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実践!法律文書翻訳講座
第二十一回 訳しにくい表現 その2
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前回の第20回では、上手く滑らかな日本語に変換しにくい表現、lien や encumbrance などを紹介しました。
今回も引き続き、訳しにくい表現をいくつかご紹介します。

では、まず宿題です。

【例文】

XYZ hereby sells to the Company, and the Company hereby purchases from XYZ, all of XYZ's right, title and interest in and to the Project and the Project's Technology, free and clear of any lien, charge, claim, license, preemptive right or any other encumbrance or third party right, except for the XYZ License, as provided for under SECTION 7 below and the restrictions on the Company's use thereof as provided for under SECTION 3.3 below.

【訳例】

XYZは、本契約によって、本プロジェクト及び本プロジェクトのテクノロジーに対するXYZの権利、権原、及び利益の全てを本会社に売却し、本会社は本契約によりこれをXYZから購入するが、かかる権利・権原・利益は、以下の第7条に基づき定められたXYZのライセンスを除き、及び以下の第3.3項に基づき定められた会社によるそれらの使用に対する制限を除き、あらゆるリーエン、担保権、請求、ライセンス、先買権、又はその他いかなる負担若しくは第三者の権利もない。

lien、charge、encumbrance など、様々な担保権を表す言葉が列挙されていますね。
前回解説したことを念頭において、上手く訳せたでしょうか。
free and clear of 以下の3行余りは、これを最初から right, title and interest にかけて訳してしまうと、その部分が長くなりすぎて意味が分かり難い訳文になりがちです。訳例のように分けて訳すのもテクニックの一つです。

◆ on a ~ basis

【例文】

1. All XYZ and third-party information provided on any XYZ website is provided on an "as is" basis.

2. Licensee agrees to restrict access to Confidential Information to its employees or contractors on a need to know basis and only who have agreed in writing to be bound by a confidentiality obligation which is as protective of Licensor's interests as this Agreement.

【訳例】

1. XYZのウェブサイト上で提供されるXYZ及び第三者の情報は全て、「現状有姿」で提供される。

2. ライセンシーは、本機密情報へのアクセスを、知る必要のある従業員又は請負業者で、かつ、本契約と同様にライセンサーの利益を保護する秘密保持契約によって拘束されることに書面で同意する人に制限する。

on a/an ~ basisという表現は、契約書でよく使用されますが、~に入る言葉次第で上手く自然な訳にしないといけません。これを一律に「~ベースで」とか「~方式で」という訳にしてしまうと、たとえば上記の例文2などでは自然な日本語になりにくいと思います。

on a/an ~ basis には、その他に次のような表現をよく目にするでしょう。

on a dollar basis ドル建てで
on a monthly basis 月単位で
on a pro-rata basis 案分/比例計算で
on a timely basis 適時に

もちろん、上につけた訳だけで必ずどんな文章の中でもしっくりくるという訳ではありません。basis という単語にとらわれずに、どのような意味を表したいのかを考えて日本語の自然な表現を探しましょう。

◆ in favor of ~

【例文】

1. The parties acknowledge and agree that the construction and terms of this Agreement shall not be construed in favor of or against either Party.

2.  Both parties agree to open letters of credit in favor of each other.

【訳例】

1. 両当事者は、本契約の解釈及び条件は、一方当事者に有利なように、又は不利なように、解釈されてはならないことを認め、これに合意する。

2. 両当事者は、他方当事者を受益者として、信用状を開設することに合意する。

in favor of ~は、「~に賛成して」という意味の他に、使用される文脈によってさまざまな意味として用いられる表現です。
基本的には~に相当する人/当事者にとって「有利なように」という意味ですが、上記の例文2のように金融証券関連で使用される場合は、それに合わせた用語を使用しなければなりませんし、判決の場合は「~の主張を認める判決」といった表現をするなど、工夫が必要です。

では、宿題です。


宿題

1.  The Parties desire to share services and to enter into this Agreement to provide an arms-length basis for determining each Party's reimbursement obligations for the use of such services.

2.  Prior to terminating his employment, Employee signed a promissory note in favor of Employer in the amount of $15,000 plus 4 percent interest per year. The promissory note secured the repayment of a $15,000 loan from Employer to Employee. The promissory note was dated February 15, 2002 and provided for full payment of principal and interest by May 31, 2003


宿題の2番は、約束手形に関わる訴訟文書の一部です。手形の仕組みや用語を理解した上で、訳してみましょう。

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プロフィール

江口佳実

江口佳実さん
神戸大学文学部卒業後、株式会社高島屋勤務。2年の米国勤務を経験。1994年渡英、現地出版社とライター契約、取材・記事執筆・翻訳に携わる。1997 年帰国、フリーランス翻訳者としての活動を始める。現在は翻訳者として活動する傍ら、出版翻訳オーディション選定業務、翻訳チェックも手がける。