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第286回 初対面の人に会うときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

見た目が9割。

初めて会った人の印象は、その人の言葉でなく、見た目に圧倒的に左右されると言われます。

仕事やプライベートで様々な人に日々出会う中で、外見と中身について考えていたら、リスの詩を思い出しました。

森で木の実を集めて回るリスになったつもりで、この詩を読んでみてください。

*****

Experiment to me
Emily Dickinson

Experiment to me
Is every one I meet
If it contain a Kernel?—
The Figure of a Nut
Presents upon a Tree
Equally plausibly;
But meat within is requisite,
To squirrels and to me.

*****

お試しみたいなものだから
エミリー・ディキンソン

お試しみたいなものだから
出会う人みな
芯があるのかなって
木の実の見た目は
枝にぶら下がっている分には
どれもそれっぽく見える
でも中身が何よりも大事なの
リスにとっても私にとっても

*****

日々出会う人たちは、リスにとっての木の実のようなものである。木の実と同じで、人間も見た目よりも中身が大事である。

そう言っているわけですが、口に木の実をほおばっているリスの姿を想像すると、何だかかわいらしいですよね。

Experiment to me
Is every one I meet
お試しみたいなものだから
出会う人みな

出会う木の実も人も、「お試しみたいなもの」だというのが、かわいらしいですよね。

出会った人全員と意気投合できるわけでもないし、その人が自分と合うか合わないかは、「お試しみたいなもの」だと考えれば気が楽になりますよね。

子どもの入園・入学のときに、「友だち100人できるかな」とよく言われますが、家族よりも大きな社会に出て行って、様々な人に出会う中で、一瞬で分かり合える人もいれば、そうならない人もいることを知ればいいんですよね。

If it contain a Kernel?—
The Figure of a Nut
Presents upon a Tree
Equally plausibly;
芯があるのかなって
木の実の見た目は
枝にぶら下がっている分には
どれもそれっぽく見える

木の枝にぶら下がっている木の実も、目の前にいる初めて会った人も、何だって誰だってそれなりに見える。けれども、Kernel「芯」があるかは、見た目だけでは分からない。Kernel は、豆や実のさやの中身のことで、人間で言うなら「芯のある人」と言えそうです。

「それっぽく見える」という言葉のチョイスが絶妙で、plausible という元の単語は「説得力がある・もっともらしい・(見かけは)信用できる」という意味があります。まさに、見た目と中身にはギャップがあると言いたいのだと分かります。

But meat within is requisite,
To squirrels and to me.
でも中身が何よりも大事なの
リスにとっても私にとっても

最終的に、meat「肉・中身」が大事であるという結論に至ります。

ここまで木の実と何度も言ってきたのは、木の実を選ぶ squirrels「リス」と人間も同じようなもので、外見より中身だと言いたかったからなんですね。ただ、ここで詩人エミリー・ディキンソンが素敵なのは、「リスにとっても人間にとっても」と言わずに、あくまでも「私にとっても」と言っていることです。

「人間」という、大げさな話にせず、あくまでも「自分個人としては」というこじんまりとした話にしているところに、人としてのやさしさを感じて、じ~んとします。

*****

今回の訳のポイント

見た目より中身。これは、木の実を選ぶリスも人間も同じ。

詩人エミリー・ディキンソンは、このように自然の事物と伝えたいメッセージを結び付けるのが得意です。木の実を選ぶリスと、見た目より中身というメッセージが、短い詩の中でギュッと結びつき合っていて、濃い詩になっています。

もう一つ、この詩人の特徴が表れている面があって、それが訳す上でもポイントになるんです。

Equally plausibly;
But meat within is requisite,
どれもそれっぽく見える
でも中身が何よりも大事なの

この2行をそれぞれ締めくくっている plausibly と requisite は、現代で言うと、ビジネス英単語として使われるような堅い単語です。

19世紀後半に生きたエミリー・ディキンソンは、詩には似つかわしくないような堅い単語を、詩の大事な部分で使う傾向があります。plausibly の元の形容詞は「説得力がある・妥当な・もっともらしい」で、いかにもビジネス会議で使いそうな単語ですし、requisite 「必要不可欠」も一般的な単語で言えば、necessary でも良いのですが、あえて少し堅い印象の requisite という単語を選んでいるのが、詩人エミリー・ディキンソンらしいです。

英単語の使い方として「この単語はカジュアル/フォーマルなので~」という説明の仕方を目にすることも多いですが、エミリー・ディキンソンは、そういった枠組みを逆手にとって、意外な組み合わせで言葉を操り、詩人らしい才能を存分に発揮していて惚れ惚れします。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOでの経理・人事やプロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーションにて英語・日本語学習プログラムの開発・管理に従事。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学したり、2500冊の蔵書をもとに読書会を主宰したり、言葉が大好き。
現在は、NPOで障害や難病を抱える当事者やその家族とともに「誰でもビーチ」という活動を運営しつつ、フォトグラファーとしても活動し、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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