INTERPRETATION

第1回 不正会計はグローバルな問題?

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

はじめまして。この度「Hi Career」にて連載させていただくことになり大変光栄に思っています。イギリスを拠点として幅広い分野に携わっている者として、通訳・翻訳者を目指している方のお役に立てる情報をお伝えし、一緒に「良い訳」について考え、共にスキルアップできれば幸いです。
日本にお住まいの皆さんは、どのような英語の媒体をお読みですか? 最近では各国からの情報がインターネットで手軽に入手できて便利ですが、日本にいると全般的にヨーロッパよりアメリカからのニュースに触れることのほうが多いのではないしょうか? 日本の英語教材は基本的にアメリカ英語で統一されているかと思います。イギリスで『ロングマン英和辞典』の編纂にかかわったとき、イギリス人が執筆した後Americaniseというプロセスがあり、アメリカで使われない表現はすべてアメリカ流に編集されていたのが興味深かったです。
この度、イギリスからの発信ということで、イギリス発信のメディアからビジネス・経済ニュースを取り上げていきたいと思っています。ヨーロッパやイギリスで話題になっていることに触れながら、ビジネスに役立つ表現を紹介します。
まずは2015年6月20日発行の『The Economist』誌の記事”Retailers and supplier rebates”から。
こちらは英スーパーマーケット最大手テスコの話です(テスコは2003年に日本に上陸しましたが2011年には撤退)。最近日本でも企業の不正が大きく取りざたされていますが、イギリスでは昨年テスコ社の会計操作問題が発覚し、すでに業績不振で苦境に立たされていた同社にとって大きな痛手となりました。
そこで、このような文があります。
The firm will hold its first annual meeting since revealing that it had inflated its profits by £263m ($421m) through wrongly booking rebates from suppliers…
1. annual meeting: AGM (annual general meeting)とも呼ばれますが、ここでは「年次株主総会」のこと。annual meeting/AGMは株主総会に限らず、どの組織の会議でも年次で行われていれば使われます。
2.to inflate its profits: 「膨らませる」という意味のinflateですが、「利益を膨らませる」と訳すと「利益を大きく増やす」と解釈され、必ずしも不正操作のニュアンスは含まれません。これは「実際の利益よりも大きく(不正に)計上していること」を意味するので「利益を水増しする」と訳すといいでしょう。
3. to book: 動詞のbookには「計上する、帳簿に記帳する」という意味があります。「予約する」の意ではreserveよりも日常的によく使われているように思います。
4. rebates: 「リベート」。メーカーや卸売業者などが商品の売上高や取引高など一定の条件をクリアした流通業者に対して支払う報酬のこと。ここではテスコが仕入先から受け取る金銭。
5. suppliers:「サプライヤー / 仕入先 / 供給業者」の意。
というわけで、拙訳は
「同社(テスコ)は、仕入先から受け取るリベートを不正に計上することにより利益を263百万ポンド(421百万ドル)水増ししたことが発覚して以来、初の年次株主総会を開催します。」
263m は、「2億6千3百万」ですが、金融関係の文書では「263百万ポンド」とMillionの単位を残したまま書かれることが多いです。口語でも「263ミリオンポンド」のように日本人ビジネスパーソンが表現するのを聞くことがあります。ついでに単位の補足をすると、一昔前のイギリスではa billionというとa million million(1兆)のことでしたが、アメリカでは「10億」のこと。最近のイギリスメディア&産業界ではすべて「10億」の意味でa billionが使われていますが、今でもある程度の年齢の方は「1兆」の意味で a billionを使う人もいるので知っておくと役に立つことがあるかもしれません。
以上、今回はイギリスからのニュースをお伝えしましたが、これらの用語は日本の企業でもよく使われるので、少しでもお役に立てれば幸いです。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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