INTERPRETATION

第173回 快適!立ち机

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

仕事柄、パソコンでの作業が多いため、ここ数年は首や背中のコリが目立ってきました。ひどくなる前に鍼灸師さんの所へ行こうと思いつつ、スケジュールが立て込んでしまうとどうしても後回しになってしまうのですね。お世話になっている鍼灸師さんから「ガチガチですねえ」と言われるたびにもっと定期的に通おうと思うのですが、ついつい先延ばしになっているのが現状です。

先日、指導先の大学で図書館に立ち寄った際、検索用のPCを使用しました。パソコンはテーブルに載っているのですが、イスが備え付けられていないため、立ったままお目当ての書籍を検索することになります。

そこでふと気づいたのが、「立ったままキーボードを打つことが想像以上に楽であった」ということだったのです。

自宅でも職場でも、PCというのは座った状態で作業をするのが定番になっています。でも特に私の場合、着席状態にいったんなってしまうとつい頑張ってキリの良い所まで作業をしようと思いがちです。その結果が休息の不足。つまり、目を休めたり体を動かしたりしなくなってしまうのです。

そこでわが家でも立ち机を導入することにしました。インターネットで探したところ、アメリカでは若手起業家が自動で上下する立ち机を開発中のようです。デザインもシンプルでステキなのでぜひとも手に入れたいのですが、新たに調達するとなると、今使っているオフィス机の処分を考えねばなりません。

幸い無印良品でローテーブルを見つけたのでサイズを確認。今使っているオフィス机の上におさまりそうですので早速注文しました。そちらが入荷するまでは、「ミカン箱」と「リビングのサイドテーブル」の二つで一時的にしのいでいます。

まずはミカン箱の上にPC画面を載せて高さを作りました。また、リビングに置いてあったローテーブルを机の上に載せてキーボードとマウスを置いてみました。今この文章も立ったまま書いています。

すでに数時間が経過しましたが、実に快適です。ふくらはぎが多少パンパンになったのですが、立ったままアキレス腱伸ばしをしたり、膝の曲げ伸ばしをしたりしているので、ちょこまかと体を動かしています。

腰や肩、背中のストレッチも立ったままなら簡単に動かせるので、座っている時よりも無意識に体を動かしている気がします。

ちなみにレオナルド・ダヴィンチやチャーチル、ヘミングウェイも立ったまま仕事をしていたそうです。生産性を高めるためにあえて昔の偉人たちは立って作業をしていたのでしょうね。

過日の子ども部屋の模様替えに続き、今回は快適な作業環境づくり。これからも楽しみながら色々と工夫したいと思っています。

(2014年7月28日)

【今週の一冊】

「日本人の知らない日本一の国語辞典」松井栄一著、小学館新書、2014年

すでに辞書は一通り持っているのだが、今でも書店に立ち寄るたびにふらりと辞書コーナーを覗く。辞書などそうそう新しいものが出るわけではない。ただ、あの一見他者を寄せ付けない重々しい辞書が本棚に並んでいるのを見ると、なぜか厳かな気分になってしまうのだ。立ち読みするにはいちいち箱から出さねばならないので手間がかかる。でもそれがまた魅力なのである。

本書は地元の小さな書店で偶然見つけた。狭い階段を2階まで上がると、そこには文房具売り場と学習参考書コーナーが並ぶ。辞書はその片隅に置かれている。そしてその辞書たちの前に本書が陳列されていた。おそらく書店員さんが辞書と本書を組み合わせてみたに違いない。そうした書店員さんのセンスがあふれるお店というのはきっと生き残れるだろうなと思う。

著者の松井栄一氏は日本最大の辞典「日本国語大辞典」の編纂に携わった方である。この辞書の完成には松井氏のおじい様、お父様が尽力されている。まさに父子三代の物語だ。

考えて見れば私たち英語学習者の間では英和や和英辞典こそ話題になるが、「どの国語辞典を買うべきか?」という疑問を抱くことは少ないと思う。英語の辞書では色々と各出版社の違いを見出そうとするのに、日本語は母語であるという安心感なのか、「どの国語辞典も同じなのでは?」と思いがちなのではないだろうか。

分厚くて重たい「広辞苑」も実は「大辞典」ではなく「中型」の部類であることなど、本書を読むことで改めて新しいことに気がつく。国語辞典はつい漢字の確認のためだけになりがちだが、文章を「書くため」にこそ活用できると著者は説く。一つの辞書を絶対視せず引き比べること、読み物としてあちこちを辞書の中から拾い読みしてみることなど、辞書と長く楽しくお付き合いできるヒントが本書にはたくさん紹介されている。

電子辞書やスマートフォンの辞書アプリばかり使うという方にこそ、紙辞書の楽しさを味わっていただけたらと思う。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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