INTERPRETATION

第175回 お気に入り書店

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

みなさんは普段、どのようにして本を入手しますか?

「送料無料の通販サイトで買う」「仕事帰りに大型書店に立ち寄る」「駅前の個人書店で」「食材の買い物ついでにショッピングセンター内の書店を使う」など、色々あると思います。

私の場合、一言で「本を買う」といっても、そのときの体調や気分によるところがあるようです。体力的に元気なときは、大型書店に足を運びます。

まずは最上階へ向かい、そこからゆっくりと各フロアを眺めながら気に入った本をかごに入れ、地上階まで降りてお会計をします。このようなときは購入する本もかなりの量になっていますので店員さんに「5000円以上お買い上げですので宅配便でお送りしましょうか?」とよく尋ねられるほどです。けれども買ったらすぐに読みたいという気持ちがあるので、あえて自分で重い袋をぶら下げて持ち帰っています。

時間に余裕があるときは、そのまま近くのカフェに入り、買った本を一通りパラパラとめくりながら「空気入れ」をしていきます。袋に入れたまま家に直帰してしまうと、帰宅後は家の雑事に追われてしまい、袋を開ける余裕がないことが頻繁に生じるからです。そのまま「熟成」した本をようやく後日開いたときには「はて、なぜこの本を買ったのだろう?」と思うこともあります。ですので、なるべく早めに目を通すことが大切と考えています。

この買い方はお目当ての本にありつける確率が高い反面、体力も要します。くたびれて広い店内を回る元気もないときは、やはり中規模または小規模の書店の方が落ち着きます。

最近気に入っているのは、あるショッピングセンターの中にある中型書店です。そこは週1回、スポーツクラブに出かけた際に立ち寄っているのですが、品ぞろえも豊富でお店の哲学が滲み出ている書店です。

今の時期は暑いですので、適度な空調が効いているのも助かります。また、通路のサイズが広めですので、ベビーカーとの擦れ違いも気になりません。さらに感心しているのは主要新聞の「書評ページ」が壁に掲示され、そこで取り上げられた本が陳列されていることです。おそらく毎週スタッフの方々がそろえて下さるのでしょう。「日経新聞の書評欄に出ていた」「でもタイトルを忘れてしまった」などというときも、紙面ごと壁に貼り出されているので、助かっています。

私は週一回、スポーツクラブで汗を流した後、この書店に立ち寄ります。そして隅から隅まですべての棚を見渡しています。書籍そのものの点数は決して多くありませんが、最新刊は比較的よくそろっていますし、今話題となっている分野の本も充実しています。おそらくその書店自体が、そうしたポリシーで陳列することを心がけているのでしょうね。

強いて改善してほしい点を挙げるとするならば、エンドレスに「♪レリゴー」が流れていることでしょうか。この曲は私も好きなのですが、ずーーーーーっと流れているとさすがに耳がタコになりそうです。でも、お店そのものの魅力はエンドレスソングよりも勝っていますので、やはり書店の「哲学」というのは大事なのかもしれません。

(2014年8月11日)

【今週の一冊】

「戦術と指揮 命令の与え方・集団の動かし方」松村劭著、PHP文庫、2006年

書店というのは色々と自分で出かけてみると、それぞれのお店に特徴があることが分かる。今回ご紹介する本は羽田空港で見つけたもの。家族旅行で搭乗前にターミナル内の書店を覗くのは、私にとって幸せなひとときだ。

のんびりと旅に出るのであるから、仕事を忘れて軽い読み物でもと思う。ところが放送通訳の仕事がとにかく好きだからなのであろう。探すのはもっぱら「仕事関連の本」である。このところウクライナ情勢やイラク、イスラエルにパレスチナと紛争関連のニュースが続いた。放送通訳現場では様々な武器の名前や軍の肩書などが次々と出てくる。そうしたものを体系的に勉強したいなあと思いつつ、ついその場で必死に訳すにとどまってしまう。

その書店は空港という場所柄、飛行機関連の本が充実していた。戦史や地域情勢、ガイドブックなどもたくさん並んでいる。本書はシミュレーションを謎解きのような形で読者自身が考えつつ、戦術を実際に学ぶというもの。私にとって作戦そのものを想像するのは難しかったが、指揮や命令、戦術が実は企業や組織という非軍事的場面でも応用できることが分かり、非常に参考になった。

本書の中で興味深い記述があった。地図に関してである。日本では国土地理院が地図の作成を担っているが、海外は国防省が担当する。なぜならば地図というのは色々な情報が盛り込まれるからであり。安全保障の面からも重要だからだそうだ。日本の地形図ほど精密なものは海外には見当たらないらしい。

飛行機関連なら羽田の書店、芸術関連なら東京オペラシティの本屋さん、マスコミ関連なら赤坂の書店など、業界ごとに特色あるお店が都内には色々とある。これからもそうしたお店を見つけたいと思う。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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