INTERPRETATION

通訳美人道「15.通訳美人の脳トレ術」

柴原早苗

通訳美人道

通訳美人道 通訳美人の脳トレ術
第1カ条 通訳業に資格・検定は必要?
 通訳学校で教える際、受講生から必ず出る質問があります。それは「通訳業に資格や検定は必要か?」です。答えはイエスでもあり、ノーでもあります。
 
まず、通訳者は医師や弁護士と異なり、国家試験は不要です。つまり、経験を十分積み重ね、それを実証できればすぐに仕事ができるわけです。自動車免許証でさえ数年ごとに更新があることを考えると、通訳業というのはまさに自己責任。試験が苦手な人にとってはこの上なく嬉しい職業ですが、逆に試験がないことに安心して勉強を怠れば、通訳力の向上も難しくなります。
 
そこで今回の美人道では、自己研鑽としての検定活用術についてご説明しましょう。
第2カ条 英語通訳者をめざすなら、まず英語関連の試験から
 世の中はまさに資格試験ブーム。「資格ナビ」(http://shikaku-navi.jp/)によると、国家・公的・民間資格を合わせると現在は820種類もの資格があるそうです。この中からどの検定を選ぶか決めるのも一苦労。そこでまずお勧めしたいのは、「自分の学習言語のものから徹底的に受ける」ことです。たとえば英語通訳者をめざすのであれば、英検、TOEIC、TOEFL、国連英検などに焦点を当てます。
 
私自身、通訳デビュー当時からペースメーカーとして年に一回は英語関連の試験を受けています。もちろん、不合格や成績不振なども数知れず。でも受けなければますます自分の実力が客観的に判断できません。このため、あえて受けることで自分のレベルを把握するようにしています。
第3カ条 試験に慣れてきたら、自分の好きな分野の検定も
 学生時代以降、テストは受けていない方にとっては試験そのもので緊張してしまうでしょう。でもこれも慣れの問題。何度も検定試験を受けていると、会場の雰囲気や試験中の時間配分なども自分なりに対応できるようになります。そこで、語学関連の試験が一段落したら、ぜひ趣味分野の検定も受けてみましょう。私の場合、放送通訳業務にも携わっているため、アナウンス検定を受けたり、また、日本語にも関心があるので漢字検定も受験したりしています。今の時代、アロマセラピーからスポーツ関連の資格まで、実に多様な検定がありますので、趣味と勉強をかねて受験してみると、新たな発見があると思います。
第4カ条 狙い目は新しい検定
 800種類以上の検定がある中、今後も資格ブームは続くと言われています。しかし毎日忙しい中、勉強時間を見つけるのもなかなか難しいですよね。そのような方は、合格率の高い新しい検定を狙ってみてはいかがでしょう?新しい検定は受験者数も少なく、実施からまだ日が浅いため、伝統的な検定と比べてさほど合格基準も定まっていません。主催側もまだまだ様子見の段階なのです。主催者にしてみれば「やみくもに合格者を出しても良くないけれど、あまりにも合格率が低いと最初から敬遠されてしまう」と考えるのが本音のはず。そうした検定を探してチャレンジしてみましょう。
第5カ条 勉強方法は、やはり過去問題集
 検定試験の勉強法は、やはり過去問題集が一番便利です。書店へ行くと対策本や
テキストなど多く売られていますが、まずは過去問を一通り解くのがお勧めです。そうすることで、出題内容や傾向などがつかめます。
 
過去問に取り組む際は、最新の年度からやってみましょう。きちんとタイマーを使って制限時間内で解いてみます。その後は答え合わせをして正答率を算出します。次に、自分の得点と試験要綱に出ている合格基準点を照らし合わせてみてください。
たとえば要綱に「合格基準点は正答率60%以上」と出ていた場合、過去問でもそれを上回っていなければいけません。
 
こうして最初に過去問を解くことで、試験そのものの手ごたえや合格の目安がわかってくるはずです。
第6カ条 知らない言語第6カ条 あとはひたすら過去問題集をやる
 最新年度の過去問題を終えて答え合わせがすんだら、あとはひたすら過去問題集をやっていきます。引き続き、年度をさかのぼって試験問題に慣れていきましょう。繰り返し解くことによって、出題頻度の高い問題にも遭遇するはずです。その部分は出題側からすれば「必ず正解してほしい問題」とも言えます。
 過去問題を解く際に大事なのは、全問正解をめざすのではなく、合格基準点をめざすこと。間違ったことばかりに意識がいってしまうと、全体が見えなくなってしまいます。あくまでも大事なのは合格することなので、この際、完ぺき主義は捨てて、どうすれば効率的に基準点を上回れるかを考えていきましょう。
第7カ条 できれば毎日コツコツと
 勉強時間を自分のスケジュールのどこに組み込むかは、忙しい日々を送る人にとって至難の業かもしれません。あまりにも前から試験勉強を始めて試験日当日までに飽きてしまってもいけませんし、かと言って、短期集中で太刀打ちできるとも限りません。
 
私の場合、たいてい1ヶ月前に試験プランを立て、集中的に勉強しています。もちろん、試験内容にもよるのですが、色々と試してみた結果、1ヶ月間というのが長すぎず短すぎずでちょうど良いようです。それ以上前からだと、「まだ時間があるから大丈夫」とダレてしまい、一方、2~3週間だけでは時間切れになってしまいます。1ヶ月というのは「ここで集中しないと間に合わない!」という逼迫した状況にもなるので、私には合っているようです。
第8カ条 ごほうびを設ける
 それでも試験勉強というのは何かと単調であり、試験終了まで落ち着かないものです。そこでお勧めしたいのが、ごほうびを定期的に設けること。たとえば、「去年の過去問を終えたら、好きなDVDを見る」とか、「単語の復習がすんだら、買い物に出かける」などです。
 
なお、究極のごほうびは試験日にとっておきます。試験会場からの帰路、ケーキを食べるのでも良し、エステに行くでも良いですね。ちなみに私の場合は歩くのが好きなので、会場から1時間以上歩いてタウンウォッチングをするのが「ごほうび」です。普段、仕事と家事と育児であわただしい日々を送っているため、毎回異なる試験会場を後にして知らない街を歩くのは、私にとってこの上ない喜びなのです。
第9カ条 合格したら履歴書に必ず記載を
 検定試験に合格したら、ぜひ履歴書に記載しましょう。私はワードに履歴書を打ち込んでいますが、これなら追加修正がすぐにできます。この履歴書は、毎年年度末にお世話になっている通訳エージェントさんやクライアントさんにメールでお送りしており、過去一年間、自分がどのような仕事に携わり、また、どんな検定試験を受けてきたかをお知らせしています。
 
定期的に履歴書を更新することによって、自分の仕事や勉強の棚卸ができますし、それが次への努力につながると思います。
第10か条 資格試験は印籠ではない
 通訳業は経験がすべて。それまでどれだけ実績を積んできたかで評価される世界です。つまり、いくら検定で高得点を取っていても、それが即仕事に結びつくわけではなく、資格試験は「水戸黄門の印籠」でもないのです。
 しかし、試験勉強を通じて得ることはたくさんあります。たとえば、限られた時間で予習をすること。これは通訳業のように、直前に大量の資料を渡されて集中して予習することに通じます。また、試験勉強の際、どこが重要かをすばやく把握する必要がありますが、これも通訳の勉強に応用できます。様々な試験を受けることで、多様な分野に関心を抱くことは、好奇心が求められる通訳業にも通じます。
 ぜひみなさんも、検定試験を通じて興味の対象を広げ、通訳の勉強へと結びつけてくださいね。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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