第344回 翻訳家は読書三昧
出版翻訳のためには読書をしたほうがいいと思いながらも、なかなか読めずにいる……そんな方も多いかもしれません。何をどれくらい読めばいいかは個々の目的によって変わりますが、ある程度の読書量がアウトプットの質を担保することは事実です。
出版翻訳コンサルティングで企画を拝見していても、自分が出したい分野の本を中心に多くの本を読まれている方は、原書を適切な文脈の中に置いて把握できますし、「この原書の背後に、何十冊もの本を読んできているんだろうな」という厚みが感じられます。
もともと読書好きで出版翻訳を選んだ方なら、自分なりに選書をして次々と読んでいけるでしょうが、中にはそれが難しい方もいるかもしれません。そこで今回は、私がこの1ヶ月に読んだ本や今読んでいる本について、どのような理由で選書し、どのようなつながりが生まれているのかをご紹介します。
まずは、仕事の関係で『沸騰大陸』を再読しました。そこから同じ著者による『牙』へと関心がつながりました。象牙の密猟のために絶滅の危機に瀕するアフリカ象をテーマにしたノンフィクションです。以前に読書会で『きこえないこえ』という絵本を課題図書にしたことがあり、同じテーマを扱っていたのです。絵本で触れたテーマをノンフィクションで詳しく知りたいと思ったことと、『沸騰大陸』で著者の仕事に信頼感を覚え、同じ著者の作品で広げていきたいと思ったことから読みました。
『沸騰大陸』では『星の王子さま』が引用されていたことから、『誰が星の王子さまを殺したのかーモラルハラスメントの罠―』を読みました。以前に同じタイトルのミステリ小説を読んだ際、本書の存在も気になっていたのを思い出したのです。モラルハラスメントの観点から『星の王子さま』を読み解くという斬新なもので、「バラによるモラルハラスメントに王子さまが苦しんでいた」という解釈が説得力を持って展開されています。本書を読んでから、『星の王子さま』の作者サン=テグジュペリの思想や彼が追及していたものについて考える中で、絵本『迷子の魂』に通じるものを感じ、本書を再読しました。
思想として関連するところでは、『大きなシステムと小さなファンタジー』も読んでいます。著者の経営するお店のファンで、来店時に購入したものです。500ページ近くある本なので、以前から少しずつ読み進めているところです。同じ著者による『ゆっくり、いそげ』も再読しながら、著者の思想に触れる読書をしています。
これらの作品とも通じる思想を感じるものとして、『平熱のまま、この世界に熱狂したい』も今読んでいるところです。以前からタイトルが気になっていたエッセイが、お気に入りの書店のオンラインストアに新しく追加されていたのです。
この書店では、リアル店舗のほうで『書庫に水鳥がいなかった日のこと』を買いました。漢詩が登場するエッセイとして書評欄で見かけて、気になっていたのです。著者の感性に触れる読書の喜びを満喫しながら読みました。読み終えるのがもったいなかったのですが……今後何度も再読したい一冊です。
エッセイつながりでは『死ぬより老いるのが心配だ』も今読んでいます。以前に韓国の本の専門店で買って以来、積読になっていた本です。韓国の作品ではありませんが、BTS関連で話題になったことから平積みされていました。「老い」はずっと関心のあるテーマで、タイトルやカバーデザインの雰囲気にも惹かれて購入しました。
同じくエッセイでは『雨音を、聴きながら。』。広告や知人の紹介で気になっていたところ、お気に入りの書店のオンラインショップで新規入荷のご案内があり、そちらで購入しました。本書の関連から『あめのひ』『あめのひ』『どしゃぶり』という絵本も読みました。
小説では『ソロモンの犬』というミステリを読みました。電車の中で向かいの席に座っていた方が夢中で読みふけっていた本です。あまりにも熱心に読んでいらしたので「そんなに面白いのかな?」と気になり、カバーデザインも印象的だったので読んでみたところ……私も夢中になり、本書をきっかけに道尾秀介さんの他の小説も読んでみようと思っています。
他にも、小説では『私を庇わないで』を読みました。ルッキズムをテーマにした作品集という書評を見て、気になったことがきっかけです。今の時代のルッキズムや画像加工などは関心があるテーマのひとつです。同じ関心から、『顔に取り憑かれた脳』も読みました。ルッキズムやそこから発生するメンタルの問題を扱った作品として、以前から注目しているマンガ『Dressing 美容外科医 森野まりあ』の最新刊も読みました。
同じテーマへの関心から、『ホスト万葉集』という短歌集も読みました。発売当時に話題になっていたのは記憶にあったのですが、夜職への世の中の受け止め方の変化にも関心があり、最近になって手に取りました。
SFはあまり読まないジャンルなのですが、新聞のコラムで引用されていたショートショートが気になり、『フレデリック・ブラウンSF短編全集①星ねずみ』を読みました。
変わったところでは、図書館の蔵書検索でふと目に留まった『軽いノリノリのイルカ』があります。満島ひかりさんと又吉直樹さんという異色のコラボに興味を惹かれました。満島さんの回文と、それに触発された又吉さんのショートストーリーで展開される作品で、他の又吉直樹さん作品に今後つながりそうです。
往復書簡では『言葉の森のかくれんぼ』を読み進めています。翻訳家同士の往復書簡ということと、装幀の雰囲気から、好きなタイプの作品だと思って選びました。
同じく往復書簡では『ふたりの読書会』も読んでいるところです。先日、本書の著者の向井和美さんと、ノンフィクションライターの最相葉月さんのトークイベントがあり、その際に購入しました。私の専門とする読書療法とも関係する内容なので、その関心から読んでいます。イベント参加にあたって、読みかけになっていた向井和美さんの『読書会という幸福』も読み終えたほか、最相葉月さんの『れるられる』も付箋箇所を中心に再読しました。
童話集では『遠い野ばらの村』。安房直子さんの童話が好きなので、まとまったものを読みたいと思い、味戸ケイコさんが挿画を手がけているこちらを選びました。収録作はそれぞれ絵本にもされていて、『ひぐれのお客・初雪のふる日』は絵本でも読んでいます。
ご覧の通りジャンルも内容も様々ですが、読書をしていく中で自分独自の関心や興味が育っていきますし、そこから次に手がけたいものも自然に見えてくるのではと思います。ひとつのサンプルとしてご参考になればうれしいです。
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