INTERPRETATION

通訳とブリーフィング

上谷覚志

やりなおし!英語道場

通訳という仕事は資料と事前のブリーフィングがあるかないかで、パフォーマンスが大きく変わってきます。いくら語学ができるといっても、その分野の門外漢なわけですからきちんと確認しないと日本語すらわからないことも珍しくありません。

ブリーフィングでは細かい訳語や不明点の確認だけではなく、スライドの変更やQ&Aの有無の確認や、通訳者の座る場所からスライドがきちんと見え、スピーカーの音声がきちんと入ってくる場所かどうかも確認しますし、会場で急遽スピーカーが気まぐれで持ってきたビデオクリップも“ついでに”訳して欲しいと言われることもありますので、そういう地雷がないかどうかもしっかりと確認していきます。この短い時間でいかに通訳の労働環境を確保できるかで、その日の通訳のパフォーマンスが決まるといっても過言ではありません。

短い時間の中で確認することはたくさんあるのですが、必ず確認することが一つあります。それは“これまで通訳を使ったことがあるかどうか?”です。あったとしても同通なのか逐次なのかも確認して、同通でしか通訳と関わったことがない場合には、2〜3文くらいでテンポよく通訳と交代に話したほうが、プレゼンがスムーズに進みますよ・・・という風に説明し、なるべく短く切ってもらうように念押しをします。同通の場合は、普段よりゆっくり話してもらうようにお願いし、ブリーフィングの時の話すスピードを聞いてこれくらいなら大丈夫とか、早すぎますとかきちんと説明してスピード感をつかんでもらいます。

これで何割のスピーカーがブリーフィングでお願いしたことを守ってくれるのかですが、感覚的には“やられた!”というケースの方が多い気がします。あれだけ短く切るようにお願いしたのに、いざ話し始めると通訳にマイクを奪われまいと必死で話し続けるスピーカーもいて、通訳とスピーカーのマイクの争奪戦のようなプレゼンになることもあります。そうなるとどんどんお互いに話すスピードが増していくわけですから、気の毒なのはそれを聞いている人たちです。スピーカーが準備した内容をきちんと伝えたいという気持ちはよくわかりますが、いくらたくさん話しても、いくら早く話しても通訳がそれをきちんと訳さないと聞いている人にとっては単なる雑音でしかないことを話し始めて忘れてしまうのですね。

また外国人スピーカーに多いのですが、変貌型スピーカーもいます。いい人だと思ったのに・・・という人は案外たくさんいます。5分前のブリーフィングではあんなに穏やかな話し方だったのにいざマイクを握ったら、人間はここまで早く話せるのかと驚くほどのスピードで話す人もいて、速聴教材に使えるのではと思えるほどのスピードのスピーカーもいました。

また訛りの強いとされる地域出身の人たちがスピーカーの時には特にブリーフィングの時点でどの程度訛りがきついか確認し、あまりにもきつい場合には、少しだけアクセントに注意をして話して頂くようにお願いします。ブリーフィング時点で思ったより訛りがきつくないと安心したのもつかの間、さっきまでのクリアな英語はどこにいった???さっきの英語で話してくれ!!!とブースの中で叫ばないといけないようなケースも多々あります。緊張すると訛り炸裂になり、ひどい場合には通訳不能になることもあります。なぜ見抜けなかったんだろうと自分の未熟さを恨んでも仕方ありません。サンドバックのように強烈な訛りの応酬を受け、終わったころには文字通りフラフラです。そういう仕事の帰りは、どうやったらあの訛りとあのスピードに対応できるんだろう・・・と当てのない反省スパイラルで家路につき、また次の仕事で同じようなブリーフィングルーティンを繰り返していきます。いつになったらスピーカーの品定めができるようになるんでしょうね・・・。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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