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実践!法律文書翻訳講座 第八回 第八回 日付・期間・数量など その1

江口佳実

実践!法律文書翻訳講座

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第八回 日付・期間・数量など その1
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今回は、日付や期間、数量などの表現です。
これも今まで3回にわたって取り上げてきた、「一見簡単そうな表現」の一部なのですが、契約の重要な部分にかかわることがあるため、注意が必要です。

まずは前回の宿題。

【例文】


1)
Any and all claims, disputes, controversies or differences arising between the parties hereto shall in the first instance be attempted to be settled by good faith negotiations between the parties.

2) 
The failure of either party at any time to require performance by the other party of any provision hereof shall in no way affect the right of the first party to require performance of such provision thereafter or any other provisions hereof.

【訳例】

1)
本契約の当事者間で何らかの申立て、紛争、論争、または意見の相違が生じた場合はすべて、まずは当事者間の誠意にもとづいた交渉によって解決を試みるものとする。

2)
一方当事者がある時点で、本契約のいずれかの規定を他方当事者が履行するように要求する事を怠ったとしても、かかる一方当事者がその後にかかる規定の履行を要求する権利、または本契約のその他の規定の履行を要求する権利には、いかなる形においても影響を与えないものとする。

1)の any and all については、意味を特に出さないで訳してもあまり問題はありません。「何らかの」と「すべて」を削除してしまっても、条文の意味が変わってしまったり分からなくなったりすることはないからです。
ところが2)のほうは、at any time や any provision hereof の any は、大切な役割を果たすので、きちんと意味を出して訳さないと分かりにくくなります。at any time に対してのthereafter であり、any provision に対しての any other provisions hereof であることをしっかりと出して訳しましょう。

では、今回のテーマです。

◆ 日付・期間の表現

契約書における日付・期間は、契約期間や開始日、納品期日、通知の期間、支払期日など、契約の主要な部分に関わるので重要です。
日付にまつわる数ある表現の中で、特に訳や意味に注意が必要なものをいくつかご紹介します。

【例文】

On the last day of each of fiscal years 2003 through 2007, (each an "Anniversary Date"), the Option will become exercisable with respect to the Shares.

【訳例】

2003会計年度から2007会計年度までの毎年の末日(それぞれを「本件応答日」)に、本件オプションは、本件株式に関して行使可能となる。

anniversary は法律用語で「応答日」といいます。
ちょっと堅苦しい表現なので、たとえば、
April 25, 2007 and any anniversary thereof を、
2007年4月25日および、その後の年の同日と訳しても構わないでしょう。

また、英語のanniversary は「周年記念日」で、その後の年の同じ日付のことを言いますが、「応答日」という日本語は、その後の年だけではなく、週、月の同じ日のこともいうので、注意しましょう。

【例文】

the day 6 months after the date of the Agreement

【訳例】

本契約の日より6か月目

the date of the Agreement は、本契約書の作成日(date of execution)、あるいは署名日(date of signature) と表現される場合もあるでしょう。契約が発効する日を発効日(Effective Date)として定義する場合もあり、それが契約書の日付と必ずしも一致しない場合もあるので注意しましょう。

【例文】

every 3 months on the same date as the date of this Agreement

【訳例】

本契約の日から3か月(四半期)ごとの同日に

契約日が4月10日だとすると、7月10日、10月10日、翌年の1月10日……ということです。価格の見直しや売上報告などに関する条文で見られる表現です。

every 3 months calendar を挿入すると、every 3 calendar months となり、「3暦月」と訳します。暦月は普通、各月の1日から末日の31日までを指します。同様に calendar year =暦年は、1月1日から12月1日まで、calendar quarter=暦四半期は、たとえば1月1日から3月31日までです。

【例文】

"Term" means a period of three consecutive calendar months commencing on January 1st, April 1st, July 1st or October 1st.

【訳例】

「本件期間」とは、4月1日、7月1日、または10月1日に開始する、連続した3暦月の期間をいう。

でも、必ずしも1日から31日と解釈されない場合もあるので注意が必要です。
これについて、ある実際の条文をのちに宿題とします。

【例文】

Subscriptions will automatically renew with each annual period, as applicable, until cancelled in accordance with this section.

【訳例】

本件定期購読は、本条に従い取消されるまで、適宜、毎回1年間の期間で自動的に更新される。

その他で、「(一定の期間)ごとに」という表現は、annuallysemi-annuallyquarterlymonthlybi-monthlyweeklyfortnightly、など、たくさんあります。

【例文】

Supplier shall give Company at least ninety (90) days prior written notice of any such Change.

【訳例】

サプライヤーは会社に対し、かかる本件変更について少なくとも90日前の書面による通知を与えるものとする。

「~日前の書面による通知」という表現は頻繁に使用されますが、sixty (60) days’ prior written notice のようにdays の後にアポストロフィ「’」をつけたもの、thirty (30) days advance written notice のように prior の代わりに advance を使用したもの、または何もなしで thirty (30) days written notice のような表現もありますが、どれも意味は同じです。

【例文】

Google shall provide Customer with password-protected access to 24/7 online reporting information so that Customer may monitor its campaign.

【訳例】

グーグルはカスタマーに対し、カスタマーがグーグルのキャンペーンを確認できるよう、パスワードで保護された、オンラインで通知される情報へのアクセスを、常時提供します。

24/7 は、twenty-four seven と読み、24時間営業で年中無休という意味です。ただし、上の例のように、「年中無休」という表現がそぐわないこともあるので、「常時」、「24時間365日営業で」など、臨機応変に訳の表現を変える必要があるでしょう。

宿題

‘Contract Month’ means, in respect of any Order Form relating to the provision of Services for a specified period of months, the calendar month commencing on the start date specified in the Order Form and ending on the day before the same date in the next calendar month. For example, the calendar month commencing on 24 February and ending 23 March.

この条文は、インターネット上であちこちのサイトが Terms and Conditionsの条文として掲載しているものです(まったく同じ文面である理由は分かりません)。
これを見る限り、あきらかに calendar month は1日から月末までに限らないようですね。

日付や期間、数量に関するハナシ、まだまだ続きます。
乞うご期待!

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記事を書いた人

江口佳実

神戸大学文学部卒業後、株式会社高島屋勤務。2年の米国勤務を経験。1994年渡英、現地出版社とライター契約、取材・記事執筆・翻訳に携わる。1997 年帰国、フリーランス翻訳者としての活動を始める。現在は翻訳者として活動する傍ら、出版翻訳オーディション選定業務、翻訳チェックも手がける。

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