BLOG&NEWS

スカボロー・フェア/詠唱

仙人

通訳・翻訳者リレーブログ

『明日に架ける橋』が大ヒットしていたとき、レッド・ツエッペリンのほうが絶対かっこいいと主張し続けるロック少女だった私は、同年代の人の中では比較的、サイモン&ガーファンクルへの思い入れは強くありません。でもポール・サイモンの才能はすごいと思うし、有名な曲は今でもほとんど歌詞を見ずに歌えます。ただ、好きなのは『僕とフリオと校庭で』とか『僕のコダクローム』みたいなポップな曲です。
まるで関係ないところから入ってしまいましたが、また選挙騒音に悩む日々です。前に選挙活動への苛立ちをここで話したとき、タイトルを”The Sound of Silence”にしてしまって、今回は『スカボロー・フェア』。理由はですね——ラウドスピーカーの絶叫に会議などが中断し、日本にそれほど慣れていない外国の人から「あの音は何?」と聞かれることも多くあり、答えるわけです——「選挙です」「何を叫んでいるのか?」「基本的に候補者の名前と……」ここで『スカボロー・フェア』が関係するんです。私の中でだけの話ですが。
S&Gのアルバムを買った当時、中学二年生だった私は、歌詞カードの対訳の「そこに住む人たちによろしくと言ってくれ」という言葉で、初めてremember me to (somebody)という言い方を覚えてしまったため、「よろしく」でつい、”remember me to one who lives there”と頭の中に浮かぶのです。
選挙騒音に話を戻します。世界中、こんなひどいことになる国ってあるのでしょうか? ここまで選挙騒音がひどい原因のひとつに、日本語には「よろしくお願いします」という言葉自体には意味を持たない文章が存在するからではないかと思っています。英訳では「よろしくお願いします」は、無視する文の代表ですが、他の言語、とくに他のアジア系言語、たとえばタイ語とかベトナム語には、似た表現はあるんでしょうか? あったらきっとその国では選挙騒音がひどいに違いないぞ! しかしですね、通常は訳さない「よろしく」ですが、選挙カーの「よろしくお願いしまーす!」って本来の意味通り、Remember meだと思いません? よろしく伝えるではなくて、心に留めて、覚えてねという意味で。

Written by

記事を書いた人

仙人

大学在学中に通訳者としての活動を開始。卒業後は、外資系消費財メーカーのマーケティング分野でキャリアアップ。その後、外資系企業のトップまでキャリアを極めた後、現在は、フリーランス翻訳者として活躍中。趣味は、「筋肉を大きくすることと読書」

END