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カンタン法律文書講座 第十七回 よく登場する法律・条約・規則・機関など(1)

江口佳実

カンタン法律文書講座

英米法によるカンタン法律文書講座
第十七回 よく登場する法律・条約・規則・機関など(1)

契約書などの法律文書には、特定の法律や条約などに言及されることがあります。そこで、今回と次回の2回にわたって、契約書の中でよく登場するものをいくつかご紹介します。

◆United States Code  合衆国法律集

合衆国憲法および、連邦議会が制定する法律で現在有効なものを、系統的に編集した法律集です。U.S.C. とか U.S. Code と省略されて表記されることが多いです。
U.S.C. は、様々な連邦制定法、たとえば Securities Exchange Act of 1934 (1934年証券取引所法) を Title 15 の Chapter 2Bというように種類別・内容別に番号を振って並べ替えてあり、場合によっては、同じ Act でも、別々の場所に配置されていることもあるそうです。
この法律集は6年ごとに改訂されます。
翻訳する時に注意するのは、U.S.C. が全体で50の編 (Title) に分けられており、さらにそれが章 (Chapter)、条 (section) などに細かく分けられていることです。
その区分を上から順に並べると、
Title – Subtitle – Chapter – Subchapter – Part – Subpart – Section – Subsection – Paragraph – Subparagraph – Clause
となりますが、引用される時に使われるのはTitle、Chapter、Section くらいまでです。
たとえば、section 1030 of title 18, U.S.C. となっていれば、「合衆国法律集第18編1030条」と訳します。これはもっと縮めた表記で 18 U.S.C. § 1030 という形で書かれる事も多いです。Chapter 47 of title 18, U.S.C. であれば、「合衆国法律集第18編47章」です。上記の1030条は47章の中にあります。

【例文】

All reproduction and distribution of such printouts, and all downloading and electronic storage of materials retrieved through the Products, is subject to the Copyright Act of 1976, Title 17 U.S.C. and other applicable intellectual property laws.

【訳文】

かかるプリントアウトの複製および配布、ならびに本製品を通して取り出された資料のダウンロードおよび電子的な保存は、合衆国法律集第17編、すなわち1976年著作権法および、その他の適用される知的財産権関連法規に従う。

◆Chapter 11 更生手続き/合衆国破産法第11

【例文】

ABC Inc. announced on Monday that it had filed for Chapter 11 bankruptcy protection as it seeks to reorganize and re-emerge from its financial woes.

【訳文】

ABC社は月曜、自社の再建を行い財務上の問題から立ち直るために、チャプター11の破産保護申請を行ったと発表した。

上記の例文は、法律文書ではなく新聞などの報道文です。
それだけ Chapter 11 はすでに一般用語化しているということなのですが、もともとは、the United States Bankruptcy Code の第11章、Chapter 11 であることから来ています。
このBankruptcy Code は、上記U.S.C. のTitle 11 です。
「11」が重なってややこしいのですが、Chapter 11 の「11」は、Bankruptcy Code の中の「第11章」の「11」です。

上の例文のような一般の読み物の場合は Chapter 11 =破産、と考えて読まれるでしょうが、厳密には単なる破産というより、会社更生に向けた手続きです。

契約書では、次のような条文でChapter 11 が登場することがあります。

【例文】

Except as expressly provided in Article 5 hereof, this Agreement shall be automatically terminated immediately when any of the following occurs:
a)……
b)……, and
c) Commencement, voluntary or involuntary, of proceedings in bankruptcy for one of the Parties, including filing under Chapter 11 of the U.S. Bankruptcy Code.

【訳文】

本契約書の第5条に明記される場合を除き、本契約は、次のいずれかが発生した場合、直ちに解除されるものとする。
a)……
b)……
c) 合衆国破産法の第11条に基づく申請を含め、一方当事者の任意または強制の破産手続きの開始。

◆Uniform Commercial Code  統一商事法典

U.C.C. と略称されます。うっかり上記のU.S.C.と混同しないように。
米国には連邦議会が定めた法律の他に、各州の法律があります。商取引に関連する法律では連邦法がカバーしていない分野も多く、その場合は州法に基づくことになるのですが、各州がばらばらの法律を制定していると混乱も生じます。
そこで作られたのがこのU.C.C. なのですが、実は議会を通した正式な法律ではなく、法律案なのです。でも、1954年のペンシルバニア州を筆頭に、各州がこの法案の採択を進め、現在、ルイジアナ州だけが一部採択していないことを除けば、他の全49州での採択が完了しています。

内容は、商取引の初めから終わりまでの全般について規定されており、次の11編から構成されています。

第1編:総則、第2編:売買、第2編A:リース、第3編:流通証券、第4編:銀行預金及び銀行取り立て、第4編A:資金移動、第5編:信用状、第6編:詐害的大量売却、第7編:倉庫証券・運送証券その他の権原証券、第8編:投資証券、第9編:担保取引—売掛債権及び動産抵当証券の売買、第10編:施行期日及び廃止規定、第11編:経過規定。

【例文】

Buyer shall promptly execute and deliver such documentation as may be reasonably required by Seller to perfect Seller’s security interest under the Uniform Commercial Code or any other relevant statute, law, or regulation.

【訳文】

買主は、統一商事法典、またはその他すべての該当する制定法、法律または規制に基づく売主の担保権を完成させるために、売主の妥当な要求に従い、かかる文書を速やかに作成および交付するものとする。

◆Incoterms  インコタームズ

インコタームズは、国際商業会議所 (International Chamber of Commerce = ICC) が制定した、国際的な商取引慣習として世界的に使用されている標準的貿易取引条件についての国際規則です。1936年の最初の規則制定から6回の改訂を経て、今現在有効なのは、2000年1月に発効した「インコタームズ2000」です。「国際的な商業用語」=International Commercial Terms、略してIN CO TERMS です。

インコタームズでよく使われるのは、FOB、CRF などの、全部で13種類の貿易条件です。
そのうちよく使用されるのは次の3つでしょうか。

◆FOB (Free On Board) 本船甲板渡し条件
売主は、輸出地港で本船に荷物を積み込むまでの費用を負担し、それ以降の費用およびリスクは買主が負担します。

CFR (C&F Cost and Freight) 運賃込み本船渡し条件
売主は、輸出地港で本船に荷物を積み込むまでの費用と海上運賃を負担し、それ以降の保険料とリスクは買主が負担します。

CIF (Cost, Insurance and Freight) 運賃・保険料込み本船渡し条件
売主は、輸出地港で本船に荷物を積み込むまでの費用、海上運賃と保険料を負担し、それ以降のリスクは買主が負担します。

これ以外に、次の条件も使われることが多いものです。
EXW (Ex Works) 出荷工場渡し条件
FCA (Free Carrier) 運送人渡し条件
DDU (Delivered Duty Unpaid) 仕向地持ち込み渡し・関税抜き条件
DDP (Delivered Duty Paid) 仕向地持ち込み渡し・関税込み条件

インコタームズについてきちんと理解するには、貿易実務関連の参考書をご覧になるといいでしょう。たとえば、『貿易実務ハンドブック』(日本貿易実務検定協会 編) などがあります。

FOB、CFR などの条件を述べる時は、その後にポイントとなる場所の地名を書きます。
FOBなら輸出地港名、CFR、CIF なら輸入地港名です。地名にはカッコなどをつけません。FOB Yokohama のように表記します。

【例文】
All prices stated herein are FOB Los Angels, CA, USA and title and risk of loss to each article of goods sold hereunder shall pass to Buyer upon delivery to carrier at FOB point.

【訳文】

本書に明記される価格はすべて、FOB米国カリフォルニア州ロサンジェルス条件であり、本契約に基づき販売される物品の個々の品目の権原および損失の危険は、FOB出荷地点で運送人に引渡された時点で、買主に移転するものとする。

◆UN Convention on Contracts for the International Sale of Goods 国際物品売買契約に関する国連条約 (ウィーン売買条約)
ウィーン売買条約は、国際連合国際商取引委員会(UNCITRAL)によって起草され、1980年にウイーンで開催された外交会議で採択された条約で、国際的な物品売買についての統一法を目指したものです。
米国、フランス、ドイツなど、世界の50数カ国が加盟しているのですが、なぜか日本はまだ加盟していません。

契約書では一般条項として、その契約で準拠する法律が何であるかを決めておく、「準拠法」の条項が定められます (以前、6回『契約書に登場する代表的な条項とその特徴(4)』で勉強しましたね!)。契約の相手方がこの条約の加盟国の企業で、準拠法が相手方の国の法律とされると、この条約が適用されることになるかもしれません。

この条約は保証期間などいくつかの点で、日本を含め今までの各国の法律よりも買手に有利な規定があるためでしょうか、私が普段、翻訳で取り扱う契約書には時々、準拠法の条項に次のような条文が挿入されていることがあります。

【例文】
The application of the UN Convention on Contracts for the International Sale of Goods is hereby expressly excluded.

【訳文】

国際物品売買契約に関する国連条約の適用は、ここに明確に排除する。

このように、このウィーン売買条約だけでなく、特定の法律や条約が適用されることを排除したい場合、あるいは逆に、特定の法律・条約が適用されることを確認したい場合は、契約書に明確にその法律名や条約名を挙げた条項を作っておきます。
法律名や条約名の和訳には定訳があるものと、そうでないものがありますので、和訳する際には注意が必要です。

 

さて、有名どころの法律や条約などをいくつか挙げてみましたが、いかがでしょうか。
一つひとつの法律や条約の中身に深入りする必要はないかもしれませんが、おおまかな内容や特徴、成り立ちなどを頭に入れておくと、契約書などで登場した時にもすっと条文の意味が理解できますし、誤訳のリスクも避けられるでしょう。
次回はもう一度、法律や規則について取り上げてみます。お楽しみに!

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記事を書いた人

江口佳実

神戸大学文学部卒業後、株式会社高島屋勤務。2年の米国勤務を経験。1994年渡英、現地出版社とライター契約、取材・記事執筆・翻訳に携わる。1997 年帰国、フリーランス翻訳者としての活動を始める。現在は翻訳者として活動する傍ら、出版翻訳オーディション選定業務、翻訳チェックも手がける。

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