INTERPRETATION

Vol.20 「続けるということ」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
橋口千枝さん Chie Hashiguchi
大学卒業後、総合科学会社に社内通訳翻訳者として就職。退職後フリーランスとして舞台関係中心に通訳業務に携わり、オペラ座の怪人、シルク・ド・ソレイユなどの来日公演通訳を経験。その後、会議通訳にシフトし、現在はフリーランス会議通訳者として多忙な毎日を送る。

Q. 語学に興味を持ったきっかけは?

私にとって言葉は「なぞなぞ」のようなものだったんです。英語に関わらず、古文なども、何となくゲーム感覚だったというか。
アメリカのディズニーランドを紹介する番組が好きで、小さい頃よく見ていました。外国といえばディズニーだと思っていたので、憧れの国だったんです。縁あって、高校2年の時に1年間のアメリカ留学が決まったときは嬉しかったです。

Q. 大学卒業後は、社内通訳翻訳者として企業に就職されたんですか?

何らかの形で語学を生かした仕事がしたいなと思っていました。大企業だとどの部署にまわされるか分からないしと考えていたところ、通訳翻訳者を募集していた企業が、通訳学校にも通わせてくれるというので迷わず入社を決めました。大学では主にドイツ語を勉強しましたが、通訳の勉強はしたことがなかったので本当に苦労しました。いきなり会議の場に放り込まれ、今考えても恐ろしいのですが、ここでは通訳のやり方だけでなく、社会常識も含めいろいろと勉強させて頂きました。

Q. 福岡では英語を教えていらっしゃったんですか?

当時、福岡には通訳の仕事がほとんどなかったんです。もともと人前で話すのが苦手で、それを克服するためにと英会話講師の仕事を始めたのですが、通訳とはまた違ったおもしろさがありました。求められる能力も全く別です。今でも毎年夏に長崎で通訳集中講座を担当しており、教えるのは割と性に合っています。人の持っている可能性や能力を引き出していくのは、わくわくしますし、がんばっている人を見ると応援したくなるんです。自分もがんばらなきゃ! って、いつも刺激を与えてもらっています。福岡には1年ほど滞在した後、私自身もっと勉強が必要だと感じて東京に戻ることにしました。

Q. 通訳の仕事を再開してみていかがでしたか。

私にとっては、福岡から東京に戻ってきた時が本当の意味でのスタートでした。再び通訳学校に通いながら、電車に乗っている間中シャドウイングをし、夜はいろんな勉強会に参加しました。下手すると、1週間のうちほとんど夜は勉強会で埋まっていたこともありました。少しずつ舞台関係のお仕事を頂くようになりましたが、一番嬉しかったのが、福山雅治に会えた時です! ミーハーな話ですが、実は昔からファンなんです。3年ほど前に、ある俳優のファンクラブ向けトークショーがあったんです。アメリカの写真家とのコラボレーションということで、通訳を担当しました。とにかく急な依頼だったので、打ち合わせする間もなく会場に入ってみてびっくり! 確かに「福山さん」と名前だけは伺っていましたが、まさか福山雅治本人だとは思ってもいなかったので。実物はかっこよかったです……。

Q. 長期的な目標を持って、勉強してこられたと伺いましたが。

学校でもずっと言われ続けてきたんですが、「継続は力なり」なんです。最初の学校では、「石の上にも3年」と言われ、とにかく3年我慢した人は何かモノになっていると。トップレベルの力ではないにしても、何かしら英語を使った仕事で食べていけるぐらいにはなると言われました。私自身は3年だとちょっと自信がないから、5年やってみようと思ったんですよ。もしも5年でモノにならなかったら辞めようって。実際5年経ったら通訳の仕事に就けたので、じゃあもっとがんばってみようと思いました。その次は、XX歳で会議通訳のチャンスに恵まれなければ辞めようと決心しました。大切なのは長期的な目標を持つことなのかもしれません。続けていけば力になっていきますし、それに見合った結果はついてくると思います。

Q. 舞台通訳から会議通訳に転向されたのは?

舞台の仕事はとっても楽しかったんですが、時間的な拘束が長く、時間も不規則なんです。丸2日間缶詰になることもあり、ある時ふと、この仕事を20年後も続けていけるだろうかと不安になったんです。年齢的なことも視野に入れて、今後は会議通訳を目指すことに決めました。舞台通訳と会議通訳では、求められる要素が全く違います。両方とも違った意味での大変さがあると思います。もちろん面白さという点においてもそうですが。

Q. 通訳をしていて一番やりがいを感じるときはどんな時ですか?

やりがいを感じるのは、お客さんに「よかった」と言われた時ですね。逆に難しいなと思うのは、「資料なし、ブリーフィングなし」でいきなり本番の時です。もちろん最大限に準備して本番に臨みますが、必ずしも満足いく結果が出るとは限りません。今日はいまいちだったなという時もあるんです。ただ、お客さんにとっては、その1回が私の評価になります。今日は調子が悪かったので……なんて言い訳はできません。私たち通訳者のパフォーマンスに対して、お客さまは対価を払うわけですし、その他にも事前準備、服装、立ち振る舞いといったことも重要だなと思います。

Q. 非常に多趣味だと伺いましたが。

そうなんです。たぶんそうでもしていないと、ストレスを発散できないのかもしれません(笑)。自分が年老いたときに、通訳だけの人生だったというよりは、いろんなことをやっておきたいと思っているんです。いずれ私にも引退の時が来ますし、その時に何か他にも夢中になれるものがあれば素敵だなと思って。今一番熱中しているのが、沖縄の三味線「三線(サンシン)」です。去年の暮れ2週間沖縄に滞在した時に、MY三線を注文し、毎日海辺で練習しました。他には、ワインスクールとパン教室にも通っています。

Q. 今後のプランは?

通訳も続けつつ、パン作りももうちょっとがんばっていきたいなと思っています。今一番上のクラスにいるんですが、実技がまだまだなんです。コースを終了したら、試験を受けてパンの講師もありかなと考えています。それから半分冗談ですが、三味線で民謡酒場デビューするとか(笑)。ワインも資格が取れたら、生かしていきたいと思っています。将来的には、通訳翻訳からお酒関係にシフトしていけたらいいなと。なにせB型ですから、何でも始めたら突き詰めていきたいタイプなんです。

<編集後記>
通訳以外の活動も積極的に行っていらっしゃると伺ってはいましたが、まさかこれほどまでとは! どれ一つ取っても、趣味の域を超えているのもすごいことです。橋口さんが将来どこかで素敵なバーをオープンされたら、是非お訪ねしたいと思います。

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テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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