第283回 食欲がないときに思い出す詩
夏バテのせいなのか、食欲がないときがあります。
人間の三大欲求のひとつなのに、食欲はいったいどこに行ってしまったのか。
そんなときは、「ごちそう」の詩を読むのが一番です。
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Feast
Edna St. Vincent Millay
I drank at every vine.
The last was like the first.
I came upon no wine
So wonderful as thirst.
I gnawed at every root.
I ate of every plant.
I came upon no fruit
So wonderful as want.
Feed the grape and bean
To the vintner and monger:
I will lie down lean
With my thirst and my hunger.
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ごちそう
エドナ・セント・ヴィンセント・ミレイ
ありとあらゆる葡萄の木を飲み比べたけど
どれも大して変わらなかった
素晴らしいワインにはありつけなかった
喉の渇きには敵わない
ありとあらゆる根っこをかじり
ありとあらゆる木を試したけど
素晴らしい果実にはありつけなかった
欲求というものには敵わない
葡萄の実も豆もあげてしまおう
醸造所や商人たちに
自分はやせ細った身体で寝転んでいよう
喉の渇きと空腹とともに
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「ごちそう」というタイトルなのに、喉の渇きや空腹には何も敵わないとは、いったいどういうことなのでしょう。
I drank at every vine.
The last was like the first.
I came upon no wine
So wonderful as thirst.
ありとあらゆる葡萄の木を飲み比べたけど
どれも大して変わらなかった
素晴らしいワインにはありつけなかった
喉の渇きには敵わない
まずは、ワイン vs. 喉の渇き。
英語で言うと、 wineが製品のワインで、vineが葡萄の木。製品としてのワイン、その源となる木を試し尽くしたのだと!
あらゆる産地の、あらゆるワイナリーの、あらゆる葡萄の木を飲み比べたけど、最高に素晴らしいのは喉の渇きだと!
つまり、ワインそのものの美味しさよりも、喉の渇きを潤す何かが欲しいという強い欲求こそが、ごちそうになるということですね。
I gnawed at every root.
I ate of every plant.
I came upon no fruit
So wonderful as want.
ありとあらゆる根っこをかじり
ありとあらゆる木を試したけど
素晴らしい果実にはありつけなかった
欲求というものには敵わない
次は、果実 vs. 根っこ。
根っこ、って!根っこまでかじるのかい!
それほどまでの執念で、ありとあらゆる果実を食べ比べてみたけど、最高に素晴らしいのは、何かが欲しいという欲求であると!
考えてみると、食べ物や飲み物にとどまらず、何かを手に入れたい、何かを叶えたいという欲求の方が素晴らしいと思えることがあります。
例えば、旅行という「ごちそう」そのものは美味ではあるけれど、旅行に行くまでのウキウキワクワクや、不安やドキドキもまた、それ以上に美味であると言えますよね。
Feed the grape and bean
To the vintner and monger:
I will lie down lean
With my thirst and my hunger.
葡萄の実も豆もあげてしまおう
醸造所や商人たちに
自分はやせ細った身体で寝転んでいよう
喉の渇きと空腹とともに
最後は、葡萄はワインという飲み物に、豆は食べ物になるけれど、そんなもの自分は要らないという強烈な宣言!
あくまでも、何かを手にすることそのものでなく、手に入れるまでのプロセスこそ美味であると!
だからと言って、喉は乾いたままで、お腹は空いたままでいようとは言い切れるかというと、なかなか難しいですよね。
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今回の訳のポイント
喉の渇きや空腹が、飲み物や食べ物そのもの以上に美味であるという、この詩。食欲だけにとどまらない欲求を示す、ある言葉がポイントになっています。
I came upon no fruit
So wonderful as want.
素晴らしい果実にはありつけなかった
欲求というものには敵わない
動詞としては「したい」を意味する want という単語。ここでは、「欲求」を意味する名詞として使われています。want の根本的な意味は「必要なのに欠いている」で、「欠乏」しているからこそ、「欲する気持ち」「欲求」が生まれるというロジックになります。
そんなわけで、「手に入れる」こと以上に「手に入っていない」ことの方が素晴らしいというのが、この詩の趣旨ですが、喉の渇きや食欲以外にも当てはまりますよね。
旅行に出発する前のワクワクドキドキ、プレゼントを開ける前のワクワクドキドキ、恋が叶うかどうか分からない時期のワクワクドキドキ。
それを考えただけで、お腹いっぱいになる気がしませんか。