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海外ドラマの吹替えは素晴らしい

アース

通訳・翻訳者リレーブログ

突然ですが、海外ドラマの吹替えが大好きです。いえ、海外ドラマの内容そのものももちろん好きなんですが、日本の吹替え業界ってすごい!!!といつも感心しています。いったいどれほど多くの人々が関わり、どれほどの時間をかけて(あるいは少人数で、時間をかけないで?)、あの素晴らしい吹替え版を制作しているのかと考えると、翻訳を生業としている者として、気が遠くなります。

わたしは字幕翻訳や吹替え翻訳に関する知識は一切ありませんが、他の分野と同じように、翻訳作業そのものだけでなく、日本の放送で受け入れられるように手を加えたり、若干の演出を加えたりする作業も多数あるのだろうと想像できます。

それから声優さんたち。前に我が家の近所に住んでいたアニメ・ゲームオタクのアメリカ人のおにいさんから聞いた話では、アメリカのアニメ声優は「ダメダメ」なので、わけわからなくても日本語で聞くのが「真のオタク」なのだそうです。それぐらい素晴らしいってことなのでしょう。

※ぜんぜん関係ありませんが、そのおにーさん(推定20代後半)、左腕全体に「スーパーマリオ」の入れ墨をしていました。ボディペインティングとかじゃありません。本物の入れ墨で、マリオとクッパ、キノピオが忠実に再現(?)されていました。特にキノピオがなんとも愛らしい。年取ったらどうするんだろう・・・

さて、吹替え。

声優さんもすごいですけれど、やはり翻訳者の立場としては、これ以外ありえないでしょ!!!と言いたくなるような日本語表現にいつも感心しています。翻訳者さんの考える訳文そのものが素晴らしいこともあるでしょうし、最後に全体に目配りをする立場の人(誰だか分かりませんが)が、えいっと考え出すこともあるのではと想像しています。

クライアントさんが手を入れた完成版を見て、わたしも翻訳者として最初からその表現を考えつければ、と忸怩たる思いをすることもあるのですが、やはり最後に全体に目を通す立場の人だからこそ考えつける言葉もあるので、ある程度は仕方ないのだろうと思います。(実務翻訳の場合、クライアントの担当者さんはその業界にどっぷり浸かっているわけで、だからこそ考えつける部分もあるのでしょう。翻訳者はできる限りそれに近づくよう努力するわけですが…先は長いです。嘆息)

特にわたしの場合は、いつも堅い文章ばかり訳しているので、会話調の文章を訳すときの自由度の高さはうらやましいと感じます。しかしこれは逆に言えば、選択肢があり過ぎて困る、ということでもあるのでしょうね。

もうひとつ、海外ドラマを見ていておもしろいのは、時代の変遷が感じられること。

例えばわたしは「刑事コロンボ」が大好きなのですが、第1作目の「殺人処方箋」は1968年制作と、はや半世紀前の作品です。1960年代といいますと、日本では「キイハンター」とか「白い巨塔(当然ですが古い方)」の時代。

ですから言葉自体、古くて当然なのですが、日本の視聴者には理解不能、または受け入れられないと考えたか、はたまたどうしても訳せなかったかで、今だったらまずいでしょ、と思えるような表現が出てきます。

有名なところでは「ほとけさん」。海外小説などでも、殺害された被害者のことを「ほとけさん」と訳すことがあるようですが、現代の海外ドラマでは、さすがに聞きません。例えばFBIの行動分析課の活躍を描いた「クリミナルマインド」で、チームメンバーが「ほとけさん」と言ったら、たぶん視聴者(というかわたし)はテレビの前でひっくり返ることと思います。しかしコロンボの場合、初代声優の故・小池朝男さんのうまさか、そもそも時代を感じさせる映像のせいか、いま聞いても何の違和感もありませんから、不思議なものです。

他には例えば、「黒のエチュード」という作品で、容疑者の大邸宅を訪ねたコロンボが、
「見事な居間だ! 30畳はありますねえ」
と言うんです。恐らく70年代に初めて吹替え版が放送されたときには、誰も違和感を覚えなかったでしょうし、今だって、「畳」は日本人にとって感覚的に分かりやすい単位ではあります。しかし例えば「ミッション:インポッシブル」の最新作で、トム・クルーズが「30畳」なんて言ったら、それこそ視聴者はひっくり返ることでしょう。(日本好きのトム・クルーズならあり得る!?)

「美食の報酬」という作品では、容疑者の友人がコロンボを紹介されて、
「刑事と言われると、警視庁の方ですか?」
と聞きます。アメリカに警視庁、ないし(笑)。でも当時は、そう説明するのが分かりやすい、と考えたのかもしれません。

いま手元に英語版がないので、実際になんと言っているのか分からないのが残念ですが、いつか絶対確認してみたいと思っています。

もう一つありました。「愛情の計算」では、被害者の妻にコロンボが
「ご主人はとてもその、あー、組織的な方でしたね。研究室はきちんと整頓されてるし」
と言うんです。組織的??って思いますよね。

これまた英語が手元にないので分かりませんが、おそらくはsystematicと言っているのではないかと思います。(ピーター・フォークの口元からは読み取れませんでした)

文脈からいって「几帳面」で良さそうですけれども、辞書に載っているsystematicの第一義は「組織的」ですから、これにひきずられてしまったのでしょうか。systematic自体、それほど新しい言葉ではないようですので、当時のスタッフさんたちがニュアンスをよく分かっていなかったとは考えにくく、なぜ他の表現にしなかったのか、経緯を聞いてみたいものです。

なお、コロンボの階級はLieutenantで、辞書には通常「警部補」とあるのに、日本では「コロンボ警部」で定着していることは、知る人ぞ知る話です。ま、”Lieutenant! Lieutenant!”と繰り返し呼びかけている場面で、「警部補!警部補!」と言うのもしまりがありませんから、「警部」にしてしまって、たぶん正解だったのでしょう。そもそもアメリカの階級を日本に当てはめることに無理がありますし。

それにしても、大胆といえば大胆。このくらいの自由度が金融翻訳にもあったらなあ、とつくづく思います。

「いろんな国の中央銀行が、お金をじゃぶじゃぶに出したもんだから、企業は借金しまくるし、投資家はもうみんなウハウハで、株式市場とか社債市場とか、そりゃもう上げっぱなしよ」

とか。わりと分かりやすいと思うんですけど、ダメ?

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記事を書いた人

アース

金沢在住の翻訳者(数年前にド田舎から脱出)。外国留学・在留経験ナシ。何でも楽しめる性格で、特に生き物と地球と宇宙が大好き。でも翻訳分野はなぜか金融・ビジネス(英語・西語)。宇宙旅行の資金を貯めるため、仕事の効率化(と単価アップ?!)を模索中。

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