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放送通訳者直伝!

第345回 どうせ現実逃避をするなら

授業や通訳、原稿執筆など、好きな仕事に携わるチャンスをいただけているというのは本当にありがたいと思います。自分が情熱を傾けられる分野で少しでも社会のお役に立てればという思いがあるからです。確かにフリーランスで生きる以上、仕事をしなければ無収入ですし、福利厚生手当は一切ありません。私は「有休」「慶弔休暇」「住宅手当」などとは縁がないのですが、それでも日々幸せを感じられる仕事ができることを考えると、本当に幸せな人生なのだと思います。

「好きなこと」を仕事に日々生きているとは言え、私も人間ですので、気乗りしないときというのはよくあります。たとえば「授業準備をしなければいけないのに今一つやる気が出ない」「テストの採点をせねばとわかっているのだけど、その量に圧倒されている」「喜んで請け負った原稿依頼なのに、一文字も入力できない」という具合です。

要はそのようなときというのは、気力体力が衰えつつある時期なのでしょうね。スタミナ不足ということです。本来であれば休養を取ったり、気分転換を図ったりして切り替えれば良いのでしょう。けれどもそれすら面倒ということもあります。

そのような際、私が陥りがちなのが「ダラダラとインターネットを閲覧する」という行為です。ネットの世界は無限ですので、キーワードを入力しては検索してただひたすら眺めることを繰り返してしまいます。普段なら大して興味のないページをぼーっと眺めてしまうこともあります。ページを見つつ「こんなことしてる場合じゃないでしょ」という声が頭の中をぐるぐると回るのもわかります。

「せっかく手帳にチェックリスト付きでやるべきことを書き出してあるのに、それら何一つ片づけないで、一体何やってるの?」

「こんな状態だから、あとになって焦って慌ててクオリティが下がるのよ」

「ああ、どうして私って意思が弱いんだろう。前もそうだったし、全然進歩してない」

このような感じで自分を責める声やボヤキやら愚痴やらの思いが心の中を占めていくのですね。要は私の場合、ネットを見ることで「やらないための言い訳づくり」と「逃避行動」をしているわけです。

ではどうすれば良いでしょうか?

どうせ逃避するのであれば、

*他人に喜ばれることをする
*自己達成感を抱けるものをする

このようにすれば良いのだと思うようになりました。

たとえば料理が好きなのであれば、ダラダラと不本意なことをして時間を無駄に過ごすのではなく、それこそ山のようにごちそうを作り、家族に食べてもらったり、職場の仲間におすそわけしたりするのでも良いでしょう。お裁縫が好きなのであれば、布地を買ってきて好きなものを作るのでも良いと思います。後悔することをして自己嫌悪に陥るぐらいなら、自分が好きなことをして現実逃避をすれば、自己肯定感も高まると思います。

私の場合、手っ取り早くできる「生産的現実逃避」は掃除と片づけです。とりあえず掃除機をかける、ごちゃついているあれこれのものを整える、不用品を捨てる、斜めにかかっているタオルの端をそろえるということをすると、とても幸せな気持ちになってきます。後悔だらけの現実逃避ではなく、達成感を大いに抱ける現実逃避なのですね。

こうして気分転換が図れれば気持ちも前向きになり、「よし、大変だけど仕事に戻ろう」という思いが沸き上がってきます。まだまだ私自身、発展途上ですが、少しでも進歩できればという思いで毎日を過ごしています。 


(2018年3月12日)

【今週の一冊】
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"An Illustrated History of Japan" Shigeo Nishimura, Tuttle Publishing, 2005

日本の歴史を時代の流れに沿って説明したのが今回ご紹介する一冊です。原本は福音館書店発行「絵で見る日本の歴史」(西村繁男著、1985年)ですが、直接の英訳ではないのが特徴です。

私は中学2年の途中でイギリスから帰国し、編入した地元中学校の歴史授業では「徳川家康」が取り上げられていました。私にとってはそれ以前の時代を全く学ばないままでしたので、「徳川who?」という状態でしたね。以来、日本史への苦手意識を払拭できないまま大人になってしまったのでした。今でも通説としてとらえられないのです。

このままではいけないと思い立ち、手に取ったのが本書です。読み方のポイントは、日本語の原本と英語の本書を比べて読むこと。1ページずつ開いて並べて読むという方法です。日本語の説明文が簡潔な一方、英語版はかなり詳しく綴られています。おかげで日本語版ではうかがい知ることのできなかった細かい史実を英語版で吸収できました。

なお、日本語版には巻末に著者の西村氏が絵の部分の詳細な説明を加えています。日本の歴史を古代から現代まで鳥瞰図的に眺めたい方、西村氏の美しい絵を堪能したい方など、年齢や興味を問わずすべての方にお勧めしたい一冊です。


第344回 苦戦した通訳

同時通訳や逐次通訳の場合、どのようなお客様なのか、どういった内容が飛び出すのかは当日になるまでわかりません。ある程度の予測をしながら、それこそ受験勉強時のヤマかけのように予習をしますが、予習自体がそもそも「ここまでやれば終わり」というものではないのですよね。当日に最大限の力を発揮できるよう念には念を入れてリサーチをしますが、どれだけ経験を積み重ねても私の場合、当日が近づくと不安感は高まります。放送通訳の場合はレポーターの顔ぶれも一定しており、話し方にもいずれは慣れてきます。けれどもビジネス通訳の場合、何が出てくるのかはふたを開けてみるまでわからないのです。

直前まで隙間時間を見つけながらひたすら予習をした結果、「思ったよりもスムーズに訳せた」「想像していたよりもなじみやすい内容だった」という思いで業務を終えられたときは本当に幸せです。お客様のお役に立てたという気持ちや「今日は詰まったり間違えたりせずに済んだ」という安ど感で満たされるからです。

けれどもいつもそうとは限りません。いえ、むしろ「パーフェクト!」などという日は私の場合はほとんどありません。たいていは帰路の電車内で一人反省会をしながら「うーん、なぜあの基礎単語が訳せなかったのかしら」「もう少しすっきりした訳文にすればよかった」「あの場面でもっと気を利かしてお手伝いできれば喜ばれたのに」など、通訳業務だけでなく随行時の自分の振る舞いに対する反省なども次々と出てきます。けれども時間を戻すことはできません。今日の反省点を次に生かし、同じミスを二度としないように誓いながら前に進むしかないのですね。

一方、「訳出自体は無事に進んだものの、通訳現場の環境で苦しんだ」という経験を私は何度かしています。いくつかご紹介しましょう。

一つ目は、とあるセミナー通訳でのこと。会場は都内の高層ビルの上層階にありました。窓から外を眺めると東京湾が見渡せ、下の方には街中を行きかう人々が小さく見えます。広いセミナールームでの逐次通訳でした。

ところがその当時はとある問題をめぐって国の情勢が動いていた時期でした。某団体がその問題に対して反対意見を述べるべく、スピーカーを使い大型車両で主張を繰り広げていたのです。音というのは上に抜けますので、地上から響くその大音量は私のいた会場にも聞こえてきました。

集中しているときは周囲の雑音もさほど気になりません。しかし、いったん気にかかってしまうとそこで一気に集中力は下がります。「ん?あの大ボリュームは何?」と思ったが最後。セミナーの英語を聞いてメモを取り逐次通訳に備えつつも、耳にはシュプレヒコールのような大音量が階下から聞こえてきます。セミナー内容とは全く関係のない話題が頭の中で錯綜してしまい、大いに通訳では苦労しました。その日は肉声での逐次通訳でしたが、こうしたケースを考えると、やはり話者の方にはマイクを付けていただき、通訳者のイヤホンに直接入る方式の方が確実だと思ったのでした。

もう一つも「音」に関するものです。その日はビジネスミーティングで、訪問先の日本企業側も英語で応対なさっていました。よって私の通訳を必要としたのは海外からのクライアントさんをお世話なさっていた日本の随行の方おひとりでした。よってこの日は英日のウィスパリングが私の仕事でした。

小さな会議室だったのですが、同じ部屋の中で時々激しい咳をする方がいらっしゃいました。時期は冬でインフルエンザや風邪が流行していたころです。一番つらいのは
咳が出てしまうご本人であることはもちろん承知しています。けれども、大きな咳というのは、その瞬間、部屋の中の他の肉声がかき消されてしまうのですね。この日も肉声の英語をそのままウィスパリングしていましたので、私の解釈が途切れてしまうという状況に直面しました。内心焦ったのを覚えています。

ちなみにとある音楽評論家の方が、クラシック音楽のコンサート会場でどうしても咳が出てしまう場合、手のひらよりもハンカチで口元を覆った方が音は静かになるとおっしゃっていました。通訳者がいる会議ではそうしていただけるとありがたいなあと思った次第です。

苦労した通訳3つ目は「西日」です。こちらも同じくビジネスミーティングでした。その会場は窓が東側にあり、道路に面したビルの5階にありました。時間帯は午後です。窓は全面ガラス張りで、窓側にホワイトボードがあり、机のPCからパワーポイント映像が映し出されていました。

最初のうちはよかったのですが、少しずつ日が沈んでくると、通りを挟んだ向かい側のオフィスビルの窓に西日がギラギラと反射していったのです。しかもこの日もやはりウィスパリングで、プレゼンをしている方は窓を背に着席なさっています。私の角度から見ると、まるでご本人の後ろに後光がさしているようになり、それはそれはまぶしくて仕方ありませんでした。顔の表情が一切見えなくなってしまったのです。

私は通訳をする際、必ず話し手の表情や口元などに注目し、non-verbal messageからヒントを得るようにしています。この日もそうでした。けれども西日でその方のお顔が暗くなってしまうと手掛かりは大幅減になってしまいます。私が少しずれれば良いのですが、そうすると今度はウィスパリングをして差し上げている方の耳元から離れてしまいます。支障がない範囲でモゾモゾと椅子の上で動いていた私は、傍から見たらアヤシイ動きをしていたかもしれません。

幸いミーティングは「後光発生」から間もなくして終了して事なきを得ましたが、長引いてますますまぶしくなったのであれば、中断をしてでもブラインドを下ろしていただくようお願いした方がパフォーマンスには支障が出ないのではと思いました。

単なる語学的な予習だけでは立ちいかなくなることもあるのが通訳という世界です。毎回の経験を積み重ねて、次はもっと良い通訳をしていきたいと思います。


(2018年3月5日)

【今週の一冊】
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「世界のリノベーション」日経アーキテクチュア編 日経BP社、2017年

街中を歩いていてもついつい建築物に目がいくほど「建物」が好きです。ビルの入り口にある「定礎」の石碑にも注目しますし、階数を数えたり柱やガラス窓を眺めたりすることもあります。私にとって建築にまつわるすべてがワンダーランドです。

先日ロンドンへ行く機会があり、現地でも様々な建物を堪能してきました。イギリスは建築物がグレードでランク付けされており、いったんその認定を受けるとむやみに手を加えることはできません。石造りということもあり数百年前に建てられた建造物が今も現役で使われているのです。そうしたことから内部を改修したり、外観を損なわない範囲で雰囲気を変えたりしているのがわかります。数年前の五輪を機にロンドンではテムズ川の東部が再開発され、現地ではモダンなビルやマンションが立ち並びます。

今回ご紹介する一冊はリノベーションに関する書籍です。イギリスの建物は出ていませんが、世界各地で取り組まれた改修・改築の様子が写真付きで掲載されています。特に興味深かったのはアジアにおける建築・リノベ事情でした。個人的に注目したのはシンガポールのナショナルギャラリー。かつての最高裁判所と市庁舎を一つにつなぎ、2015年に美術館としてオープンしています。外観は重厚な建物ですが、中は極めてモダン。こうした空間でのんびりと美術鑑賞する休暇も良いでしょうね。


第343回 予定、変える?どうする?

先日のこと。急な通訳案件が入り、予習のためにスケジュールを調整する必要が出ました。当初の予定であれば、その日一日は調べ物をするため大学の図書館で缶詰めになるはずだったのです。開館から夕方までひたすらリサーチをするつもりでずいぶん前から予定していました。

けれども通訳の準備はきちんとしなければなりません。そうなると、大切にとっておいた(?)「一日図書館デー」を返上する必要に迫られます。図書館でのリサーチは個人的に調べたいと思っていた内容でしたので、いわば「プライベート」の作業です。個人的趣味であれば後ろ倒しにすれば良いのです。簡単なことです。

「でも」と心の中ではひそかに躊躇する気持ちもありました。と言いますのも、大学は現在長期休み。静かな図書館で丸一日を調べ物にあてられるのは私にとって実に貴重なチャンスでもあります。だからこそ余計に予定変更には抵抗があったのですね。

とは言え、急遽入ってきたのは正真正銘の「仕事」です。つまりお給料をいただき、それに見合うもの以上のサービスを提供せねばなりません。プライベートは二の次ということになります。

ではどのようにスケジュールを調整すれば良いでしょうか?

心の中で「うーん、調整かあ・・・」などと後ろ向きな気持ちになってしまうと、本来取り組むべき予習に本腰が入りません。これでは依頼をしてくださった相手に失礼になってしまいます。ここは気持ちを切り替えて、スケジュールを抜本的に組み直すしかないのですよね。

まず「個人的な図書館での調べ物」を後ろ倒しするにあたり、直近で次に図書館へ行ける日はいつなのかを考えました。図書館開館日カレンダーを引っ張り出し、自分の手帳とにらめっこした結果、1週間後に行けることがわかりました。これでまずは第一関門突破です。

次は、空いた丸一日をどのようにして通訳準備に充てるか考えました。私がその時おこなったのは、やるべき準備作業をすべて細かく書き出したことでした。具体的には:

*事前書類の通読
*事前書類の翻訳

*来日クライアントのプロフィールをネットで探す
*上記プロフィールを和訳する
*クライアントの動画をYou Tubeで探す

*訪問先A社の会社案内を日本語で通読
*上記の英語ページを通読

*訪問先B社の会社案内を日本語で通読
*上記の英語ページを通読

*単語リスト作成
*その他

ざっとこのような具合です。項目別にざっくりと5つにわけることができます。これを朝8時から14時までの6時間で仕上げようと決めました。8時から08:50までは「事前書類の通読」「事前書類の翻訳」、9時から09:50まではクライアント関連の予習、10時から10:50は訪問先A社の予習という具合に1時間1項目にしたのです。60分ではなく50分にすることで適宜休憩を取り、体を動かしたり家事をして気分転換をしたりして
集中力を温存するようにしました。14時を終了時間にセットしたのは、この時間帯になるとかなり疲労がたまってくるだろうと予測したためです。

なお50分という長さの間も2分割または3分割に分けてタイマーをかけました。8時から25分間は「事前書類の通読」にあて、08:26から08:50までは翻訳作業という具合です。このタイマー時間を厳守することにより、常に全体像と残り時間を意識しながら作業を進めることにしました。

このような進め方の場合、細かいことを調べ始める余裕はありません。むしろ大事なのは鳥瞰図的に全容をとらえて、まずは最後まで一気に予習をすることが求められます。作業全般を終えて時間に余裕があれば細かい部分にも取り組めばよいと私は思っているのですね。さもないと本来終わるべきところまで到達できないからです。

今回はこのようにしてタイマーできっちり時間を計測して予習をしたおかげで、何とか事前に予習を仕上げることができました。あとは通訳本番までの隙間時間を使いながら、さらに細かい部分で気になる点を洗い出し、詰めの作業をすることになります。

一日の予習を終えてみて感じたこと。それは「図書館デーを後ろ倒しにすることには最初抵抗があった。でもやはり思い切って変更して良かった」ということでした。もし未練たっぷりで(?)自分の予定を優先してしまえば、通訳準備がさらに後手後手に回ってしまったからです。

フリーランスで仕事をしているとこのような状況に直面することがたびたびあります。だからこそ「お財布を無くしても諦められるけれど、手帳は絶対無くせない!」と私など思ってしまうのかもしれません。

(2018年2月26日)

【今週の一冊】
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「ケイト・グリーナウェイ ヴィクトリア朝を描いた絵本作家」 川端有子著、河出書房新社、2012年

子どもたちが小さいころは毎晩読み聞かせをしながら寝かせていました。日本や海外の絵本に触れる貴重な機会となり、それを機に絵本の世界に魅了されています。物語としてだけ見るのではなく、文化や風習の違いも絵本から読み取れるのが面白いのですね。たとえば海外の絵本の場合、室内でも靴を履いている様子が描かれていますし、出てくる人物も色々な皮膚の色の子が登場しています。一方、日本では動物が出てくる絵本の場合、かわいい感じで描かれています。

さて、今回ご紹介するのはイギリスで19世紀後半に活躍した絵本作家ケイト・グリーナウェイを取り上げた一冊です。ケイト・グリーナウェイの名前は知らなくても、一度は作品を目にしたことがある、という方も多いのではないでしょうか。ほんわかしたタッチ、心温まる色遣いが特徴です。

絵本に出てくる絵を「芸術作品」として見てみると、実は奥が深いことを本書は教えてくれます。ヴィクトリア朝の時代風景や人々の暮らしぶりなどがケイト・グリーナウェイの絵からはわかります。

どの絵も魅力的なのですが、私のお気に入りは食事風景を描いた何枚かの絵です。ちょうどDlifeというチャンネルで「ブリティッシュ・ベイクオフ」という勝ち抜き戦お菓子コンテストを観ていることもあり、イギリスの焼き菓子ルーツを絵から感じることができるからです。ファッションが好きであれば洋服を、音楽好きなら楽器をという具合に、自分の興味に応じて絵というのは読み解けるのですよね。そのことを教えてくれた一冊でした。


第342回 楽しむのなら堂々と

時間をいかに有効に使うかは誰にとっても永遠の課題です。と言いますのも、書店へ行けば手帳術、時間管理術といった本がたくさん並んでいるからです。

私は数年前、読みたい本が積読状態になっていながら一向に読み進めることができない状況に直面していました。書店へ行けばついつい目新しい本を買ってしまう。それでいて自宅の本棚には読んでいない本がぎゅうぎゅう詰め。背表紙を見るたびに「早く読まねば」と焦るばかりでまったく片付かなかったのです。

ようやく「それでは」と本棚から取り出してはみたものの、「はて、一体なぜ私はこの本を買ったのかしら?」と思う始末。当初の興味はどこへやら。このようになるとページをめくるスピードも遅くなり、結局は古書店へ出すことになってしまいました。

なぜこのような状態になってしまったのでしょうか?

それは、当時はまっていたSNSでした。具体的にはFacebookです。

当時はFacebookが流行し始めたころで、友人がどんどん加入していた時期でした。「あ、あの友達もいる!」「わあ、小学校時代のこの子も!」という具合。探せば探すほど懐かしい名前が出てきます。再び接点を持ち、近況を報告し合うまではよかったのですが、そのうちFacebookをひたすら見つめる時間が加速度的に増えてしまいました。一度計ってみたところ、一日当たり累計で2時間は優に超えていましたね。読書タイムが削られてしまったのも致し方のないことでした。

自宅で通訳準備をしていても友人の動向が気になってしまい、「息抜き」と自己正当化してページを眺め始めてしまう。そして気が付けば数十分が経過し、自己嫌悪。

この繰り返しが続いたのです。

そこである日、意を決し退会したのでした。

もちろん、私のようにズルズルと流されず、けじめをつけて見られる人はたくさんいるはずです。私の場合、ポイントとなったのは「時間のロス」に加えて、閲覧直後に感じる「罪悪感」、そして何よりも「眺めていてもさほど楽しくない」という3点でした。

これはダイエットでも同じだと思います。「ちょっと食べすぎたけれどおいしかった。これが食べられて幸せ。今日はサイコー」と思えるのであれば、多少ハメを外してもそれは許されるはずです。けれども「ああ、これを食べたからさっきのジョギングはパー。これで400カロリーも摂ってしまった。どーして私は意思が弱いんだろう」と自己嫌悪に陥り、さらにストレスで無茶食いすれば何のためのダイエットかわからなくなります。

要は「楽しむのならば堂々と」ということなのですよね。それこそ正々堂々とエンジョイして、「よし、また明日から頑張ろう」と思えた方が健康的だと思います。私の場合、ことSNSではそれができなかったため退会したわけですが、楽しめるのであればとことん楽しむ。中途半端に自己嫌悪になるぐらいなら、どこかで自分なりにけじめをつけるしかないのではと感じています。

(2018年2月19日)

【今週の一冊】
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「子どもの本のカレンダー 増補改訂版」 鳥越信・生駒幸子編著、創元社、2009年

気が付けば2月ももう半ば。カレンダーを次にめくればもう3月がやってきます。私はなるべく物を増やしたくないため、カレンダーは飾っていません。けれどもカレンダーのデザインを眺めるのは好きで、大学の講師室や銀行、公共施設などにかけられているカレンダーをしげしげと見つめてしまいます。そういえば大学生のころ、ゼミの仲間が「一週間の初めは日曜日?月曜日?どっちだろう?」と真剣に考えこんでいましたっけ。暦というのはロマンがありますよね。

今回ご紹介するのは、1年366日の日付が出てくる絵本をまとめた一冊です。子ども向けの絵本や小説、漫画などが取り上げられており、各作品の中に出てくる日付に基づいて紹介されています。たとえばこのコラムがアップロードされる2月19日のページでは遠藤みえ子著「ブルーバースデー」(講談社、1998年)が出ています。筋書を読むと、この小説の主人公が2月19日に長い手紙を書いたのだそうです。

この本の初版は1996年ですが、増補改訂版は2009年の発行。よって紹介されている作品も新しいものが見受けられます。私が知らない本もたくさんありますが、それがかえって新鮮で、次世代の子どもたちがどのような本に親しんでいるかわかります。

ちなみに今年のセンター試験で何かと話題になったムーミンも本書には出ています。8月7日のページです。書籍名は「ムーミン谷の彗星」(トーベ・ヤンソン著、講談社、1990年)です。ムーミントロールがとある学者から「8月7日午後8時42分、赤い彗星が地球に衝突する」と聞かされるシーンが出てくるそうです。

身近なお子さんやご自分の誕生日に合わせて、ここに紹介されている本を手に取ってみるのも楽しいでしょうね。「誕生日辞典」や「名言集」のような感じで味わえる一冊です。


第341回 危機管理のこと

通訳の仕事をする上で、業務当日前にやるべきことはたくさんあります。事前予習もそうですし、単語リストを作成したり名刺を用意したり携帯電話を充電したり電子辞書の予備電池を備えたりなどもそうしたことの一環ですよね。それと同時に、万が一に備えて慌てないようにするために、様々な事態を想定しておくことも大切です。

もちろん、いたずらに不安ばかりを煽ることもいけないのですが、突発事態になっても慌てないようにしておくことは必要だと思います。これは先日、宇宙飛行士・若田光一さんのセミナーでも若田さんご自身がおっしゃっていたことでした。危機管理能力を日頃から高めておき、どのような課題が生じうるのかを紙の上でもよいからシミュレーションしておくと、いざというときにも冷静に対処できるというのですね。本当にそうだと私も感じます。

と言いますのも、これまで私は通訳現場において様々なヒヤリハット体験や失敗をしてきたのです。たくさんの痛い思いをしつつも多くの教訓を得ることができたのですね。その瞬間は本当に逃げ出したくなるようなことでも、時間の経過とともに、その経験があったからこそ次に同様の状況に陥りそうになっても回避できるというシナリオができたように思います。

ところで危機管理と言えば、イギリスでとある体験をしました。ずいぶん前のことです。

私は幼少期にイギリスの現地校に通っており、中学2年生で帰国しました。その後しばらくは日本にいたのですが、大学生になり、どうしても当時の学校が懐かしく思えたため、旅行のついでにフラリと立ち寄ってみたのです。昔の正門はそのまま、校舎も変わらず、非常に懐かしく思いました。あいにく長期休暇中でしたので、学校には誰もいなかったのですが、昔のことを思い出し、とても幸せな気分に浸ることができたのでした。

それから数年後、今度はイギリスで仕事をすることとなり、また学校を訪ねてみました。その時驚いたのが、警備が非常に厳重になっていたことでした。かつて誰でも開けることのできた門は2メートル以上もあるゲートに取り換えられており、施錠されていました。監視カメラも設置されています。その地域は住宅街で治安も良いのですが、それでも昨今の社会不安を受けての対応だったのでしょう。時代の流れを感じました。

このような対応について私は次のように考えました。たとえ安全な場所であっても、様々なリスクを考えれば、根本のところで安全対策を講じる必要があるということなのです。厳重に守れるところをまずはしっかりとガードしていくことは自衛として必要なことであり、学校という場を守り、児童生徒・教職員の命を守り、保護者に安心を提供する上では必須なのです。

日本では時々、登下校中の児童生徒の列に制御を失った自動車が突っ込むという痛ましい事故が起きています。また、不審者が校内に入り込み、幼い子どもたちが犠牲になるケースも生じています。そのたびに保護者が登下校に付き添ったり、防犯パトロールをしたり、監視カメラをつけたりという対応がなされます。もちろん、これらは大事なことです。

けれどもその一方で、込み合った道路を一方通行にせず、ガードレールもつけずに対面通行の状態にさせておけば、やはり通学路の安全は確保されないままとなります。不審者が入ってくるのがわかっているのに、正門や裏門がいつでも誰でも入れるような開放状態にしておけば、同様の事件が起きないという保証はありません。根本の部分をなんとかせねばいけないと私は思うのですね。

通訳の仕事でも、根本の部分で危機管理をするにはどうすべきか、個々の通訳者は失敗やニアミス体験を通じて自分なりの対応策を講じています。このような考え方は仕事に限らず、日常生活の安心・安全面でも大いに必要だと感じます。私自身、行政のホームページなどを通じてそうした意見をこれまで提示してきたのですが、色々と規制や事情があるのでしょう。なかなか抜本的な改善には至っていません。

だからこそ、一人一人が問題意識を持ち、命を守るにはどうすべきか、根本的解決を見出す上でどのような行動をとれるか、考える時が来ているように思います。
 

(2018年2月13日)

【今週の一冊】
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「美しい世界の傑作ミュージアム」 MdN編集部著、エムディエヌコーポレーション、2017年

大学図書館や公共図書館へ行くと、特設コーナーが設けられていることがよくあります。陳列されているのは新刊本や特集テーマなどです。私は通常の棚だけでなく、そうしたコーナーも欠かさず確認するようにしています。今回ご紹介する一冊は、勤務先の大学図書館の新刊コーナーに置かれていたものです。

もともと建築や美術館・博物館は好きで、関連する本はよく読む方なのですが、「美しい世界の傑作ミュージアム」はオール・カラー版で、世界各地にあるミュージアムが出ています。建築家の名前や竣工などのデータもあり、美術館ガイドとしてだけでなく、建築学の本としても楽しめる一冊です。

日本にも珍しいデザインのミュージアムはありますが、世界に目を転じてみると本当に面白い建物がたくさんあるのですね。どれも魅力的なのですが、曲線の美しいフランスのワイン博物館や海に浮かぶブラジルのニテロイ現代美術館などが本書の中では印象的でした。特にブラジルにはこうした珍しい建物が多いように思います。

一方、ロンドンのテート・モダンはかつて発電所として使われていた建物ですが、近現代美術館として2000年にオープンしました。変電所そのものはジャイルズ・ギルバート・スコットによるデザインです。ネットで調べたところ、Giles Gilbert Scottの他にGeorge Gilbert Scottという建築家もいたようです。私が幼少期に暮らしていたロンドン南部の近所にはGilbert Scott Primary Schoolという小学校がありました。名を冠した学校なのでしょう。懐かしく思い出しているところです。



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プロフィール

柴原早苗

柴原 早苗さん
放送通訳者。獨協大学・順天堂大学非常勤講師。 上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。 ロンドンのBBCワールド勤務を経て現在はCNNj、CBSイブニングニュースなどで放送通訳者として活躍中。 NHK「世界へ発信!ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説を担当。 ESAC(イーザック)英語学習アドバイザー資格制度マスター・アドバイザー。 通訳学校にて後進の指導にあたるほか、大学での英語学習アドバイザー経験も豊富。 著書に「通訳の仕事 始め方・稼ぎ方」(イカロス出版、2010年:共著)、「英検分野別ターゲット英検1級英作文問題」(旺文社、2014年:共著)。 「放送通訳者・柴原早苗のブログ」 http://sanaeshibahara.blog.
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