INTERPRETATION

Vol.31 「通訳スキル以上に大切なもの」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
岩田尚樹ニコラスさん Naoki Nicholas Iwata
幼少時代から14歳までを米国にて過ごす。慶応義塾大学法学部在学中に通訳、ニュース局での編集を経験。1995年ドイツJohannes-Gutenberg大学にて政治学/コミュニケーション修士課程修了。帰国後、フリーランス通訳者として様々なプロジェクトにおいて活躍。2005年春よりイギリス滞在、フリーランス通翻訳者として活躍の幅を広げている。

Q. 小さい頃、海外にいらっしゃったんですね。

6歳から14歳までアメリカにいました。週末は日本人学校に通いましたが、年齢的にも遊びたいさかりで、なかなか勉強に集中できず(笑)。お陰で、日本に戻ってからかなり苦労しました。会話は何とかなりましたが、読み書きが大変で、毎晩漢字の練習をしたことを覚えています。

Q. 学生の頃から通訳を?

先輩がアルバイトで通訳をしていたんですが、ある日急用ができたらしく、「代わりに行ってくれないか」と言われました。テーマパークのプロジェクトで、嬉しいことにそれ以降も声をかけて頂くようになり、週末や夏休みは通訳として活動しました。通訳学校には通ったことがないんですよ。当時は2名体制での仕事が多かったので、先輩をお手本に勉強しました。
在学中、NBCニュース局でニュースの収集やコーディネーションも経験しました。バイリンガルはまだまだ珍しい存在だったようで、学生でもたくさんの機会を頂けたことは幸せでした。

Q. 本格的に通訳者としてやっていこうと決心したのは、いつ頃ですか?

ドイツに行ってからです。当時は、M.A.を取得したらニュース局に戻ろうと思っていたんですが、NBCアジア総支局が香港に移ってしまったんです! 香港に行こうかとも考えたんですが、何か他にもできることはないかと考えたときに、「そうだ、僕は通訳もできるんじゃないか。」と思ったんですよ。

Q. 印象に残ったお仕事は?

テーマパークでの通訳です。何年も関わらせて頂いたので、プロジェクト毎にいろんな思い出があります。全ていい思い出です。長期プロジェクトでは、ゴールに近づくにつれてチーム内の結束も固くなりますし、仕事が終わってから皆でちょっと飲みにいったりするのもプロジェクトならではですよね。

Q. 今だから話せる苦労話は?

Perl言語に関する初の日本会議で通訳を担当したんですが、この時ばかりは頭を抱えました。IT業界の最先端を行く人達の集まりだったので、普通の思考回路では通訳できず、聞いたことのないような表現が盛りだくさんで本当に困りました(笑)。
何週間も続くワーキングセッション中に、技術者同士が物理運動や機械学の議論を始めた時もひやひやしました。自分の理解範囲を超えているので、頭上に大きな「?」マークを浮かべつつ、同席の通訳者と顔を見合わせながら通訳しました。朝から晩まで続いたセッションで、この時はさすがに自分の体力と精神の限界を感じました。

Q. 岩田さんの通訳者としての強みは?

緊迫している現場の雰囲気を和らげることができることでしょうか。なぜか僕が投入されるところは、何か問題が起きているところや、関係がこじれているプロジェクトが多かった気がします(笑)。いろんなプロジェクトに関わってきましたが、どのプロジェクトも、終わりに近づくに連れて皆がぴりぴりしてくるのが手に取るようにわかるんです。ペンがいきなり飛んできたこともあります! スピーカーの発言に忠実であることは必須ですが、なるべく明るく接して皆にスマイルが出るようにするなど、現場の状況を見ながら通訳するようにしています。
通訳スキルに限って言えば、ある程度のレベルまでは誰でも到達できます。大事なのはそこからどうするかです。プラスアルファを身に付けることで、総合パフォーマンスの向上に繋がるのではないでしょうか。状況にもよりますが、現場に入るなり「私は通訳しかしません!」と言い切ってしまうと、最低限の情報交換しかできなくなってしまう可能性があります。用語集をシェアせず、他人の負は自分の得のように考える人もいますが、そこからは何も生まれないので、皆で助け合えるような環境作りができるといいなと思いますね。

Q. スキルアップの秘訣は?

他の人の通訳を聞くことです。通訳を始めた頃から今まで、僕にとってはこれが一番の勉強です。今はイギリスに住んでいることもあり、以前ほど他の通訳者さんのパフォーマンスを聞く機会がないことは残念です。「同じ言葉でも、こんな風に訳せるんだな」と新しい発見があり、通訳者が10人いれば10通りの表現があるのが面白いですね。美しい表現や言い回しを聴くことによって、新しい言葉の世界が広がっていくことが仕事の醍醐味です。

Q. ドイツ語もお話になると伺いましたが。

英語ほどの仕事量ではありませんが、ドイツ語通訳をすることもあります。イギリスに来てから、なぜか依頼を頂くことが増えました。機械関係では、通訳資料がドイツ語であることが多いので、役に立っています。現地の通訳エージェントも、3ヶ国語の必要性を訴えていました。イギリスでも、欧州全域にわたる仕事が増えているようですね。

Q. 今後のキャリアプランは?

今後5年間は、VISAがあるのでイギリスに滞在すると思います。通訳を続けていきたいですね。イギリスは機械や製造関係が最近多く、現地でトップ通訳者になれるよう、成長していきたいです。

Q. もし通訳者になっていなかったら?

ジャーナリストになりたかったので、多分ジャーナリズム関係の仕事をしていたと思います。

Q. これから通訳者を目指す方へのアドバイスをお願いします。

できるだけオープンな気持ちでいること、例えミスをしてもあまり気にしないことです。ミスをしたら、そこから学び、次に同じ間違いをしないよう気をつければいいのですから。もしも間違えてしまったら、すぐに訂正することが大事です。ミスを隠そうとして後で大きな問題になったり、誤解に繋がったりすることもあるので気を付けて下さい。最終的にはコミュニケーションが一番大事なので、恐れず笑顔でどんどん前に進んで行ってください!

<編集後記>
岩田さんとお話していると、自然にこっちも笑顔になっていることに気づきます。これぞ岩田マジック? イギリスでの更なるご活躍をお祈りしています!

Written by

記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

END