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第23回 株式ファンドの四半期運用報告書④

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。前回まで、株式ファンドの四半期運用報告書のうち、「市場概況」「運用成績」「ポジショニング」と見てきましたので、今回は「パフォーマンスへの寄与要因」を訳して、このシリーズを終えたいと思います。

これまで見てきたように、「市場概況」は、経済・市場の全般的な動向や、市場に影響する経済以外の要因(政治やテロ、天候など)についての概説、「運用成績」は、報告対象となる期間(当期)にファンドがどの程度のリターン(利益)を上げたか、あるいは損失を出したか、「ポジショニング」は、どの資産にどの程度のウェイトで資金を振り向けているかを説明する部分でした。今回見て行く「パフォーマンスへの寄与要因」は、個別の株式や債券、戦略がファンドのパフォーマンスに貢献したか、逆に足を引っ張ることになったのか、そうだとすればどの程度か、などの説明をする部分です。

個別の銘柄や戦略が良い/悪い成績だったので、このポジションを①引き続き保有、②積み増し、③削減、④クローズ(解消)するなどの判断につながるわけです。また良好なパフォーマンスが見込めそうな銘柄や戦略があれば、そのポジションを⑤開始/構築することになります。

それでは今回の課題を見てみることにしましょう。

【課題】

The Fund’s allocations to international stocks and domestic large-cap stocks contributed to performance, as both strategies outperformed the Fund’s benchmark.

まずallocationsは、asset allocation(資産配分、アセットアロケーション)という言葉があるように、資産をどの資産に配分するかということ。クライアントの好みに合わせる必要がありますので、一概には言えませんが、文脈によって「ポジション」「戦略」としたり、あえて訳さなかったり、説明的に訳したり、いろいろです。

international/domestic stocksは「グローバル株式」と「国内株式」。説明的に「世界の株式」「国内の株式」などとすることもあります。「株式」は「銘柄」でもOKです。(「インターナショナル株式」という日本語は、わたしの経験では見たことがありません)

またこのファンドが米国のファンドであるとすると、当然ながらdomesticは「米国の」ですから、「米国株式/銘柄」も可です。

large-cap stocksは「大型株」。

以前も説明しましたが、large-cap equities(大型株)は時価総額が大きめの銘柄ということ。大型株は発行株式数が多いため、流動性が高く(つまり売りたい/買いたい時に売りやすい/買いやすい)、株価が安定しやすいという特徴があります。逆にsmall-cap equities(小型株)は株価が変動しやすいため、運用次第では高いリターンにつなげることができる反面、損失も大きくなる傾向があります。

benchmarkは、ファンドや投資信託が運用の参考としている指標のことです。日本株式の運用時の指標としては、日経平均株価やTOPIX(東証株価指数)、米国株式市場では「S&P 500種指数」「ダウ工業株30種平均」などがよく用いられます。例えば当期のS&Pの成績が+2%のところ、そのファンドの成績が+5%であったならoutperform、+1%であったならunderperformとなります。訳としては、「ベンチマーク」「参考指標」など。

次にstrategies。日本語で「戦略」というと、なにやら大仰で、複雑な操作が必要な感じがしますが、今回の場合はシンプルに「世界の株式」「国内(米国)の大型株」にallocations to=資金を配分、すなわち「購入する」ことを指しています。

ファンドによっても異なりますが、要は、個別の銘柄(例:トヨタ株、Apple社債、米国10年国債など)ではなく、幾つかの資産をまとめて運用する場合に「戦略」と呼ばれることが多いように思います。今回のように「米国の大型株を購入する(ロングする)」といったごくシンプルなものもあれば、複数の資産クラス(株式、債券、為替など)を購入(ロング)/売却(ショート)し、さらにはオプションなどデリバティブ(派生商品)を絡み合わせるなど、非常に複雑な手法も存在します。一つのファンドの中で、複雑怪奇な「戦略」が何十も存在し、それらを理解するだけで一苦労、ということもあります。これについては、いつかお話できればと思います。

さて、内容の理解だけでずいぶんと紙幅を使ってしまいました。以上を頭に入れ、ですます調で訳してみましょう。

The Fund’s allocations to international stocks and domestic large-cap stocks contributed to performance, as both strategies outperformed the Fund’s benchmark.

【試訳】

・「グローバル株式」戦略および「米国大型株」戦略がパフォーマンスにプラスに寄与しました。いずれも当ファンドのベンチマークをアウトパフォームしたことが背景にあります。

・「グローバル株式」戦略および「米国大型株」戦略がいずれもベンチマークを上回って推移した結果、当ファンドのパフォーマンスにプラスに寄与することとなりました。

contributed to performanceは「パフォーマンスに貢献」ですが、運用報告の場合、多くは「貢献」でなく「寄与」という単語を使うことが多いように思います。

また今回は文脈から「プラス方向」の貢献であることが明らかですので、「プラスに寄与」としました。英語でもcontributed positively/negativelyとなどと表現することがあります。negativelyの場合は当然ながら「マイナスの寄与」です。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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