INTERPRETATION

Vol.47 「気持ちを伝える仕事」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

【プロフィール】

門脇由佳さん Yuka Kadowaki

 武蔵野音楽大学音楽学部器楽科ピアノ専攻を卒業し、財団法人ヤマハ音楽振興会目黒センターにて専門コース講師を務める。日本駐在の外国人へのピアノ指導がきっかけになり語学への興味が深まり、ピアノ教師と両立しながら通訳学校に通う。その後、保険会社の派遣通訳の経験を経てフリーランス通訳となり現在でも幅広い分野にてご活躍中。

Q.語学との出会いはいつですか?

 中学1年生で英語を習い始めた時の先生がネイティブ以上じゃないかと思うくらいの発音で教えてくださって、英語ってきれいだな~と感動しましたね。その先生との出会いのおかげで英語が大好きになりました。それでも結局は小さい頃からやっていて好きだったピアノの道に進み、ピアノの講師など音楽関係の仕事をしていました。

Q.音楽の仕事でも英語を使われましたか?

音楽関係の方の紹介で初めて日本駐在の外国人にピアノを教えることになったんです。はじめはその一件だけでしたが、口コミで広がったようでいつの間にか生徒さんがみんな外国人になってしまいました(笑)。それから10年近く一日の半分は英語を話しているような生活になりましたね。

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Q.英語で教える事に抵抗はありませんでしたか?

抵抗は特になく引き受けましたが、最初の頃は外国人のレッスンが終わり家に帰ると、疲れで頭がボ~っとしてしまって、2時間くらい頭の解凍に時間がかかってましたね(笑)。生徒のお母さんたちと話す事が多かったんですが、話すスピードも発音も学校の教材で聞いていた英語と随分違うので、聞き取りと理解に本当に苦労しました。そんな頭の痛い生活が1年くらいは続きましたが、そのうち慣れてきて、教える子供やお母さんたちと楽に会話ができるようになったんです。

そしたらちゃんと英語の勉強をしてみようかと思うようになりました。

最初は、英検などの試験を受けていましたが、3~4年たつとやはりそれだけでは足りないと思うようになり通訳学校に通う事を決意しました。最初は通訳訓練のない下のクラスから始まって、続けていくうちに徐々にクラスが上がっていきました。

勿論ピアノの先生を続けながら、特に通訳になるつもりはなく通ってましたね。

Q.音楽・通訳の勉強と同時進行でされていて、いつ比率が逆転されたんですか?

外国人の夏休みは3か月くらいあって、その期間は本国に帰ってしまうので、いつもはその時期に外国旅行などをしていたんです。けれどもある年 ちょうど駆け出しの通訳向けの9時-5時の短期(3カ月間)のお仕事があったのでチャレンジしてみました。それが延長されていって、また自分自身なんだか楽しくて続けたくなりました。最初はその仕事の後に夕方や土日などに生徒を教えていましたが、だんだん完全に通訳業にシフトしてしまいましたね。

Q. 子供のころから大好きだったピアノに勝ってしまった通訳の魅力はなんですか?

ピアノを教えていた時も、小さなお子さんから学生、お母さん、しまいにはお父さんにまで幅広い方に教えていたのでそれはそれで凄く面白かったです。あとだいたいは出稽古だったので、シーズンごとの外国人家庭のデコレーションが楽しかったり、ちょっとした異文化体験、留学のような本当に魅力的な生活でした。ですが、通訳には強力に惹きつけられる魅力がありました。

言葉の通じないに二者の間に立って通訳して、二者が分かりあえた瞬間に立ち会った時に物凄い達成感というかすごい充実間が得られたのです。また、クライアントの方が、「私のスピーチを私が言ったより格調高く訳してくれてありがとう。」とわざわざ言いにきてくれたりした時には、本当にうれしかったです。

それから、通訳をしていくことで自分のテリトリーみたいなものが少しずつ広がる気がします。苦手意識を持っていた分野でも 仕事でいろいろ調べたりして知っている用語が増えると楽しくなるのです。たとえば、もともと私は機械にまったく興味がない人間だったですが、仕事に行くとどうしても機械関係の話が出てきて、「うーん・・」という感じだったのですが、そのうちそんなに嫌でもないかもと思うようになり、最近では家電量販店でおじさんに交じって機械の説明を聞くのが楽しくなってきました(笑)。日々さまざまな業界の仕事に伺うので、こういうことがいろいろな分野であります。

Q. 今でも記憶に残るような失敗談はありますか?

以前の仕事の依頼で、半日に北海道→羽田→九州と2度飛行機を乗り次いで移動した事がありました。その時、少し風邪気味だった上に急激な高度の変化を繰り返したせいか、片耳が完全にふさがって聞こえなくなってしまったんです。それでも通訳する内容は前日とだいたい同じでしたので、聞こえる方の耳にイヤホンを付けて問題なく通訳をこなしたつもりだったのですが、講演の後スピーカーの方から「今日は聴衆の反応が前日と違うけどどうかしたの?」と言われたんです。本当にどきっとしました。自分が気付かないくらいの1秒以下くらい訳出しのタイミングの遅れが 聴衆の反応に影響してしまったんでしょうね。通訳の難しさ、絶妙な間というものの大切さを痛感しました。いいパフォーマンスのための体調管理の重要性を改めて思いましたし、通訳の先輩に言われた「からだを休めるのも仕事のうち。」という言葉がよくわかりました。

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Q. リフレッシュ法:息抜き方法はなんですか?

歩くのが好きで何となくその時の気分でふらっと散歩に出てカフェに入ったり、その延長で旅行に出たりしますね。京都が好きで、駅に着いただけでなぜだか血が騒ぎます(笑)。京都の人たちの伝統を守った暮らし方を見るのが好きです。

また最近は、昔ピアノを教えていた時にアメリカ人に教わったクッキーを思い出して作ったりもします。ぼ~っとしているので、基本的にはいつもリラックスしていますが(笑)。

Q. 将来の目標を教えてください。

通訳の仕事をずっと続けていきたいと思っています。そして、お客様の気持ちを酌んでその人の口になれるような通訳 極端に言うと「イタコ」のような存在になりたいです。いつでも本当にその人が何を言いたいのかを素早く察知して、的確な表現で訳出できるようでいたいと思っています。そのためにはバックグラウンドの勉強・知識、日々の工夫が必要不可欠ですし、ゴールがないので永遠に受験勉強を続けていくような感じですが、それでもいいやと思うくらい通訳の仕事が好きです。

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Q. 通訳を目指す方へのアドバイス

どんなに知識と呼べないようなことでも何でも、どこかで繋がったりするんですよね。

なので、あまり興味がないことでもシャットアウトしないで頭のすみに残しておくと、それがバックグラウンドの知識となって 通訳する時にいつか救われることがあるかもしれません。

また、通訳は英語が喋れれば誰でもできると思われがちですし、もちろん実際にそう通訳もありますが、やっぱり通訳の訓練を受けておいた方がいい場面もあります。自分では訳せているつもりでも本当に伝わる訳になっているのか、というところを客観的な観点からしごかれた(笑)、いや教えていただいた、ということで今になって通訳学校の先生のありがたみをしみじみ思うことがあります。言葉をもうひとつの言語にただ変換するのではなく、真意を伝える事が通訳の役目なのだと思います。そのためには話している方の気持をきちんと理解できなければなりませんし、また訳を出す時には綺麗な日本語にしなくてはいけないので、つい忘れがちになりますが、英語力と同じくらいに 日本語力というのを意識して鍛えることが大事なのではないかと思います。

編集者後記:

とっても雰囲気が柔らかい素敵な方で、お話をしているとつい安心してニヤけてしまいました(笑)。きっと通訳依頼するお客様も、以前ピアノを教えて頂いていた生徒さん達も同じ気持ちだったんだろうなと思いました。どんな知識でもどこかで繋がるというお話を聞き、実際に門脇さんが音楽から語学の道にシフトされたのも、音楽と語学にも目に見えない共通点があったからなのかな~と勝手に想像を膨らませてしまいました。沢山の素敵なお話を有難うございました。

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記事を書いた人

ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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