第293回 野山を歩いているときに思い出す詩
人里離れた山を歩いていると、人の気配がなく、別の世界にいるような気分になるときがあります。
実際、森や山の奥は、動植物の世界。
そんな世界に足を踏み入れたときに思い出す詩があります。
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The Fairies
William Allingham
Up the airy mountain,
Down the rushy glen,
We daren’t go a-hunting
For fear of little men;
Wee folk, good folk,
Trooping all together;
Green jacket, red cap,
And white owl’s feather!
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小さな妖精
ウィリアム・アーリントン
山のてっぺん
谷の草むら
狩りになんか
行けやしないよ
小さな妖精
よい妖精
みんなそろって
ぞろぞろと
緑の上着
赤い帽子
白フクロウの
羽根飾り!
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テーマと言い、リズムと言い、子ども向けの童謡のようですよね。
山や谷にずかずかと踏み込んではいけない。そこは妖精の国だから。
そんなメッセージが登場するくらい詩の世界では、妖精が身近なテーマなんです。
Up the airy mountain,
Down the rushy glen,
We daren’t go a-hunting
山のてっぺん
谷の草むら
狩りになんか
行けやしないよ
山や谷は、 airy「霞むほど空高く」rushy「草が生い茂る」という言葉が示すとおり、人里離れていますね。
「行けやしない」というのは、dare「あえて~する」→ daren’t「わざわざ~することはない」という表現があるからですが、狩りが現代の私たちにとってなじみがあるかどうかという点は置いておき、山や谷の奥に行かない理由は、「妖精」だと次のパートで明かされます。
For fear of little men;
Wee folk, good folk,
Trooping all together;
小さな妖精
よい妖精
みんなそろって
ぞろぞろと
ここで、good folk「よい妖精」とわざわざ 言っているのには理由があります。
実は、妖精は、日本の妖怪と似ているところがあるんです。日本の妖怪には、人を助けてくれるような妖怪もいれば、人間に悪さをする妖怪もいます。
妖精と言うと小さく儚いイメージがありますが、妖精も、日本の妖怪と同じように良い妖精もいれば悪い妖精もいるので、わざわざ「よい妖精」と言う必要があります。
つまり、良い妖精の世界を荒らしてはいけないということを言っているわけですね。では、その妖精はどんな妖精なのでしょうか。
Green jacket, red cap,
And white owl’s feather!
緑の上着
赤い帽子
白フクロウの
羽根飾り!
この服装をしているということは、アイルランドの妖精のレプリコンであると判明します。
レプリコンがどういう妖精であるかを説明すると、みなさんがっかりするかもしれません。ピーターパンに登場するティンカーベルのような小さな儚い羽根の生えた妖精ではないんです。
しわくちゃの顔をした髭の生えた「小さなおじさん」なんです!
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今回の訳のポイント
コミカルでリズムの良い童謡のようなこの詩。最大の難関は、タイトルです。
The Fairies
小さな妖精
Fairies と言われたら、日本人にとっても馴染みが薄い単語ではないので、「妖精」とするしかないですよね。
この詩で登場しているのが、アイルランドを代表する妖精の「レプリコン」なので、より一層難しいです。
しわしわで髭面の「小さなおじさん」という風貌からは、「妖精」というよりも「妖怪」と言った方が、日本人にとってイメージしやすいのかもしれません。でも妖怪のようなおどろおどろしさはないわけで、適切な言葉が見当たりません。文化的背景を知らないと詩の良さが理解しにくい好例だなと思います。
アイルランドの妖精譚と言えば、イェイツというアイルランドを代表する詩人のライフワークがあります。彼がとある老人から妖精譚を集めた「ケルトの薄明」は、彼の代表作のひとつです。
その中には「小さなおばさん」の話もあって、「小さなおばさん」の忠告に従わず、妖精の通り道とされるところに家を建てたら不運に見舞われたというような話もあります。
これらを踏まえても、やっぱりタイトルは「小さな妖怪」でも「小さなおじさん」でもなく、妖精は妖精なので、「小さな妖精」で勘弁してください!