INTERPRETATION

Vol.15 「1%のひらめきと99%の努力」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】
伊藤実和子さん Miwako Ito
平安女学院短大英文科卒業後、株式会社クボタ入社、鉄工海外輸出部に勤務。社内初の海外出張を経験し、同時期から通訳学校に通い始める。1998年通訳学校同時通訳コース卒業と同時に、フリーランス通訳者として活動を開始。現在、国際会議トップ通訳者として第一線で活躍中。

Q. 語学はもともとお得意だったんですか?

いえ、もともと英語は嫌いだったんです。きっかけは高校1年の時なのですが、当時私は貧血がひどくて入院することになってしまい、それまで熱中していたバレーボールをやめなければならなくなったんです。さてどうしようかと思っていた時に、偶然NHKラジオのテキストを見かけて、これでもやってみるかなぁと軽い気持ちで始めました。やっているうちに面白くなり、朝晩必ずテキストを開いて勉強しました。短大でも英文科に入ったんです。帰国子女でもなく、全て日本で勉強したので、英語に対するコンプレックスもあったんですが。

Q. 通訳を目指そうと思ったきっかけについて教えて下さい。

クボタでは、エンジンやトラクターを海外に輸出している部署で、北米輸出業務を担当しました。英語を使ったのは、海外から電話があった時に取りつぐぐらいでした。総合職ではなかったんですが、上司が大変理解のある方で、いろんな仕事を任せて頂き、海外ビジネスに関しても勉強させて頂きました。その頃から、ビジネス英語を勉強するようになり、上司の薦めもあって海外出張にも行かせて頂きました。仕事自体は非常に面白かったんですが、仕事に対するチャンスは男性に比べて閉ざされているなと感じたんです。それなら、企業の中で上に進んでいくよりも、手に職をつけようと思い通訳学校に通うことにしました。会社に行きながら、夜学校に通う生活を続け、卒業と同時に会社を辞めて通訳者として生きていく決心をしました。

Q. 通訳者としての最初のお仕事は?

米国系テーマパークでのプロジェクト通訳です。エージェントからの派遣で、9ヶ月間仕事をしましたが、最初は本当に大変でした。建築家に付いて通訳をすることになったものの、当時建築の事なんて何も知らないし、ゼロからのスタートでした。いくら通訳学校で勉強したとは言え、生きた英語は全然違うんです。聞いた事は全て書き留めるようにしました。先輩に「こんなことも書いてるの?」とびっくりされたこともあります。その甲斐あってか、周りにも認められ仕事が楽しくなってきたことを覚えています。
七つ道具(パソコン・ストップウォッチ・双眼鏡・イヤフォン・付箋・のど飴・ペン)

Q. 英語に対するコンプレックスがあったと伺いましたが。

最近までありました。小さい時に海外で生活していなかったので、英語に関しては入ってくる情報源が限られていたんですよね。最近ようやくコンプレックスから解放されたんですが、多分それは毎日英語を使っていることと、国際結婚をしているという理由からかもしれません。以前は、外国人とはビジネス間では親しくなっても、個人的に仲良くなることはあまりありませんでした。国際結婚をして、夫の両親や友達と頻繁に会い、プライベートで海外に行くことも多くなったんです。日常的に英語を使う比重が多くなるにつれ、自然とコンプレックスもなくなりました。

Q. 特に印象に残ったお仕事は?

あまりにも仕事をしすぎて思い出すのが難しいんですが、IC発明者であるジャック・キルビー氏(テキサスインスツルメンツ社名誉顧問)の通訳をさせて頂いた際のエピソードが印象に残っています。ノーベル賞を受賞されていて、周りの人も神様のように接していましたが、ご本人は本当に謙虚な方なんです。「どうすればそのような素晴らしい発明ができるのですか?」という質問に対して、エジソンの言葉を引用され、「1%のひらめきと99%の努力」とおっしゃったんです。それを聞いて、あぁ彼のように偉い人でも、そんな風に考えているんだなと感動しました。私も今まで、努力すれば何とかなると思ってやってきたので、本当にお会いできて光栄でした。通訳の醍醐味は、こうやっていろんな方に会えることだなぁと思った瞬間でしたね。

Q. 得意な分野は?

その時々で変わるんですよ。建築から入ったこともあり、どちらかというと技術系が得意です。原子力関係では、よく出張にも行きました。結婚出産を機に出張を控えてからは、通信・半導体を中心に仕事を受けています。最近は本当に多様化していて、一時は環境問題、今は経営や経済、投資が多く、時代とともに請ける通訳内容も変わります。好きな分野についてよく聞かれるんですが、どの分野も分かってくると面白くなるんですよ。スピーカーの意図をくみ取り、自分の言葉で訳せるようになると本当に楽しいです。

Q. プロとして心がけていることは何ですか?

できるだけ前もって勉強することです。簡単な内容でも、事前に勉強しておくと、当日のパフォーマンスが格段に違います。無駄な努力になるかもしれませんが、自分でベストを尽くしたと思えば、「後はもうやるだけ!」という気持ちになれます。事前準備が当日の自信になるんです。それから、状況に応じて通訳をすること。お祭りのようなイベントの時は、正確さよりも、言葉を少々割愛しても場を盛り上げるよう通訳できればいいなと思いますし、逆に技術的なものは落とさないようにします。録音が許可される会議では、自分の通訳パフォーマンスを録音することにしています。自分の英語・日本語の出し方がどうだということだけでなく、マイクを通した声が聞きやすいかどうか、変な「あの、その」が入っていないかが確認できます。今後のパフォーマンスにつながり、非常に役に立ちます。

Q. 家事とお仕事の両立はどうされていますか?

ベビーシッターさんをお願いしているので、彼女との連携さえうまくいっていれば、その他の家事は何とでもなります。仕事と両立するようになって、難しいなと思うのは事前の勉強です。昼間は子供と過ごし、夜に睡眠時間を削って勉強するのは体力的に無理なので、「勉強しながら子供と一緒にいる」ことがうまくできればいいのですが。

Q. 今後のキャリアプランは?

もともとプランを立てないタイプなので、行き当たりばったりです。面白い! と自分が感じることに力を入れてきたので、もし運命があるとしたら、その風が吹いてくると思うんです。そのまま方向転換すれば、別のキャリアが待っているかもしれないし、通訳を続けるとしたら、自分が満足できるまでやりたいと思っています。

<編集後記>
インタビュー後、米国移住されたとのお便りが届きました。米国でも通訳者としてご活躍されていること間違いなしだと思います! NHKテキストの効果的活用法の秘訣は、「ラジオの声をリピートすること。自分の声を録音してみること」だそうです。毎日やらないといけませんよ! とアドバイスを頂き、私も早速スペイン語テキストを購入しました。現在1ヶ月続いております!

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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