第286回 初対面の人に会うときに思い出す詩
見た目が9割。
初めて会った人の印象は、その人の言葉でなく、見た目に圧倒的に左右されると言われます。
仕事やプライベートで様々な人に日々出会う中で、外見と中身について考えていたら、リスの詩を思い出しました。
森で木の実を集めて回るリスになったつもりで、この詩を読んでみてください。
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Experiment to me
Emily Dickinson
Experiment to me
Is every one I meet
If it contain a Kernel?—
The Figure of a Nut
Presents upon a Tree
Equally plausibly;
But meat within is requisite,
To squirrels and to me.
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お試しみたいなものだから
エミリー・ディキンソン
お試しみたいなものだから
出会う人みな
芯があるのかなって
木の実の見た目は
枝にぶら下がっている分には
どれもそれっぽく見える
でも中身が何よりも大事なの
リスにとっても私にとっても
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日々出会う人たちは、リスにとっての木の実のようなものである。木の実と同じで、人間も見た目よりも中身が大事である。
そう言っているわけですが、口に木の実をほおばっているリスの姿を想像すると、何だかかわいらしいですよね。
Experiment to me
Is every one I meet
お試しみたいなものだから
出会う人みな
出会う木の実も人も、「お試しみたいなもの」だというのが、かわいらしいですよね。
出会った人全員と意気投合できるわけでもないし、その人が自分と合うか合わないかは、「お試しみたいなもの」だと考えれば気が楽になりますよね。
子どもの入園・入学のときに、「友だち100人できるかな」とよく言われますが、家族よりも大きな社会に出て行って、様々な人に出会う中で、一瞬で分かり合える人もいれば、そうならない人もいることを知ればいいんですよね。
If it contain a Kernel?—
The Figure of a Nut
Presents upon a Tree
Equally plausibly;
芯があるのかなって
木の実の見た目は
枝にぶら下がっている分には
どれもそれっぽく見える
木の枝にぶら下がっている木の実も、目の前にいる初めて会った人も、何だって誰だってそれなりに見える。けれども、Kernel「芯」があるかは、見た目だけでは分からない。Kernel は、豆や実のさやの中身のことで、人間で言うなら「芯のある人」と言えそうです。
「それっぽく見える」という言葉のチョイスが絶妙で、plausible という元の単語は「説得力がある・もっともらしい・(見かけは)信用できる」という意味があります。まさに、見た目と中身にはギャップがあると言いたいのだと分かります。
But meat within is requisite,
To squirrels and to me.
でも中身が何よりも大事なの
リスにとっても私にとっても
最終的に、meat「肉・中身」が大事であるという結論に至ります。
ここまで木の実と何度も言ってきたのは、木の実を選ぶ squirrels「リス」と人間も同じようなもので、外見より中身だと言いたかったからなんですね。ただ、ここで詩人エミリー・ディキンソンが素敵なのは、「リスにとっても人間にとっても」と言わずに、あくまでも「私にとっても」と言っていることです。
「人間」という、大げさな話にせず、あくまでも「自分個人としては」というこじんまりとした話にしているところに、人としてのやさしさを感じて、じ~んとします。
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今回の訳のポイント
見た目より中身。これは、木の実を選ぶリスも人間も同じ。
詩人エミリー・ディキンソンは、このように自然の事物と伝えたいメッセージを結び付けるのが得意です。木の実を選ぶリスと、見た目より中身というメッセージが、短い詩の中でギュッと結びつき合っていて、濃い詩になっています。
もう一つ、この詩人の特徴が表れている面があって、それが訳す上でもポイントになるんです。
Equally plausibly;
But meat within is requisite,
どれもそれっぽく見える
でも中身が何よりも大事なの
この2行をそれぞれ締めくくっている plausibly と requisite は、現代で言うと、ビジネス英単語として使われるような堅い単語です。
19世紀後半に生きたエミリー・ディキンソンは、詩には似つかわしくないような堅い単語を、詩の大事な部分で使う傾向があります。plausibly の元の形容詞は「説得力がある・妥当な・もっともらしい」で、いかにもビジネス会議で使いそうな単語ですし、requisite 「必要不可欠」も一般的な単語で言えば、necessary でも良いのですが、あえて少し堅い印象の requisite という単語を選んでいるのが、詩人エミリー・ディキンソンらしいです。
英単語の使い方として「この単語はカジュアル/フォーマルなので~」という説明の仕方を目にすることも多いですが、エミリー・ディキンソンは、そういった枠組みを逆手にとって、意外な組み合わせで言葉を操り、詩人らしい才能を存分に発揮していて惚れ惚れします。