第294回 手袋がほしくなったときに思い出す詩
秋が深まり寒くなってくると、バイク乗りの友だちを思い出します。
バイクでビューンと走っていると、秋の気持ちの良い天気だとしても、手足は凍るほどに寒く感じると言って、よく震えていました。
それもあって、手袋と言うと、ふわふわの手袋と同時に、バイカーのゴワゴワした手袋もイメージするようになってしまいました。
そんな凍えるような寒さを思い出す詩があります。
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It Blows A Snowing Gale
Robert Louis Stevenson
It blows a snowing gale in the winter of the year;
The boats are on the sea and the crews are on the pier.
The needle of the vane, it is veering to and fro,
A flash of sun is on the veering of the vane.
Autumn leaves and rain,
The passion of the gale.
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吹雪く
ロバート・ルイス・スティーブンソン
吹雪く冬の日
船は海に、船乗りたちは波止場に
風見鶏は くるくると忙しい
その針先に 陽がひとすじ
紅葉と雨
吹きすさぶ風
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秋から冬にかけて、冷たい風が吹きすさぶ日。コートの襟を立て、マフラーに顔をうずめても足りない、そのぐらいの寒さを感じさせますね。
It blows a snowing gale in the winter of the year;
The boats are on the sea and the crews are on the pier.
吹雪く冬の日
船は海に、船乗りたちは波止場に
冬の情景が、海の波止場から始まるのが、なんだか日本的情緒がありますよね。
冬の荒れた海。風にあおられて、停泊した船は揺られ、波の飛沫も風に舞い上がる。船乗りたちは海に出ることができない。
これだけで、冬の寒さの厳しさが伝わってきます。
The needle of the vane, it is veering to and fro,
A flash of sun is on the veering of the vane.
風見鶏は くるくると忙しい
その針先に 陽がひとすじ
風の激しさを表すのが、くるくる忙しい風見鶏。
風を描写するとして、風は目に見えないので、激しい風によって引き起こされる状況を描くのが、詩の仕事になります。
例えば、「ぐわんぐわん揺れる木々の枝」だとか、「バタバタはためく旗」だとか、「バッシャンバッシャン岩に砕ける波飛沫」だとか、いろいろある中で、「くるくる忙しい風見鶏」というのが、波止場の情感とは異なるテイストで面白いです。
そして、雪や風はずっと吹き荒れているわけではなくて、ふとした瞬間に差し込む光もある。これが、雪の日の現実的な側面を捉えていますよね。
「ひとすじの陽の光」が登場すると、詩としては、「絶望の中に見出した希望」というような重厚なテーマに展開したりもするのですが、この詩は違います。
Autumn leaves and rain,
The passion of the gale.
紅葉と雨
吹きすさぶ風
名詞を並べただけの、このぶっきらぼうな終わり方。寂しく寒い情景を代弁していませんか。
あれこれ描写したり物語を始めたりするのでなく、ただただ寒さがひしひし伝わってきます。
どうですか。この2行だけで、手がかじかんできて手袋がほしくなりませんか。
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今回の訳のポイント
風が吹きすさぶ冬の情景を、波止場、風見鶏、紅葉と雨というシンプルな単語だけで表したこの詩。最後の1行を日本語にするのが非常に難しいです。
Autumn leaves and rain,
The passion of the gale.
紅葉と雨
吹きすさぶ風
The passion of the gale. を直訳すると「烈風の情熱」と言うことはできます。
「烈風の情熱」という日本語では、冬の寒々とした景色よりも、赤茶色の乾いた砂漠に吹く風をイメージしてしまいませんか。映画『アラビアのロレンス』の砂漠のシーンや、古き良きカウボーイ映画の決闘シーンで、暑苦しい男たちがにらみ合う中、乾いた枯れ草がコロコロ転がっていくシーンが思い浮かんでしまい、吹雪の情景はイメージできなくなってしまいます。
かと言って、「熱」という字を避けるために「烈風の激しさ」としても、なんだか説明的で情景が伝わりませんし、波止場や風見鶏という日常的な言葉が続いたあとでは「烈風」という書き言葉も違和感があります。「風の激しさ」とすると、 gale 「烈風」の雰囲気も薄れてしまいます。
ここでは、困ったときの定番のテクニックに頼ってもいいですか。
英語は動詞的なので名詞のフレーズがあるとインパクトがある。それを日本語に訳す場合には、名詞的な日本語を動詞的に訳すとインパクトがある。
つまり、「風の激しさ」を「吹きすさぶ風」とすれば、解決!