第354回 読者であることも伝手になる
先日、「SNSをやっていない作家さんに連絡を取るにはどうすればいいですか?」というご質問をいただきました。その作家さんとは、かつてのクラスメイトとのこと。卒業後は特に連絡を取っていなかったけれども、作家として活躍していることを知り、作品のテーマがちょうど個人的な関心とも重なったので、読んでみたそうです。そのことを伝えたいけれど、SNSはやっていないようなので、どう連絡を取るのがいいのか悩んでいたのです。
最近はSNSをやっている作家さんも増えたので、割と気軽に連絡が取れるようになりましたが、やっていない場合は急にハードルが上がるかもしれません。
こういう場合、出版社あてに手紙を送るのがいちばんいいとお答えしました。編集者さんがいったん開封して確認したうえで、作家さんに届けてくださいます。
ただ、刊行後かなり時間が経っていたり、あまりお付き合いのない出版社だったりすると、スムーズにいかないことがあります。担当編集者さんがいなくなっていたり、その作家さんの現住所を把握していなかったりするからです。
そのため、最新刊の版元や、多数作品を刊行している版元を選ぶようにします。それなら、頻繁にその作家さんと連絡を取っているはずなので、比較的すぐ手元に渡ることでしょう。
これは、翻訳家の場合でも同様です。SNSで作品の感想を伝えることもできますし、それはもちろんうれしいものですが、手紙のインパクトにはやはりかないません。石井ひろみさんのインタビュー記事の中にも、熱いお便りが心に残った話が登場していましたが、簡単に連絡が取れてしまう時代なだけに、手間暇のかかることは強く印象に残るのです。
「翻訳関係の知人がいなくて、伝手がない」という方がいますが、それなら、自分が好きな翻訳家の方に手紙で感想を送ってみてはいかがでしょうか。作品を深く読み込んで、感想を言語化して送るというのはなかなかハードルが高いものですが、その分できる方も少ないだけに、印象に残ります。
そして、読者として作品と向き合う姿勢は、翻訳家としての資質にもつながっています。どれだけ深く作品を読み込めたかは、翻訳家として原書を読み込むときにも通じることですし、感想をどう言語化できるかも、どんな翻訳表現ができるのかをそのまま表します。
だからこそ、そこで築ける信頼関係があるのです。
何冊もそれを続けているうちに、直接やり取りできるようになることもあるでしょう。企画についてご相談できる関係になるかもしれません。何より、毎回感想を書いて送るプロセスそのものが、ものすごく勉強になるはずです。なんといっても翻訳した本人が読んでくれるのですから、感想を書くにも相当な緊張感を持って取り組むことになるでしょう。
ただ、注意してほしいのは、「下心で動かないこと」です。「この人と親しくなったら出版社を紹介してもらえるかもしれない」と思って動くのではなく、純粋に自分が「この方の翻訳は素敵だなあ……こんなふうに訳せるようになれたらいいなあ」という憧れや好意で動くことです。
利用しようと思って近づいてくる相手を、うれしいと思う人はまずいないでしょうし、下心はやはり透けて見えるものです。気持ちに濁りがあると、関係性を築くことは難しいでしょう。
その点は忘れずに、「読者であること」の可能性を切り拓いてみてください。
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