな時は、「もし今日通訳に出ていたら、夕方からはゆっくりできるのになぁ……」と思ってしまいます。無いものねだりなんですね、きっと(笑)。
性格的に、人前に出るのが苦にならないんです。もちろん、大勢の前で通訳をする時は、緊張して手が震えることもあるんですが、マイクを持つと、私の出番だわ!と俄然はりきってしまいます。例えばピアノ演奏の時も、本番直前は舞台袖で、この世で一番不幸な女になっているんですが、いざ舞台へ出ると、「さぁ皆さん、私を見てください!」と開き直ってしまうんです。ある種の快感というのでしょうか。
音大卒という経歴が、ずっとコンプレックスだったと伺いましたが。
そうなんです、今でこそ良かったなと思えることがたくさんありますが、最近までずっとコンプレックスでした。通訳学校を出て、これでやっと営業開始! と、エージェントをまわり始めたのですが、「あぁ音大さんね。うちには芸術家はいらないから。うちはビジネスばっかりだからね」と言われたことも多々ありました。中には、音大卒というだけではじかれてしまい、登録すらさせて頂けないこともあったんです。初めての通訳がフラワーデザインということも手伝って、芸術関係の人というイメージが大きかったのかもしれませんが、ショックでした。でも、最近になって、音楽をやってきたことは決して無駄ではなかったし、その経験が役に立っているなと思うんです。子供の頃から毎日何時間もピアノを弾く生活を続けてきたことで、じっと座って何かをするということが全く苦にならないんです。これは翻訳をする上でもアドバンテージになりますよね。ご飯を食べなくても平気ですし。また、ここ一番という時の集中力や舞台度胸も、音楽から得たものだと思っています。
岡本さんの強みは?
緊張をコントロールできることです。決してリラックスしているわけではありませんが、どれだけ緊張していても、その緊張をコントロールして集中力を作ることができます。これはピアノのお陰ですね。
また、新しい現場に行くときは、いつも「これが終わったらもう死んでもいい」というぐらいの気持ちを持って仕事に向かいます。周りからは、「あなたみたいなことしていたら、命磨り減るよ」と言われるんですが、今抱えている仕事が終われば解放されるんだから、多少無理してでもやる!というところがあります。中学・高校の頃、毎日勉強する時間は無かったので、中間・期末テストの前日だけピアノを弾かずに勉強するという生活を送っていました。毎回徹夜で勉強して、そのまま学校に行きテストを受けていました。今もそれに近いことをやっているのですが、つらいと感じたことはありません。
そして、社会人経験を積んだことも大きいですね。小さい会社だったので、私が営業に出ることもありました。もちろん恥もかきましたし、馬鹿にされることもあって、もういやだなと思うこともありました。でも、その経験があるからこそ、「じゃあどういう言葉を使えば、どういうアプローチをすればもっと相手に伝わるのか」と考える癖がつきました。また、何百人もの前でプレゼンをしたこともあり、最初は緊張で声が震えて、後ろから「聞こえない! 」と野次が飛んだこともありましたが、こういう経験をしたからこそ、今通訳として壇上に上がってもうまく気持ちをコントロールできるのかもしれません。本当に、経験したこと全てが生きている気がするんですよ。
現在、通訳クラスで教えていらっしゃるようですね。
通訳ガイド試験準備クラスと、通訳入門クラスを担当しています。通訳の勉強をこれから始める方が対象なので、シャドーイングやメモの取り方などを一緒にトレーニングしています。今までは、初心者対象のクラスがドイツ語にはなかったので、今回作って頂いて教えることになりました。しかし、教えるというのはつらいですね(笑)。準備をしなければならないのはもちろんですが、特に通訳ガイドクラスの生徒さんなどは、皆さんかなりドイツができるんです。大学院でドイツ文学を研究しています、というような方がいらっしゃると、それだけで緊張してしまいます。でも、週に一度こういう緊張感を味わうのもいいかなと思い、私も同時に勉強させて頂いています。
ドイツ語通訳・翻訳のネットワークについて教えてください。
皆とても仲いいですよ。現状として、ドイツ語の仕事は英語ほど多くありませんし、ドイツ語通訳・翻訳者の数自体も少ないんです。例えば、明日は軍縮会議と言われて、すぐに対応できるような人は数えるほどしかいません。今後、こういった方が退いた後、次に続く通訳がいなくなるのではないかという危機感、そして英語が堪能なドイツ人が増えてきているころから、英語通訳に取って代わられるのではないかという不安感を皆一様に感じています。ドイツ語通訳・翻訳市場の縮小を防ぐためにも、先輩通訳者達が私たちのような若手を集めて、合宿や勉強会を開いて下さっています。この話をすると驚かれるんですが、皆さん本当に優しい方ばかりで、勉強会では積極的に単語帳を共有し、情報交換をしています。
初めて車関係の仕事をすることになった時、先輩に相談したんです。「あなた、どんな資料持ってるの? 」と聞かれ、「え?『誰でも分かる車の本』はあります」と答えると、「あんたそれで行く気なの?! 私が関係資料をファックスしてあげるから待ってなさい! 」と言われ、50枚のファックスが送られてきたことがあります。お礼の電話をかけたところ、「これが最低限の資料だから」と言われたときにはびっくりしましたが、こんなすばらしい先輩達にめぐり合えて本当に感謝しています。先輩を見ていると、私ももっと勉強しなければと思いますし、モチベーションも高まります。
現在の一週間のスケジュールは?
去年は7割翻訳3割通訳でしたが、今年はその比率が6:4になりました。ゆくゆくは、通訳の割合を100%にしたいと思っています。もしそうなれたら幸せです! スケジュールが空いている限り、仕事は入れるようにしています。もちろん、初めての現場の前日は翻訳を入れない等の注意はしていますが。定期的に受注している翻訳案件があり、エージェントは私のスケジュールが空くのをいつも待ってくださるんです。こうやって指名して頂けるのは、とてもうれしいことです。でも、それで自信過剰になることなく謙虚な気持ちを忘れずにいたいと思っています。
ご趣味は?
時間があれば、週2回クラシックバレエに通うことにしています。ただ、ここ2-3ヶ月忙しくて全く参加できていないのですが。お天気のいい日はサイクリングに出かけます。空気を吸うと頭がしゃきっとするので、翻訳が入っている日も午前中ちょっとでかけたりするんですよ。
もし、通訳・翻訳者になっていなかったとしたら?
何かものをつくる仕事でしょうか。経済的なゆとりがあったら、ピアノをそのままやっていたかもしれませんね。俳優になりたいと思ったこともあります。バレリーナにも憧れたし、いずれにしても何か自分で表現・発信するような仕事がいいですね。
7つ道具
これから目指す人へのメッセージをお願いします。
よく、「独検一級に受かったので、通訳になれますか」と聞かれますが、それは違います。ガイド試験や独検は、あくまでも通翻訳の勉強を始めていいですよというパスポートにすぎないんです。また、通訳学校でも、「副業で翻訳できますか」との質問を受けます。私は、「できません」と答えています。もちろん時間的には可能かもしれませんが、クオリティも下がるし、中途半端に引き受けられる仕事ではありません。語学ができるからといって、すぐに通翻訳デビューするのは避けてほしいといつも思っています。
無駄なことって一つもないんですよ。アルバイトにしても、お笑い番組にしてもしかり。もし、私が日本帰国後すぐに通訳を目指していたら、これまで私がしてきたような苦労はしなくてすんだかもしれません。でも、逆に学べなかったこともたくさんあると思います。社会人経験を積んでいなかったら、今の私は絶対にありません。ですから、皆さんには、どんなことも回り道と思わず何でも体験して頂きたいと思っています。いきなり頂点を目指すのではなく、まずは今の自分のレベルを把握して、将来なりたい自分の姿を想像するんです。5年後にはどうなっていたいか、半年後、一ヵ月後はどうかと考えていけば、おのずと今やるべきことが見えてくると思います。通訳・翻訳は、ピアノと同じで螺旋階段を上っていくようなものだと思うんです。つまり、常に階段の裏しか見えない状態でぐるぐる回っている感じなんです。でも、体験したこと、勉強したこと全てが自分に返ってくる仕事なので、やりがいがあります。どんな簡単な仕事でも、どんなにつまらない仕事でも、全力でむかってください。「これは通訳の仕事ではありませんから」と自ら仕事の領域を限定しないことも大切です。私は仕事に対するこういった姿勢を、全てを先輩から学んできましたし、今後私が後輩に伝えていきたいことでもあります。真面目に努力していけば、正当に評価を受ける世界なので、努力と謙虚さを忘れずに進んでください。必ず道は開けます。
 まだ通訳の勉強を始めて間もない頃、大先輩に言われて今でも覚えていることがあります。「音楽は、3歳から始めて20年間毎日9時間練習したとしても、成功するか分からない。でも、ドイツ語を同じ情熱で2年やれば、ドイツ語で仕事ができるようになる! 」と。私は馬鹿正直なので、その言葉をそのまま信じて今に至るんですが、本当にその通りだなと感じています。身に着けた知識はなくならないんですよ。ピアノだと、一ヶ月前にこの曲が弾けましたと言ったところで、今弾いてくださいと言われて弾けなければおしまい。でも、言葉は一度覚えたら忘れない限りは、ずっと頭の中にあるんです。

編集後記
岡本さんとお話していたら、なんだか私まで「きらきらパワー」をもらった気がします。これまでの経験全てが今に生きているとおっしゃっていましたが、岡本さんを見ていると本当にそうだなと思えました。輝いている人は、全てをプラスのエネルギーに変えているんだなと実感。こんな素敵な人に会えて幸せ!
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