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治験翻訳入門- 医薬品開発と治験翻訳 -

 最近、翻訳業界で「治験翻訳」という分野が注目されています。「治験翻訳」とはどんなものを指すのでしょうか?治験翻訳者になるためには、どのように勉強したらいいのでしょうか?
 この講座では、新しく「治験翻訳」を始めたい方を対象に、次のような内容について解説いたします。

 1.医薬品開発と治験
 2.医薬品開発に必要な試験と作成する文書
   1)非臨床試験
   2)臨床試験
   3)新薬承認申請とCTD
 3.臨床試験の用語、文例
 4.翻訳のための調査、情報収集
 5.翻訳する上での留意事項

治験翻訳入門講座 番外編! 「この薬、効かないんだけどっ」

今回は番外編として武藤順子さんhttp://www.hicareer.jp/life/seisyun/より
お届けいたします。

みなさん、こんにちは。
横田さん(師匠と呼んでます)の治験翻訳講座、かなり勉強になりましたね!!

今回はその番外編でおまけのお気楽エッセイでございます。
(すみませんが、さほどためになることは書いてありません。)

タイトルの通り、飲んだ薬が、効いてるんだか、いないんだかってことありませんか?
喘息の予防薬とか、高いわりに効果って実感できないし・・・
(本当は効いているんですが)
おじいちゃん、脳代謝改善薬飲んでもボケてるわね?とか(怖っ・・・)

っていうか、そもそも薬が効くってどういうこと?
ということを書くべし、というミッションを師匠からいただきました。

薬が効くその1
「楽になったわ」これこそが、薬が効いたってことじゃないの?
なにもむずかしく考えなくていいんです。
頭痛がとれた、呼吸が楽になった、熱が下がった、食欲がわいた・・・
そうです。要するに楽になることが薬の効果。

薬が効くその2
楽になったという現象を、リアルに目で見たとすると、要するにこうです。
炎症を起こしている部位では、「姫」が「たーすけてぇ~」と叫んでいます。
(たとえばの話ですが)
すると、姫のお好みのイケメンが口から入ってきます(これが薬)。
姫の好みのイケメンはチャン・グンソク。
チャン・グンソクは消化管から肝臓に入り血液の流れに乗って「待ってろ!!」とつぶやきながら姫のもとへ流れ着く(自分じゃ動けないからね、このあたりはわりと情けない)。
姫は「来てくれたのね」と言って、チャンとかたく抱き合う。好みが合えば合うほど、密着度が上がり、薬の効果もバツグン!
ところが、チャン・グンソクの代わりにソン・スンホンが流れてきたとすると(私はどっちでもいいんだけれど)、姫は「え、まじか」と言い無視(お~、たとえだとわかっていても、もったいない・・・)
姫の好みは意外ときびしく、眉毛がちょっとでもチャン・グンソクと違うと「却下!」
姫とは、薬の受容体なんですね。
だから、メーカーの人は、いろいろな疾患の「姫」を探して、その好みの[イケメン]を作ったり、みつけたりしているわけです。
姫の中には「韓国系イケメンなら誰でもOK!」という守備範囲の広い方も時々いらっしゃいます。
体の中をイケメンが流れまくっていると考えると、楽になるってスバラシイですね!

薬が効くその3
ところが、姫とイケメンの愛が本物かどうかを調べるレフリーがいるんですね。
「よく見ると、すき間が開いてる」とか・・・結構うるさがた。
そして「愛の強さを数値で示しなさい」とか言うんです。
やぼですねぇ。
でも 何事も、客観視するには数値化が条件。
この薬、なんとなく効くんだよね~なんて怪しいこと言ってたら
レフリー(厚生労働省)は薬効を承認してくれません。

薬が効くってどういうことか、お題が難しすぎます(涙)
師匠、これで答えになってますでしょうか?

薬を飲んで得られた効果が薬効なら
宴会してすっきりして元気になる「飲み会効果」や
サツマイモを食べて便秘が解消した「サツマイモ効果」もある。
世の中には薬を上回る効果、意外と多いですね。
でも、薬は、大多数の人にほぼ予想通りの効果が得られるように設計されているわけです。みんなに効くように作る医薬品開発は難しいけどロマンを感じます。

この薬、効かないんだけどって言うあなた
飲んだイケメンのタイプが違ってるとか?
その薬が効きにくいタイプの人かも(個人差って案外大きいのよ)
同じイケメンばっかりで「姫」が飽きちゃうってこともあるんだって(ダウンレギュレーション)
わからないことはどんどん薬剤師に聞いてみましょう!

薬にばかり頼りたくないけど、体調が厳しいときは、やっぱり薬の出番「ある」と思います。
読んで下さってありがとうございます&お勉強お疲れ様でした。


第11回 翻訳を始める方に -翻訳者心得-


 これまで10回にわたって、治験翻訳の「基礎の基礎」ともいうべき医薬品開発の流れとその内容について、駆け足でお話してきました。薬事の専門家や各分野の担当者の方々からみれば、不備は多々あると思います。また「なんだ、こんなことを今更」という事項もあるでしょう。しかし、文科系出身者が初めて治験関連の翻訳をする際にブチ当たる「えっ?これ何?」の背景に簡単にふれてきたつもりです。ここから先はその時々のニーズに応じて、皆さんご自身で調べてください。それが一番身につく勉強法です。
 そのような訳で、医薬品開発とその各段階で発生する文書に関するお話は前回でおしまいです。この講座では和訳に必要なことを中心に書いてきましたので、触れなかった事項もかなりあります。例えば「治験相談」のための「概要書」(Briefing book)、「治験相談記録」(Record of clinical trial consultation)などはしばしば英訳が必要になりますし、内容的にも難しいものです。またCIOMSと呼ばれる書式による副作用報告も翻訳需要が多く、どちらかといえば英訳が多いですが、和訳もあります(CIOMSはCouncil of International Organizations for Medical Scienceという機関の略ですが、ここで作成した国際共通書式をもCIOMSと呼んでいます)。また、GCP上必要な業務標準手順書(SOP)も英訳和訳共にあります。これらについては実際に翻訳を始める際に調べてください。
 そこで最後に、今回は翻訳者として心がける点についてお話します。これらのポイントのほとんどは医薬品開発のみならず、さまざまな分野の翻訳にあてはまると思います。

1.翻訳に絶対的正解はあるか?
 「いつでもこれが正しい」という意味での「絶対的正解」はありません。例えば本講座の第6回で述べたように、治験ではinvestigational drugは「被験薬」です。そしてstudy drugは「治験薬」で、これは治験に用いられるあらゆる薬剤を指し、「被験薬」も「対照薬」も「治験薬」に含まれます。治験以外ではstudy drugは「試験薬」や「試験薬剤」と呼ばれます。このように、その文書、文脈にふさわしい訳こそが「正解」なのです。その「正解」に到達するためには、まず「どのような分野のどのような文書であるか」を知る必要があります。そして「そのような分野、文書で標準的に使われている用語は何か」を調べて、初めて「正解」にたどり着くのです。辞書的に正しくても、文脈の中では正しくないことは多々あります。そのようにして正解にたどり着くために参照すべきサイト、ガイドライン、用語集などについて、本講座の中で開発の段階ごとに述べてきましたので、参照して下さい。

2.辞書
 辞書は言うまでもなく、翻訳に不可欠なツールです。一般的な英和・和英辞書もあれば、医学を初めとするさまざまな専門辞書もあります。また書籍もあればWeb辞書もあります。使い勝手がよいのはWeb辞書で、内容の更新も早いです。
 書籍版の一般の英和・和英辞書はなるべく大きなものがオススメです。引く時にめんどうかもしれませんが、その言葉の語源やそこから派生してきた意味などもわかるので、一語だけの訳ではあてはまらない場合でも、自分で考えることができます。
 私は英和も和英も研究社の大辞典を使っています。書籍版もありますが、現在ではWeb版(http://kod.kenkyusha.co.jp/service/)しか使いません。これは医学その他の科学分野の用語もかなり詳しく載っていますし、英和としても和英としても、また活用辞典としても使えます。またWebsterなど英-英もoptionで付けられます。「英辞郎」(http://shop.alc.co.jp/cnt/eijiro/)(CD-ROM版、On-line版あり)も、思いがけない新語が載っていたり、また自分用に用語を追加したりという点は便利です。しかし、特殊な用語を検索して何の説明もなしに対応する1語だけが出てくるのは、便利なようでもやや不安があります。言葉は背景なしには成り立たないからです。そのような訳で、辞書は1つだけに頼らず、納得のいかない場合は他の辞書もあたってみることが大切です。また、矛盾するようですが、辞書は色々な会社から様々なものが出ていますので、要は自分で使いやすいものをMainの辞書としてもつことです。
 英-英辞書は説明が英和辞書よりわかりやすい場合があり、また英訳には和英のほか英-英も必須です。コリンズ・コウビルド英英辞典(CobuildConv.zip)には時々「目からウロコ」のわかりやすい説明や文例があります。
 専門分野の辞書は医学のほか、生化学、化学、薬学、遺伝学、免疫学など、さまざまな分野のものがあります。一度に揃えるのは大変なので、そのような分野の仕事が入った時でよいと思いますが、医学辞書は必須です。
 ドーランド図説大医学辞典(http://www.hirokawa-shoten.co.jp/2008/10/28.html)(常用版ほか様々な版があるので注意)(英文最新版30版はWeb版あり)、ステッドマン医学大辞典(http://www.medicalview.co.jp/stedman/stedman03.shtml)(CD-ROM版あり)などがあります。
 専門辞書は各学会のサイトに無料のものが載っていることもありますので、調べてみてください。医薬品開発関連の文書には生化学用語は頻出しますので、生化学辞典は1冊持っていてもよいでしょう。またWikipediaなどで検索してもある程度は出てきますので、探し物名人になっておくことも大切です。
 学問的な専門用語のほか、Marketing関係も含めた「業界用語」というものもあります。
「欧和・和応対訳 医薬業界用語集」(書籍:日本製薬工業協会http://www.jpma.or.jp/)は業界用語のほか、厚生労働省の組織名の対訳や、各国規制当局のURLなども載っています。
 行政の出すガイドライン、通知、公定書もその多くは英訳されていますので、その分野の用語を拾い出すのに役立ちます。ことにICHガイドラインは元が英語で、それを参考に日本のガイドラインを作っていますので、両者は全く同じではないものの、大変参考になります。どの分野でどのガイドラインを参照するかについては、これまでの講座で引用してきましたので、参照して下さい。

3.用字・用語、表記
 日本語の用字・用語、単位など表記については、一般の用字・用語辞典のほか、行政で使われている用字・用語の例としては、日本薬局方の「作成要領」(http://www.nihs.go.jp/mhlw/jouhou/jp/jp15_genan_sakusei_youryou.pdf)が参考になります。行政で使われているものは、新聞などとは少し異なります。日本薬局方は英文についても「英文作成要領」があります。ことに規格や試験法などの英訳に参考になります。

4.自分の辞書・用語集を作ろう
 翻訳する都度、気づいた用語を拾い出し、分野別に整理します。分類はあまり厳密でなくてもよく、例えば、「治験のプロセス」「添付文書」「有害事象報告」「癌領域」「循環器領域」など、自分がよく関わる領域のおおまかなものでよく、あまり細かくしすぎると、どの分類で探したらよいのか、かえってとまどうこともあります。Excelで検索できるようにして、何の翻訳で出てきたかも入れておくとよいでしょう。

5.自分に投資しよう
 本やWebだけではなかなか系統的な知識が得られなかったり、読んでもよくわからなかったりすることがあります。時には各種セミナーに出てみるのもよいと思います。翻訳だけでなく、開発や行政に関するものも参考になることがあります。ただし、製薬企業対象のものは受講料が結構お高いので、よく的を絞ることが大切です。
・ 日本メディカルライター協会(http://www.jmca-npo.org/)
開発関連のドキュメントを書くメディカルライターや製薬企業関係者、医学論文を書く医師など、医学関係のドキュメント作成に関わる様々な人々の団体で、もちろん、通訳・翻訳者も参加しています。翻訳も含めてメディカルライティングやコミュニケーションに関わる様々なセミナーが年間を通してあります。年会費\8,000のほか、セミナーごとに数千円の参加費が必要ですが、他の団体やセミナー会社のものに比べれば、かなり安いです。参加は人脈の開発にも役に立ちます。
・ 医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団(http://www.pmrj.jp/index.html)
以前「公定書協会」と言っていた財団で、薬事・開発関係のセミナーを実施
・ サイエンス&テクノロジー(http://www.science-t.com/)
さまざまな分野の開発関連セミナーや書籍を出版。翻訳関連のセミナーも時々ある。
医薬業界向けなので、受講料は高めだが、翻訳は場合によって講師割引がある。通信教育もある。
・ 情報機構(http://www.johokiko.co.jp/seminar_medical/index.php)
さまざまな分野の開発関連セミナーや書籍を出版

 その他、医学系、薬学系の大学でも、公開講座を開くことがありますので、各大学のHPなどをチェックしてみてください。また、読者の方々は主に在宅翻訳を目ざしておられるのでしょうが、機会があれば、どんな形であれ、製薬会社内の仕事を経験してみるのもよいと思います。間接的な情報だけではわからない、医薬品開発の現場の状況がわかると思います。翻訳の質はどれだけ自分の情報の引き出しをもつかで変わってくるのです。

6.最低限これだけは気をつけよう
1) 受注する前に全体にざっと目を通し、分量と内容を検討しましょう。なじみのない領域の場合、「何ページだから何日」と計算通りにいかないこともあります。
2) 原文とともに参考資料、用語集を貰いましょう。ない場合は自分で探し、少しでもその文書で扱っている領域に馴染むようにします。
3) 知らない疾患、知らない作用機序の薬の場合はある程度参考資料を読んでから訳した方が速い。基本的なことを知らず、イメージのないまま訳すよりも、「急がば回れ」です。
4) 納期の1~2日前に訳し終わるように作業量を割り振り、最後に全文を読み直す時間を作ります(結構不備が見つかります)。
5) 前日訳した部分について、翌朝一番に以下をチェック。
・ 訳ヌケ、モレはないか、原文と1行ずつ対比(1行、あるいは1パラグラフそっくり抜けることがある)
・ 誤字・脱字、数字・スペル・単位の誤記はないか(数字の桁間違いや、スペルミスは、原文と突き合せないかぎり、わからない)。
・ 用字・用語の統一(用語を「置き換え」る時は一箇所ずつ。一括で置き換えると、置き換える必要のない箇所まで置き換えてしまうことがある)
・ 原文にGlossaryがあれば、略語等もそれに従う。同じ薬の別の文書の訳があれば、その訳語に従う
・ 肯定・否定が逆になっていないか(原文とつき合わせずに読み流していると、気づかない)。
・ 訳文を読み直して、論旨がスンナリ頭に入るか(声に出して読んでみるとよい)
6) 万一に備えて、訳文のバックアップを毎日作成する(CDやUSB memoryなど)。
7) 体調管理に気をつけよう。
・ 熱を出したり、薬を飲んだりすると、勘が働かず、訳していてつらい。翻訳はヒラメキも大切で、言葉の置換えだけでは、何のことかわからない場合がある。
・ 長期戦の場合、家事や散歩、エクササイズなど、身体を動かして、頭痛、肩こり、眼の疲れなどを予防しよう。
8) 訳していて煮詰まってしまったら...
・ それまでに訳したところを読み返してみる。ヒントが見つかるかもしれません。参考資料に戻るのもよいかもしれません。

7.最後は自分の文章で!

 用語、訳例は十分踏まえた上で、最後は自分の文章で書きましょう。こなれていない文は読みにくいものです。
 TRADOS等の翻訳支援ツールは定型文が多い文書には向いているかもしれません。ただし、その場合にも、常に自分でmaintenanceして利用することが必要です。文というものはそれを書いた人の目が背後にあって、初めて生きてくるのです。
 チェスの対局でコンピュータが人に勝ったということですが、それは過去のデータの積み重ねの上に立って勝ったのです。ところが、言葉というものは実は使う人の数だけあって、常に新しく変身していくのです。そのことが人間を進歩させてきたともいえます。いつも「ちょっとだけ」それまで見えなかったものを認識して変わっていくのです。翻訳する際もそのことをどこか頭の片隅において、自分の言葉に自信を持って訳してください。

私の「治験翻訳講座」はこれで終わります。色々「冷や汗モノ」の部分もありましたが、つたない講座にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。皆様の翻訳者としてのご発展を心から願っております。


第10回 添付文書

 前回までに、新薬の開発と承認申請の過程で作成される文書をほぼ全般的に説明しましたが、最後に、開発と販売承認後をつなぐ重要な文書である添付文書についてお話します。添付文書(案)は開発の終盤に色々なデータが出揃った時点で作成され、承認後には、製薬会社と医師や患者との接点になる文書です。

1.添付文書はどこで見られるか

 薬局で薬を買うと、患者さん向けに薬の効能や使い方の説明書が箱に入っていますが、一般向け医薬品の場合は、それが添付文書です。医家向け医薬品の添付文書は、医師や薬剤師などが薬を処方・調剤する際の情報として、成分、効能・効果、用法・用量、使用上の注意 副作用などが書かれています。製薬会社は、最終的にはこれらの内容に対する承認を得るために努力を重ねているともいえます。
 翻訳業務としては海外の添付文書の和訳もあれば、国内の承認申請に使われた添付文書の英訳もあり、製造販売後も副作用情報や使用上の注意などの改訂の際にも翻訳が必要となります。
 個々の製品の添付文書は各製薬会社のHPの「製品情報」などのページに公開されています。患者さん向けと医療関係者向けの添付文書がありますが、翻訳はほとんどが医療関係者用ですので、医療関係者用のページを選択します。グローバル企業の場合には、海外の関連会社のHPで英文の添付文書が見られますので、日本語版、英語版を合わせて参照すると翻訳の参考になります。海外の関連会社のURLは大体「リンク集」にあります。ただし、添付文書の内容はそれぞれの国の規制当局の承認事項ですので、日本語・英語の内容・表現が一致しない場合もあります。
 添付文書の参考資料としては以下のものがあります。
-「医療用医薬品添付文書作成の手引き-改訂版2009」〈書籍〉; 日本製薬工業会
 http://www.jpma.or.jp/jpmashop/order/
-「医療用医薬品添付文書記載要領について」(日本の薬事行政第5章「医薬品の安全管
  理情報の提供と伝達」)
  http://www.jpma.or.jp/about/issue/gratis/pdf/11yakuji_ch05.pdf
-医薬品医療機器総合機構情報提供ページの添付文書データベース
 http://www.info.pmda.go.jp/psearch/html/menu_tenpu_base.html
-Japan Pharmaceutical Reference (JPR) (国内添付文書の英訳版) (日本製薬工業協会)
 http://www.e-search.ne.jp/~jpr/HTML/JPR002.HTM
(JPRは製薬協で用語や書き方のルールを決めているので、英訳の参考になりますが、もとは、輸出製品の情報として作られたため、収載は各社が英文情報の必要性を判断して取捨選択しており、国内全製品ではありません。書かれている訳語や表現が英語としてはしっくりしないものもありますが、業界として検討したものですので、一応標準です。)
 -「医療用医薬品集」「一般用医薬品集」(財団法人日本医薬情報センター編・刊)
  http://www.japic.or.jp/service/publications/iyakuhinsyuu_vol2.html
  国内の添付文書集。書籍版とCD-ROM版があり、後者はWeb検索できるものもあります。書籍版は年1回、CD-ROM版は年4回更新されます。
 -PDR (Physicians' Desk Reference®) http://www.pdr.net/Default.aspx
  米国の添付文書集。
 -BNF (British National Formulary) http://bnf.org/bnf/index.htm
  英国の添付文書集。
 海外のものは、薬について調べるだけでなく、添付文書英訳の際の参考にもなります。

2.添付文書の構成

 添付文書は短いながら、「治験薬概要書」や「CTD」(コモン・テクニカル・ドキュメント、本講座第9回参照)と同様に、基礎から臨床試験まで開発で」得られたデータ全般を取り込んでいます。しかし、前2者と異なり、開発順ではなく、臨床使用で注意すべき点、踏まえておくべき点を中心に書かれています。添付文書は公式文書ですので、定型化された構成、用語、表現が求められます。前記の医薬品医療機器総合機構のサイトでは作成ツールも掲載され、レイアウトも決まっています。翻訳の場合も用語や表現の定型を踏まえることが大切です。
 それでは添付文書の構成を見ていきましょう。実例として最近承認されたアルツハイマー型認知症治療剤イクセロン®パッチの1ページ目を示します。この薬はアルツハイマー型認知症治療剤では日本初の貼付剤です。

イクセロンパッチ.png

 添付文書は上記の例のように、まず、線で区切られた部分にその医薬品の登録情報が記載されます。中央に販売名(brand name)(例:イクセロン®パッチ~mg)が大きな文字で書かれ、その上に薬効分類(therapeutic category)(例:アルツハイマー型認知症治療剤)、規制区分(regulatory classification)(劇薬、処方せん医薬品など)、その下に一般的名称(generic name)(リバスチグミン)、剤形(form)(経皮吸収型製剤)が記載されます。また線の左上には添付文書の作成・改訂時期、右上には日本標準商品分類番号(Standard Commodity Classification No. of Japan)が記されます。さらに販売名の左上に貯法(storage)と有効期限(expiration date)、右に承認番号(approval No.)、薬価収載年月(listing in the NHI reimbursement price)、販売開始年月(date of initial marketing in Japan)、国際誕生年月(international birth date)が記載されます。
 線より下に添付文書の本文が記載されます。項目の順番は安全な臨床使用に不可欠な順に記載されるため、「警告」や「禁忌」から始まっています。
 以下に主な項目について説明し、一部の項目について英文の例文を示します。項目番号は本稿として便宜的につけたもので、実際の添付文書の項目番号ではありません。また、スペースの制約上、例文は特有の表現の例として当該項目の一部のみを引用しており、その項目の全文ではありませんので、意図するところが十分に伝わるとはいえません。内容に関しては以下のサイトから、当該添付文書の全文を参照して下さい。
(今回はNovartis PharmaのGlobal Office及びUSのサイトから引用しましたhttp://www.novartis.com/products/pharmaceuticals-therapeutic-area.shtml。(以下3行削除しました)これらの例文を訳してみてください。販売名、効能・効果の表現・範囲など日本と異なる場合がありますが、翻訳の段階では原文の記載に従ってください。

1)警告 (Warning):致死的又は極めて重篤かつ不可逆的な副作用が発現する場合、又は副作用の結果、極めて重大な事故につながる可能性があり、注意喚起を要する場合に記載。

(例文 1) Warning:
When pregnancy is detected, discontinue Tekturna as soon as possible. Drugs that act directly on the renin-angiotensin system can cause injury and death to the developing fetus.
 (訳例 1) 警告
妊娠が判明した場合はTekturnaの投与をできるだけ速やかに中止する。レニン・アンジオテンシン系に直接作用する薬物は胎児に傷害を及ぼす可能性があり、死にいたる場合もありうる。

2)禁忌 (Contraindications):症状(symptoms)、原疾患(disease)、合併症(complication)、既往歴(history)、家族歴(family history)、体質(disposition)、併用薬剤(co-administered drug)等からみて、投与すべきでない患者を記載。

(例文 2) Contraindications (FEMARA® is contraindicated in the following patients.)
1. Pregnant or possibly pregnant women [An animal experiment in rat has reported occurrence of fetal death and teratogenicity].
2. Lactating women [An animal experiment (rat) has shown excretion of letrozole in breast milk. Also, reproductivity was inferior in male pups from the dams treated with letrozole during lactation. ]
(訳例 2) 禁忌(FEMARA®は次の患者には投与しないこと)
1.妊娠中又は妊娠が疑われる女性[ラットによる動物実験で胎児死亡及び催奇形性が報  告された。
2. 授乳婦[ラットによる動物実験で、letrozoleの乳汁移行が認められた。また授乳中にletrozoleを投与された母獣の雄の仔では生殖能の低下が認められた。
注: FEMARAは販売名、letrozoleは有効成分の一般名

 <原則禁忌> (Relative contraindications) 本来禁忌とすべきだが、診断あるいは治療上当該医薬品を特に必要とする適応症があれば記載し、「慎重に投与する」よう記載。

3)組成・性状 (Description):以下を表などの形で記述
- 組成(Composition)::有効成分(active ingredient)の一般的名称(generic name)及びその分量。記載が義務付けられている添加物(inactive ingredients)。
- 性状(description)(識別に必要な色、味、臭い、形状、識別コード(identification code)等。

4)効能・効果 (Indications):承認を受けた効能又は効果を記載。

(例文 3)Indications
IRARIS® is used to treat adults and children aged 4 years and older that have a condition known as CAPS (Cryopyrin-Associated Periodic Syndromes). CAPS is a group or rare diseases that include:
- Familial Cold Atutoinflammatory Syndrome (FCAS)
- Muckle-Wells Syndrome (MWS)
(訳例 3) 効能・効果
IRARIS®は成人及び4歳以上の小児のCAPS(クリオピリン関連周期性症候群)として知られる症候に用いられる。CAPSは以下を含むまれな症候群である。
- 家族性寒冷自己炎症症候群(FCAS)
- Muckle-Wells症候群

 <効能・効果に関連する使用上の注意(Precaution with respect to indication>投与すべきでない患者等、重大な副作用又は事故防止のために特に重要な効能・効果に関連する使用上の注意があれば記載。

5)用法・用量 (Dosage and administration):承認を受けた用法・用量を記載。

  

(例文4) The usual recommended starting dose of Tekturna for hypertension is 150 mg once daily. In patients whose blood pressure is not adequately controlled, the daily dose may be increased to 300 mg. Doses above 300 mg did not give an increased blood pressure response but resulted in an increased rate of diarrhea. The antihypertensive effect of a given dose is substantially attained (85-90%) by 2 weeks
  (訳例 4) 高血圧症に対するTekturnaの推奨初回用量は通常150 mg1日1回である。血圧のコントロールが不十分な患者には1日用量を300 mgに増量してもよい。300 mgを上回る用量では血圧に対する効果は増大せず、下痢の発現率が増加する。投与した用量による降圧効果はおおむね(85-90%)2週までに得られる。

 <用法・用量に関連する使用上の注意(Precautions regarding dosage and administration>投与量、投与期間等、重大な副作用(significant adverse reaction)又は事故防止のために特に重要な用法・用量に関連する使用上の注意があれば、記載。

6) 使用上の注意(Precautions):全般的事項、注意すべき程度(慎重投与、重要な事項)、相互作用、副作用、特別な患者集団(高齢者、妊産婦、小児など)、臨床検査値、過量投与など、様々な観点から使用上の注意を記載する。
a) 全般:投与全般に関わる注意事項。

(例文5) General
The concomitant use of VOLTAREN with systemic NSAIDs including cyclooxygenase-2 selective inhibitors, should be avoided due to the absence of any evidence demonstrating synergistic benefits and the potential for additive undesirable effects.

(訳例 5) 全般
VOLTAREN をcyclooxygenase-2の選択的阻害薬を初めとするNSAIDs(非ステロイド抗炎症薬)の全身投与と併用しても、両者の協力作用による利益はなく、有害作用が相加的に増大する可能性があるため、避けること。


 

b) 慎重投与 (Careful administration):症状、原疾患、合併症、既往歴、家族歴、体質、併用薬剤等から考えられるリスク、すなわち、副作用の発現が早い/発現率が高い/より重篤/非可逆性、薬物の蓄積による副作用、耐性の変化などが予測されるため、投与の可否、用法・用量の決定等に特に注意が必要な場合、又は臨床検査の実施や細かい観察が必要とされる場合に慎重投与となる。
c) 重要な基本的注意 (Important precautions):重大な副作用又は事故を防止するために、用法・用量、効能・効果、投与期間、投与すべきでない患者の選択、検査実施等に関する重要な基本的注意を記載。
d) 相互作用 (Drug interaction):他の医薬品を併用することにより、当該医薬品又は併用薬の薬理作用の増強又は減弱、新しい副作用の出現又は原疾患の増悪等が生じ、臨床的注意を要する場合に記載。相互作用を生じる相手薬剤名、薬効群名、相互作用の内容を記載。
 併用禁忌(Contraindications for coadministration):併用しない。薬剤名記載。
 併用注意 (Precautions for coadministration):併用に注意。薬効群又は一般名記載。


(例文 6) Drug Interaction
In clinical trials, ILARIS has not been administered concomitantly with tumor necrosis factor (TNF) inhibitors. An increased incidence of serious infections has been associated with administration of another IL-1 blocker in combination with TNF inhibitors. Taking ILARIS with TNF inhibitors is not recommended because this may increase the risk of serious infections.
(訳例 6) 薬物相互作用
臨床試験においてILARISを腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬と併用した経験はない。他のIL-1遮断薬とTNF阻害薬との併用と関連して重篤な感染症の発現率が上昇した。ILARISとTNF阻害薬との併用は重篤な感染症の危険性を増大させる可能性があるため、奨められない。


e) 副作用 (Adverse reactions):副作用発生状況の概要(調査症例数、情報源、調査時期、記載時期)を記載。「重大な副作用」と「その他の副作用」に分けて記載。


(例文7) Approximately 833 subjects have been treated with ILARIS in blinded and open-label clinical trials in CAPS and other diseases, and healthy volunteers. A total of 15 patients reported serious adverse reactions during the clinical program.
(訳例7) CAPSその他の疾患の患者における盲検及び非盲検の臨床試験及び健常人合わせて833名の被験者にILARISを投与した。臨床試験中、合計15名に重篤な副作用が報告された。


  

<重大な副作用 (Clinically significant adverse reactions)>
  特に注意を要する副作用を記載。発現機序(mechanism of onset)、発現までの期間、具体的防止策(measures)、処置方法(treatment)等が分かっていれば、記載。初期症状、又は臨床検査値異常等認められた時点での処置など。類薬の重大な副作用等。
  <その他の副作用(Other adverse reaction)>
 f) 高齢者への投与 (Use in the elderly):高齢者は腎機能、肝機能等が低下していることが多いため、副作用が発現しやすいので、投与にあたって必要な注意を記載。
g) 妊婦、産婦、授乳婦への投与 (Use during pregnancy, delivery or lactation):他の患者に比べて特に注意が必要な場合、適正使用に関する情報、注意を記載。動物実験、臨床使用経験、疫学調査で得られた情報に基づく注意を記載。


(例文8)Nursing Mothers
It is not known whether aliskiren is excreted in human breast milk. Aliskiren was secreted in the milk of lactating rats. Because of the potential for adverse effects on the nursing infant, a decision should be made whether to discontinue nursing or discontinue the drug, taking into account the importance of the drug to the mother.
(訳例 8) 授乳婦
Aliskirenがヒトで乳汁に移行するかどうかは不明である。Aliskirenはラットで乳汁に移行した。乳児に対する有害作用の可能性があるため、授乳を中止するか、本薬の投与を中止するか、母親に対する本薬の重要性を考慮した上で、決定すべきである。


h) 小児等への投与 (Pediatric use):解毒機能が未発達な乳児以下の者に関する情報、薬物代謝が成人と異なる場合の情報を記載。
i) 臨床検査結果に及ぼす影響 (Effects on laboratory tests):器質障害、機能障害に起因しない臨床検査値の変動が起こる場合に記載。
j) 過量投与 (Overdosage):自殺企画、誤用を含む過量投与時の中毒症状と処置法。
k) 適用上の注意 (Precaution concerning use):投与経路、剤形、注射速度、投与部位、調製方法、薬剤交付時等に関わる注意事項。
l) その他の注意 (Other precautions)
7) 薬物動態 (Pharmacokinetics):ヒトでの吸収・分布・代謝・排泄データを記載。これが
ない場合は動物実験データで補足。

8) 臨床成績 (Clinical Studies):適正な臨床試験結果について投与量、投与機関、症例数、
有効率等を承認を受けた用法・用量に従って記載。

9) 薬効薬理 (Pharmacology):効能・効果を裏付ける薬理作用及び作用機序を記載。

10)有効成分に関する理化学的知見 (Pharmacochemistry):一般名、化学名、分子式、化学
構造式等を記載

11)取扱い上の注意 (Precautions for handling)
12)承認条件 (Conditions for approval)
13)包装 (Packaging)
14)主要文献及び文献請求先 (References and request for references)
15)長期投与医薬品に関する情報 (Information on approval for long-term use)
16)製造業者又は輸入販売業者の氏名又は名称及び住所 (Name and address of the manufacturer or importer/distributor)


第9回 治験薬概要書及びCTDに関する概説

 本講座の第7回、第8回で取り上げた「治験の総括報告書」は一つの治験の総まとめで、いわば苦労を重ねて実施してきた治験の花道とも言えます。折角ここまでたどり着いたのに、話は少し戻りますが、この治験の過程で作成される重要な文書として「治験薬概要書(investigator's brochure, IB」があります。今回はこの「治験薬概要書」と、後に全ての治験終了後に作られる「コモンテクニカルドキュメント(Common Technical Document, CTD)」について、概説します。
 この2つは、作成時点も目的も全く異なりますが、翻訳者から見た文書の性質としては「それぞれの作成時点までの非臨床から臨床までの全ての試験を網羅した概説」という点が似ています。それまでの試験のReviewであるため、用語や試験内容という点では、初めて毒性試験なり臨床試験なりに向き合った時のように、目新しい用語や試験方法が出てくるわけではありません。ですので、それまでに非臨床・臨床試験の翻訳で蓄積してきた知識を踏まえて訳すことになります。
 とはいえ、これらの文書の目的や、その構成を知っていれば、訳す際に参考になりますので、今回はその構成を中心に、ごく簡単に説明します。

1.治験薬概要書

 治験薬概要書は治験責任医師(investigator)や治験協力者に向けた、治験薬についての臨床及び非臨床データ(clinical and non-clinical data)のまとめで、被験者の臨床的管理に必要な情報の提供を意図しています。「医薬品の臨床試験の実施の基準(GCP)」は治験依頼者(sponsor)が「規定の試験により得られた資料並びに被験薬の品質、有効性及び安全性に関する情報に基づいて、以下の事項を記載した治験薬概要書を作成すること」を求めています。
 1) 被験薬の化学名(chemical name)又は識別記号(development code)
 2) 品質(quality)、毒性(toxicity)、薬理作用(pharmacology)その他の被験薬に関する事項
 3) 臨床試験が実施されている場合は、その試験成績
 本講座第5回の「治験の流れ」の図に示したように、治験依頼者は治験実施依頼の際に、治験実施計画書とともに治験薬概要書を作成して、治験実施医療機関に提出します。治験実施医療機関では、治験審査委員会(Institutional Review Board, IRB)が治験薬概要書と治験実施計画書(protocol)に基づいて当該治験実施の可否を審査し、その承認に基づき、治験が実施されます。治験責任医師、治験分担医師は治験薬概要書の内容を完全に理解し、熟知した上で治験を行い、また、 治験ナース、治験コーディネーター(clinical research coordinator、CRC)などの治験協力者も必要に応じて治験薬概要書を参照します。さらに、治験依頼者が当局に治験届書を提出する際にも、治験実施計画書と治験薬概要書を添付します。
 治験依頼者は被験薬の品質、有効性及び安全性に関する事項のほか、治験を適正に行うために重要な情報を入手した時は、治験薬概要書を改訂します。例えば国内又は海外の治験で新たな副作用が報告された、あるいは海外の治験で新たな知見が得られた、海外でア新たな規制が適用された、などの場合です。
 以下はあるパーキンソン病治療薬の治験薬概要書の目次の例です。このように、Introduction(当該薬剤の開発の目的や経緯)から始まり、非臨床、臨床とそれまでに得られた結果を概説していきます。どのような内容が含まれるのか、一例としてこれを訳してみましょう。


SUMMARY
1. INTRODUCTION
2. PHYSICAL, CHEMICAL AND PHARMACEUTICAL PROPERTIES
2.1. NOMENCLATURE
2.2. DESCRIPTION
2.3. PHARMACEUTICAL DATA
3. PRECLINICAL STUDIES
3.1. PRECLINICAL PHARMACOLOGY
3.2. PHARMACOKINETICS IN ANIMALS
3.3. TOXICOLOGY
4. EFFECTS IN HUMANS
4.1. PHARMACOKINETICS OF XXXX
4.1.1. Studies in healthy volunteers
4.1.2. Studies in special populations
4.1.3. Studies in patients with Parkinson's disease
4.2. PHARMACODYNAMICS AND CLINICAL EFFICACY OF XXXX
4.2.1. Phase I studies
4.2.2. Phase II studies
4.2.3. Phase III studies
4.3. TOLERABILITY AND SAFETY OF XXXX
4.3.1. Phase I studies
4.3.1.1. Adverse events and laboratory parameters
4.3.1.2. Serious adverse events
4.3.2. Phase II studies
4.3.2.1. Adverse events and laboratory parameters
4.3.2.2. Serious averse events
4.3.3. Phase III studies
4.3.3.1. Adverse events
4.3.3.2. Serious adverse events
4.3.3.3. Premature treatment withdrawals
4.3.3.4. Laboratory parameters
4.3.3.5. Tolerability and in-patient subgroups
4.3.3.6. Effects of concomitant medication on tolerability
4.3.3.7. Overdose
4.3.3.8. Withdrawal of XXXX
4.3.4 Post-marketing experience
5. GUIDANCE FOR THE INVESTIGATOR
6. REFERENCES



(訳)
要 約
1. 緒言
2. 物理・化学及び製剤学的特性
2.1. 名称
2.2. 性状
3.3. 製剤学的データ
3. 前臨床試験
3.1 前臨床薬理試験
3.2 動物における薬物動態
3.3. 毒性試験
4. ヒトにおける効果
4.1. XXXXの薬物動態
4.1.1. 健常人を対象とした試験
4.1.2. 特別な母集団を対象とした試験
4.1.3. パーキンソン病患者を対象とした試験
4.2. XXXXの薬力学及び臨床効果
4.2.1. 第I相試験
4.2.2. 第II相試験
4.2.3. 第III相試験
4.3. XXXXの忍容性と安全性
4.3.1. 第I相試験
4.3.1.1. 有害事象と臨床検査値
4.3.1.2. 重篤な有害事象
4.3.2. 第II相試験
4.3.2.1. 有害事象と臨床検査値
4.3.2.2. 重篤な有害事象
4.3.3. 第III相試験
4.3.3.1. 有害事象
4.3.3.2. 重篤な有害事象
4.3.3.3. 治療からの早期脱落
4.3.3.4. 臨床検査値
4.3.3.5. 入院患者サブグループの忍容性
4.3.3.6. 忍容性に対する併用薬の影響
4.3.3.7. 過量投与
4.3.3.8. XXXXの投与中止例
4.3.4. 販売承認後の経験
5. 治験責任医師のための指針
6. 文献

 治験薬概要書の内容は開発品目や治療領域、開発段階などによって、当然変わってきます。また各項目は必要に応じてさらに細分化されます。治験薬概要書は開発計画の問題点の検討も兼ねて製薬会社内で訳す場合も多いのですが、分量が多いため、外注されることも結構あります。この文書は非臨床から臨床まで広範囲にわたってその品目について知ることができ、じっくり取り組む時間があれば、大変面白いし、勉強になります。しかし、納期が短いことも多いので、そのような場合は、手分けしてそれぞれの分野を得意とする翻訳者が訳します。この場合は訳者間の用語の統一方法を決めておきます。注意しなければならないのは、これは「概要書」なので、各試験の方法やデータなどがかなり割愛されていて、事実や論理展開が把握しにくい場合があることです。そのような場合は発注元の会社に問い合わせるなり、関連部分のデータを見せてもらいましょう。それができない場合には、納品時に疑問箇所とその理由を明記しておきます。

2. コモンテクニカルドキュメント(CTD)

 前回、前々回の「治験の総括報告書」は一つの治験についての総まとめでした。このような臨床試験が第I相から第III相まで数多く積み重ねられ、さらにそれ以前には非臨床の試験も多数行われてきて、いよいよ、これら全てをまとめて、新薬の承認申請を行います。
 開発過程で得られたデータはコモンテクニカルドキュメント(CTD)の様式でまとめられ、申請書とともに規制当局に提出されます。CTDとは、ICHでの日・米・欧の3極合意に基づいた共通の様式で、この様式でまとめることより、日米欧いずれの地域の当局にも受け入れられます。なお、CTDは国際的に用いるこが前提なので、英文にしておく必要があります。Global企業では、英文版を正本とし、日本語版を副本とする会社が多いかと思いますが、これをFDAなどに提出する場合には、「英文版と日本語版の内容が全く同じである」という証明(陳述)が求められます。
CTDのガイドラインは医薬品医療機器総合機構のICHのサイトを参照して下さい。
(http://www.pmda.go.jp/ich/ich_index.html
ここから「複合領域」をクリックすると、CTD関連の資料が色々検索できます。

 CTDの構成は以下のような階層構造で表されます。これは上から1, 2 ,3の番号がついていますが、開発過程としては底辺の第3部、第4部、第5部の試験結果に基づいて第2部の品質、非臨床、臨床の概括評価が行われ、最終的に第1部の申請資料目次がまとめられ、添付文書情報などに反映されて、申請に至るというプロセスを辿ります。
 また、各項目の項立て、項目番号も3極で共通化されています。

ICH.jpg
 では、各モジュールの内容を見ていきましょう。

第1部(Module 1) 申請書等行政情報及び添付文書に関する情報
 第1部には各極特有の申請書及び行政情報(regional administrative information)や添付文書情報(package insert information)が記載されます。翻訳の仕事としては、行政情報や当局とのやりとりはCTDのまとめの際よりも、Global開発の調整のため、開発途中でその都度行われ、どちらかといえば英訳が主です。
 添付文書(案)はその医薬品の成分、効能・効果、用法・用量、使用上の注意、など、いわばその薬の最終的なプロフィールを表しているもので、承認された暁には、医師や患者との接点になる文書です。製薬会社はこれに対する承認を得るために、努力を重ねているともいえます。承認後も副作用情報や使用上の注意などの改訂が行われますので、和訳も英訳も翻訳需要はあります。添付文書については次回詳しく述べます。

 第2部(Module 2) CTDの概要(Common Technical Document Summaries) 
 CTDの翻訳の仕事としてはこの部分が多いかと思います。この部分の構成は以下の英文の通りです。これを和訳してみましょう。

(例題)
reidai.jpg


(訳)
第2部(モジュール2) CTDの概要(サマリー)
第2部(モジュール2)は、薬理学的分類、作用機序及び申請する効能又は効果等の当該医薬品の全般的な概略から始めること。原則として、この緒言は1ページ以内にまとめること。
第2部(モジュール2)は、以下の順番で7項目を含むこと:
• 目次
• 緒言
• 品質に関する概括資料
• 非臨床に関する概括評価
• 臨床に関する概括評価
• 非臨床試験に関する概要文及び概要表
• 臨床概要


 この訳は実は日本語のCTDガイドラインの表現そのままで、直訳ではありません。OverviewやSummaryなど、似たような英語が出てきて、その日本語がまた概括資料、概括評価、概要と似たような言葉が並び、これは言葉だけ見ていても分かりにくいですね。ガイドライン本文を見ると、下記のように、指しているものが少しずつ違うのです。
品質に関する概括資料」(Quality overall summary, QOS):第3部の資料をその範囲及び構成に即して要約したもの。
非臨床に関する概括評価」(Non-clinical overview):当該医薬品の薬理、薬物動態及び毒性についての包括的で客観的な評価結果。最初に「非臨床試験計画の概略」を示し、次いで「薬理試験」、「薬物動態試験」、「毒性試験」の順に、行った試験とその結果及び意義を述べ、最後に「総括及び結論」で当該医薬品の特徴を明確にし、目的とする臨床使用における安全性の裏づけを述べます。
非臨床試験に関する概要及び概要表」(Non-clinical written and tabulated summary):行った非臨床試験について、ガイドラインの記載要領に沿ってさらに詳述(100~150ページ)するもので、全体を比較できるような概要表(規定の形式)も入ります。
臨床に関する概括評価」(Clinical overview):当該医薬品の臨床的意義の審査に用いられ、「臨床概要」、個々の「治験総括報告書」その他関連資料から得られた結論を評価します。開発計画及び試験結果の優れた点と限界を示し、また、試験結果が添付文書中の記載にどのように反映されているか、記述します(約30ページ)。内容の詳細は、製品開発の根拠(rationale for the product development)、生物薬剤学(biopharmaceutics)・臨床薬理(clinical pharmacology)・有効性(efficacy)・安全性(safety)等に関する概括評価、既存の治療法との比較、ベネフィットとリスクに関する結論(risk/benefit analysis)などを含みます。
臨床概要」(Clinical summary):CTD中の全ての臨床情報の詳細な事実に基づく要約の提供。第5部の「治験の総括報告書」や、メタアナリシスや複数試験の併合解析、他の地域の市販後データなどの情報も含んだ、事実に基づく観察、結果の記述(50~400ページ)。やはり生物薬剤学、臨床薬理、臨床的有効性、臨床的安全性の各分野のデータを取り上げ、分野ごとの全試験を通しての結果の比較と解析を記述します。臨床的安全性の分野では、特別な患者集団や状況下での分析、海外の市販後データなども取り上げます。

第3部(module 3): 品質に関する文書(Documents on quality) 
 品質に関する資料で、原薬、製剤、規格、製造方法等に関する報告書/データ等の資料をガイドラインの記載要領に従って記載したもの。

第4部(module 4):非臨床試験報告書(Non-clinical study reports) 
 実施した非臨床試験を薬理試験、薬物動態試験、毒性試験の順に配列し、ガイドラインの規定に沿って図表なども取り入れて記述したもの。

第5部(module 5):臨床試験報告書(Clinical study reports) 
 実施した全ての治験の総括報告書を一覧表で示し、これらをガイドラインの配列順、すなわち、生物薬剤学、ヒト生体資料を用いた薬物動態、臨床薬物動態(PK)、臨床薬力学(PD)、有効性及び安全性、の順に配列し、また、(他地域などの)市販後のデータ及び患者データ一覧表及び症例記録を添付したもの。

 これでお分かりのように、CTDは実に膨大な資料になり、print-outを積み上げると数メートルになります。このような膨大なハードコピーを扱うのは大変で、データの記録、伝送、まとめの段階から電子化しておけば、検索、参照、保存、検証、様々な面で便利で確実です。そのため、現在では、治験中からelectronic data capture (EDC)システムを導入してデータを記録し、さらに治験総括報告書もeCSRとしてまとめ、最終的にCTDもeCTDの形で提出する会社が多くなっています。


第8回 臨床試験(3) 「治験の総括報告書」(その2)

 前回に引き続き、「治験の総括報告書」の後半、主に「治験の計画」「有効性の評価」「安全性の評価」について見ていきます(項目番号は前回の3.治験総括報告書の項目ごとの注意点からの続き番号です)。治験デザインや統計手法などの説明は「治験ナビ」(http://www.chikennavi.net/index.htm)の用語集や本ガイドライン本文、あるいはガイドライン「臨床試験のための統計的原則」(http://www.pmda.go.jp/ich/efficacy.htm)などを参照してください。

9) 治験の計画 (Investigational Plan)
「治験の計画」の項は、治験実施計画書(protocol)に基づいています。「治験の総括報告書」の翻訳に際しては「治験実施計画書」を参考にすると、かなり手間が省けます。
 治験の計画は、それまでの非臨床・臨床試験の結果や問題点に基づいて目標を立て、望む結果が得られるようデザインを考えます。
 その際、以下の項目を検討・決定し、治験計画の根拠や妥当性について、項目別に説明と考察を行います。
(1) 治験の目的(objectives): この治験で明らかにしたいこと、この治験の位置付け
(2) 治療法(treatment)、治験薬(study drug):治験薬 [被験薬(investigational drug)+対照薬(control)]、用法・用量(dose and dosage)及び投与経路(administration route)、治験薬の同定(外観、成分、含量の確認)
(3) 対照(control):比較対照の種類、例えば、プラセボ/無治療/実薬対照、被験薬の用量-反応を比較、など。
(4) 患者母集団(patient population)(年齢、性別、疾患、入院/通院、等)と計画症例数:目的とする評価が可能な例数、統計解析で有意差((significant difference)が証明できる例数を検討。治験への組み入れ基準(inclusion criteria)・除外基準(exclusion criteria)を決める。
(5) 治療群への患者の割付(assigning patients to treatment groups, patients allocation):無作為化*(randomization)、層別化**(stratification)など。
*無作為化(ランダム化):いくつかある治療法のひとつに被験者を無作為に割り当てる過程。恣意的に 特定の群に割り付けるバイアスを減らすことができる。 **層別化:性別、年齢、体重、人種、重症度等、治療に影響を与える要因を考慮した上で、無作為化する方法。
(6) 試験の構成:並行群間比較*/クロスオーバー**など。
*並行群間比較(parallel group controlled):各群同時並行に指定された期間の治療を行い、結果を比較。
** クロスオーバー(cross-over):交差試験、2群の被験者に被験薬と対照薬を交互に時期をずらして 投与し、結果を比較。

(7) 盲検化*(blinding/ masking)の水準と手法(非盲検(open-label)/二重盲検(double blind)/単盲検(single blind)の別、又は第三者の評価者が盲検で評価、など)
*盲検化:被験者や評価者が「割り付けられた治療法」を知っていることにより生ずる結果の偏りを防ぐための方法。「割り付けられた治療法」を誰が知っているかによって、盲検化の水準が決まる。すなわち、非盲検(被験者も治験責任/担当医師も割り付けられた治療法を知っている)、二重盲検(被験者も医師も知らない)、単盲検(医師は知っているが、被験者は知らない)、被験者も医師も知っているが、割り付けられた治療法を知らない第三者が評価、などがある。
(8) 前治療(prior therapy)及び併用療法(concomitant therapy)など。
(9) 主要評価項目(primary endpoint)と副次的評価項目(secondary endpoint):
何をもって有効性や安全性の評価項目(エンドポイント)とするか。有効性と安全性の項目(efficacy and safety variables)として数値化又は評価尺度で表すことが望ましい。臨床検査(laboratory test)項目とスケジュール(評価日、投与時刻と測定時刻)、血中薬物濃度測定(drug concentration monitoring)の回数と間隔、安全性評価にかかわる有害事象(adverse event)データの収集方法と評価尺度(rating scale)及び報告方法を決めておく。
*エンドポイント:治療行為の意義を評価する評価項目。臨床検査項目、薬物動態(PK)パラメータや薬力学的(PD)指標、効果又は安全性の指標など、客観的に評価できるものをその解析方法とともに予め設定しておき、評価対象とする。
(10) 全ての治療期間(duration of treatment)の順序と長さ
(11) 統計手法(statistical method)及び症例数(sample size)の決定:
解析(statistical analysis)、比較(comparison)、検定(test)の方法を決める。被験薬と対照との比較に用いる特定の測定値(測定時点、測定回数、治験完了時など)、基準値(baseline response)からの変化、生命表解析(life table analysis)などのいずれを用いるか、決める。解析除外症例の基準を示し、また、計画症例数とその設定根拠について、統計学的な考察や実施上の制限(群間の差が検出できる、あるいは見込まれる患者数が少ない、など)などを記述。
(12) データの品質保証:このような計画に従って行われる治験データの品質保証(quality assurance)及び品質管理(quality control)の方法(治験の信頼性に関わる)。
(13) 安全性評価委員会、データモニタリング委員会等を設けるか
(14) 中間解析(interim analysis)を行うか否か、行うなら、その根拠

 それではここで例題を訳してみましょう。ある新薬TOP015(仮名)の第I相試験の「治験の目的」です。この新薬は新規成分topotopoline(仮名)と既存の市販成分yorovin(仮名)との配合剤として開発中で、この試験は、配合剤である新薬TOP015のバイオアベイラビリティを、topotopolineとyorovinの単剤を併用した場合と比較検討することを主要目的としています。

例題1 原文

Study purpose
This study is designed to determine the relative bioavailability of the fixed combination of 100/5 mg topotopoline/yorovin (TOP 015) tablet relative to the free combination of the final market form of 100 mg topotopoline tablet and the 5 mg yorovin market tablet. The 100 mg dose of topotopoline and 5 mg dose of yorovin are used because they will be used in the upcoming clinical trials. And this study is to assess the safety/tolerability and PK of TOP 015 in Japanese healthy male subjects. This study will provide the data necessary for Japanese Ph3 studies.

例題1 訳

治験の目的
 本治験は日本人健康男性被験者に対して,topotopoline 100mgとyorovin 5 mgを含有する配合剤のバイオアベイラビリティを、topotopolineの市販予定製剤(100 mg)にyorovinの市販製剤(5 mg錠)を併用投与した場合と比較検討することを目的としている。topotopoline 100 mg及びyorovin 5 mgは今後の臨床試験の予定用量である。また、本治験では日本人の健康男性被験者における安全性及び忍容性,並びに薬物動態を確認する。本治験は,日本人における臨床第III相試験計画に必要なデータを提供すると考える。

 この例では配合剤のバイオアベイラビリティを単剤併用と比較することが主要評価項目であり、副次的評価項目は日本人の健康男性被験者における安全性と忍容性、及び薬物動態の確認です。服薬の簡素化をねらって配合剤が開発されますが、そのバイオアベイラビリティは必ずしもその配合成分の併用時と同じではありません。含まれている基剤や添加剤が異なるため、溶解、吸収、分解等が変わってくるためと考えられます。

 さて、ここからは治験の結果に関する記述です。、結果の記述方法も一部治験実施計画書を踏襲します。有効性や安全性の結果は文章及びガイドラインの別添IIIb~VIIのような表で表されます。

10) 治験対象患者(study patients)
 治験に組み入れた全患者の内訳(無作為割付した患者数、組み入れ患者数、治験の各スケジュールを完了した患者数)、無作為割付後の中止理由(追跡不能、有害事象、服薬不遵守)などを略述し、図又は表(ガイドラインの別添表IV~V参照)を添付します。
 治験の組み入れ又は除外基準、治験実施方法、患者管理又は患者の評価に関する重要な逸脱(deviation)についても記述します。どのような患者を何名治験に組み入れたか、そのうち何名が治験を完了し、何名がどのような理由で中止したか、ということは解析の基礎として重要です。
 ここで、患者数(number of patients)と症例数(number of cases)について、一言。日本人の記述では、この2つが区別されていない場合が多いが、英語ではpatientはあくまでも人格をもった一人の人であり、caseは一人の患者の経過や転帰を表す「例」にすぎません。日本語で「30例が治験に参加した」とあっても、その英語は"Thirty patients participated in the study"であって、Thirty cases...ではありません。治験に参加するのは「人」であって、caseという「物」は参加できないからです。しかし、統計解析で治療経過のある時期をとりあげて、その期間での改善例が何例という場合はcasesとなります。英訳では特に要注意。ちなみにガイドラインの別添IVa~VIIの表では、日本語はすべて「患者」、英語もpatientとなっています。

11) 有効性の評価 (efficacy evaluation)
 有効性も安全性も評価はすべて「治験の計画」で定めた方法によって行われます。データを得てから恣意的な解釈を行わないためです。したがって、「有効性・安全性の評価」方法などの記述は「治験の計画」での記述と重なりますので、翻訳する際、これとの整合性を図る必要があります。
 治験結果を恣意的に解釈しないために、どの患者をどの解析に採用したのかを明記します。例えば、治験薬投与全患者なのか、治験実施計画書で定められた観察(例:血圧値)が規定どおり行われた患者なのか、最小限の観察が行われた患者なのか、規定どおり服薬した患者のみか、などを明示します。治験実施計画書に定義がない場合はデータの採用・除外基準がいつ(開鍵(code breaking)=盲検のコードを開く前か後か)設けられたかを明らかにし、また解析除外全患者の全データを一覧表にし、その理由も分析します。
 重要な人口統計学的特性(demographic characteristics)(年齢、性別、身長、体重、人種、民族など)及び基準値(baseline)、疾患因子、その他治療に対する反応に影響する因子について、群別のデータを示します。また治療の遵守状況(compliance)も記述します。
 主な有効性評価の全測定値(主要エンドポイント及び副次的エンドポイント、薬力学的エンドポイント)について治療群間で比較し、治療間の差の大きさ(magnitude of difference)及び信頼区間(confidence interval, IC)を示します。仮説検定(confirmatory test)をしたなら、その結果も示します。共変量(covariance)による影響とその調整、脱落例や欠測値の取扱い、中間解析の根拠と統計学的調整、多施設共同治験(multi-center trial)、多重比較(multiple comparison)、部分集団解析(sub-group analysis)などについても記述します(用語の詳細はWebや成書の「統計用語辞典」、ガイドライン「臨床試験のための統計的原則」などを参照)。
 個別反応データの一覧表、薬剤の用量・薬物濃度と反応との関係、薬物‐薬物(又は疾患)との相互作用なども図表として示します。
 有効性の評価は、試験ごとに評価項目も基準も検証方法も異なり、全てに通用する内容は示しにくいので、実際に医薬関係の雑誌や、製薬会社のHPの治験関連のページ、FDAのデータベースなどで、総括報告書や概要を参照して下さい。

12)安全性の評価(safety evaluation)
 薬の安全性や有害事象*(adverse event)については治験開始前に予測されるものもありますが、分からないことの方が多いのです。そこで、段階的にまず、投与量、期間、患者数を検討して問題を予測し、次に比較的よく見られる有害事象、臨床検査値(laboratory data)の変化などを把握して治療群間で比較し、さらに時間依存性(投与期間が長くなれば、有害事象が増えるのか)、人口統計学的特性との関係、用量または薬物濃度との関係など、副作用*(adverse drug reaction)または有害事象の頻度に影響する可能性のある因子について分析し、最後に重篤な有害事象**(serious adverse event)及び他の重要な(significant)有害事象を明確にします。
*有害事象(adverse event): ICHの定義で、治験中に被験者に生じたあらゆる有害な事象。治験薬との関連は 問わない。これに対して、副作用=有害反応(adverse drug reaction)は治験薬との関連が否定できないものをいう。 従来言われていた副作用(side effect)は薬の「主作用」に対する言葉で、これが望ましくない作 用であることが多かったが、薬との関係が厳密に検討されたものではない。治験ではICHの定義に従う。
**重篤な有害事象とは、「死に至るもの」「生命を脅かすもの」「治療のため入院、または入院期間の延長を要するもの」「永続的または顕著な障害・機能不全に陥るもの」「先天異常をきたすもの」を指します。その他の重要な有害事象には、著しい血液学的異常や他の臨床検査値異常、及び薬剤治療の中止や減量、重要な併用療法の追加を要するものが含まれます。
 治験中に発現した全ての有害事象は叙述形式(narrative)で簡潔に記述し、より詳細な一覧表(患者ごと、重篤有害事象別、等)及び分析によって補足し、被験薬と対照薬いずれに関連する事象も表示します。
 有害事象はすべて重篤度のカテゴリー別に定められた期限内に規制当局に報告し、また、未知のもの、重篤なものは「治験薬概要書」に加えられ、治験実施施設にも報告されます。臨床検査値異常についても一覧表にまとめて、検討しておきます。
 有害事象報告や臨床試験の有害事象の用語はICHで統一されたICH国際医薬用語集(MedDRA)のものを使うことになっています。データベースは「医薬品医療機器レギュラトリーサイエンス財団」(http://www.pmrj.jp/jmo/php/indexj.php) が管理していますが、一般の利用料は年間30万円と高価です。しかし、有害事象翻訳には不可欠ですので、有害事象報告の翻訳を頻繁に扱う翻訳会社は、会員になっておくことをお勧めします。
 では、例題を訳してみましょう。降圧薬の試験の有効性と安全性の評価基準です。

例題2 原文
Criteria for Evaluation

Primary variables
The primary variable was the change from baseline (Visit 5) in mean sitting diastolic blood pressure.
Secondary variables
The secondary variables were change from baseline in mean sitting systolic pressure, biomarkers, and brachial artery flow-mediated vasodilation. 
Safety and tolerability
Safety assessments consisted of monitoring and recording all adverse events (AEs) and serious adverse events (SAEs), the regular monitoring of hematology, blood chemistry and urine values.

例題2 訳
評価基準

主要評価項目
主要評価項目は坐位平均拡張期血圧の基準値(来院5)からの変化とした。
副次的評価項目
副次的評価項目は平均坐位収縮期血圧の基準値からの変化、バイオマーカー、前腕動脈血流測定による血管拡張の程度とした。
安全性と忍容性の評価項目
安全性の評価は有害事象(AEs)と重篤な有害事象(SAEs)の観察と記録、定期的血液学検査、血液化学検査及び尿検査より成るものであった。

13) 考察と全般的結論(discussion and overall conclusion)  最後の考察では有効性と安全性の結果及びリスク・ベネフィットの分析を振り返り、これまで述べてきたことを引用して、簡潔に要約し、考察を行います。新しい、又は予想外の所見が得られたなら、明記してその意義を説明します。可能性のある全ての問題について論じ、既存のデータを考慮して、結果の臨床的適切性と重要性について述べ、今後の治験実施のための意義を明らかにします。
 なお、本文中には含めない図表がありますので、ガイドラインの別添を参照して下さい。



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プロフィール

横田晴子

横田晴子さん:Seiko Yokota
国際基督教大学を卒業後、株式会社医学書院にて内科雑誌の編集を担当。その後サンド薬品株式会社にて、医療機器開発、医薬品開発関連の翻訳を担当。合併によりノバルティスファーマ株式会社となってからも、医薬品開発関連の翻訳および翻訳外注管理を担当。2003年には同社にてメディカルライティング部署創設に参画。退職後は外部委員として社内治験審査委員会に参加し、また、フリーランス翻訳者として医薬品開発関連の翻訳に従事。