INTERPRETATION

Vol.41 「決して諦めない事」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

今回ご登場のフリーランス会議通訳者:和田一美さんは、日英のみならず日仏の通訳者としてもご活躍中。わずか10歳の頃に描いた夢をきっかけに目標に向かって決して諦めない姿勢で何事にも向き合って来た和田さんの素顔、通訳の仕事を通じての様々なエピソードなど、そのパワーの源を教えてくれました。

<プロフィール>
和田 一美さん Kazumi Wada<

山口の県立高校を卒業後、津田塾大学学芸学部国際関係学科入学。在学中にカナダ モントリオール大学へ1年間交換留学を経験。大学卒業後、外資系企業、在ジュネーブ日本政府代表部派遣員を経て、外務省職員として採用される。ジュネーブでは通訳・翻訳業務も経験。帰国後、通訳学校に通いながらインハウス通訳者としてキャリアを積んだ後、フリーランス通訳者となり現在も活躍中。今年の9月からは旦那さまの赴任に伴い、NYに拠点を移す。

Q.語学に興味を持たれたきっかけは?

子供の頃から海外のドラマ・映画・本が大好きでした。なぜか日本のものよりも海外のものに惹かれたんですよね。最初の大きなきっかけは10歳の頃TVで観たアラン・ドロンの映画「太陽がいっぱい」に出会ったことです。それまで見ていたアメリカの映画とは空気感が全く違って、言葉では言い尽せないほどに魅せられてしまったんです。(見た日の夜は余韻で眠れなかったくらい・・)「いつかフランス語をマスターしてフランス語でアランドロンにラブレターを書いて渡すんだ!」と家族に宣言してしまいました。その後、更に海外の文化や英語などへの興味が強まりましたね。大学進学の際には、たまたま近所に津田塾大学の学生がいたこともあり、実際のカリキュラムを教えてもらい、津田梅子の本を読んで進学先を津田塾に絞ろうと決意しました。津田塾大学の勉強の厳しさに1年目は毎日泣いていたほどです。少人数のクラスの中には帰国子女や留学生などが多かった為、受験英語しか出来なかった自分は逆に目立ってしまいとても辛かったです。それでも諦めずにコツコツと頑張れば結果が出るはず!と信じて頑張っているうちに1年後にはふと、自分が頑張った分だけ成長している事に気がつきました。
後々通訳学校に通って分かったのですが、大学1年目のカリキュラムの一部は通訳学校と同じ様な本格的な授業だったようです。

Q.大学卒業後ご就職され約1年間外資企業にて働かれた後、山口のご実家に戻られたとの事ですが、その間どうされていたのですか?

自分自身が体調を崩してしまい、実家の山口に急遽帰る事になりました。その間が心身ともに一番つらい時期でした。
一番やりたかった語学(フランス語)の勉強をする環境が周りにはなく、山口県内にいるフランス人はたった一人。それでも勉強を続けたくて、何かにすがるようにただがむしゃらでした。毎朝早起きしてはHNK衛星放送のフランス語ニュースを必ずビデオに撮り、それを見ながらのシャドイング、書き下ろし、そして辞書を引き、徹底的に一人で出来る範囲の勉強を続けました。ほぼ、ひとり通訳学校状態だったかもしれないです。
又、案外忘れがちなんですが、通訳者にとって一番重要なのは母国語。日本語を研鑽する為、毎日 新聞を蛍光ペンでなぞりながら音読していました。新聞がまっ黄色になってましたね(笑)。

Q.フリーランス通訳者になろうと思ったきっかけは?

実家に出戻っていたとき、外務省の派遣員制度でパリの本政府代表部に勤務していた大学時代の友達からのアドバイスを受け、自分の求める環境がここにあると思いました。その後、私も試験を受けて合格し、ジュネーブに派遣されました。その当時から業務の一環として、VIPのアテンド的な通訳やフランス語での会議等に出席するなど貴重な経験を沢山積ませて頂きました。
大きな国際会議や交渉には日本からトップレベルの会議通訳者が派遣されて来ることがあるんです。その超一流の通訳者の仕事を見た時に本当にびっくりしました!人間にこんな事が出来るの??と思ったくらい完璧なパフォーマンスで、初めて他人の仕事の凄さに鳥肌が立ちました。本当に神々しかったです。
それがきっかけで、帰国後は勉強して会議通訳者になる!と心に決めました。

Q.目標があっても途中で挫折したり諦めたりした経験がある人って多いかと思いますが、挫折せずに真っ直ぐ目標に向かって頑張れる秘訣って何ですか?

私自身は自分が決めた目標だからこそ必ず達成したいという気持ちが強いので、諦めるという気持ちにはならないですね。覚悟を決めたから諦めないし、諦められないのかもしれません。
ただ頑張れる秘訣があるとするなら、多分、まずは漠然とした目標ではなく、最終(長期)的な目標を掲げ、その後、短期間で達成しやすい目標に落とし込んでいくことかもしれないです。それらの小さな目標を1つずつクリアしながら進んでいけばいいと思います。後は、具体的な「こういう人になりたい!」というモデル像というか目標を見つける事です。そのモデルとして目指す通訳者を思い描きながら、どうしたらそうなれるんだろう?って、トレーニングや姿勢にも工夫を自分なりに凝らすようになるでしょうから。

Q.とってもポジティブでハツラツとされている和田さんですが、フリーランス通訳者としてデビューした当時は、落ちこむ事が多かったとの事。変わるきっかけは何だったのですか?

通訳を始めた頃は、毎日仕事が終わり家に帰る度に「ふぅ~っ、はぁ~」って溜息をついて・・自分の人格を否定をするくらいズドーンと落ち込んでいたんですよ。そうしたら私のあまりの落ち込み具合を見かねた夫から「ただ闇雲に落ち込んでも通訳は上手くならないよね。この落ち込んでいる時間を使って他に出来る事があるんじゃないの?」とアドバイスを受けたんです。「おっしゃる通りです!」と思い、それからすぐに勉強を始めましたね(笑)、落ち込んでも実力が上がるわけではないし、失敗を次に活かせばいい、失敗から学ぼう!という気持ちで今はむやみに落ち込まないようになりました。

Q.フリーランス通訳者としての一番の魅力は何ですか?

沢山の出会いがある事が何よりも魅力的です。一緒に組む通訳者の方、お仕事をさせて頂くクライアントの方など、人間力やユーモア・センスがある素晴らしい方が多いので、そういった方々とお話をすると一冊のビジネス書を読むよりもずっと勉強になり影響を受けますね。そしてそれを取り入れる事で自分の成長にも繋がると思ってます。

Q.以前は海外でもお仕事をされてましたが、同じように海外で仕事をしたいと考えている方へのアドバイスをお願いします。

海外で仕事をするには語学力だけではなく、どの国に行ってもその国の慣習や文化を受け入れる心の柔軟さが必要だと思います。その国だからこそ巡り合えるチャンスが沢山あるので、それを無駄にせず、全部取り入れてやろう!という前向きな気持ちで何事にもトライすれば大きな成長につながると思います。

Q.日々行っているトレーニング・心掛けている事は何ですか?

 他の通訳者は私以上にいろいろとトレーニングをされていると思いますが、一例として、最低限行っている事といえば、今も昔も変わらず、時事ニュースを把握するのを兼ねて、新聞やNewsweek等英文、仏文雑誌の音読は欠かしません。それとお仕事に行く前などは、脳と口、耳にエンジンをかけるために、CNNやBBC等の英語ニュースを聞きながらのシャドイングなどもしています。もう少し時間があるときはメリハリを付けてより集中するために、10分15分とある程度の時間を決め、ニュースを聞きながら、時にはシャドーイングか、或いは、実際にニュースを通訳した自分の声をレコーディングします。さらにはそのニュースを録画しておくと、担当されたプロの放送通訳者のアウトプットも参考にすることができます。自分の声(アウトプット)を聞き返すと普段は気がつかないような癖などが分かってとっても効果的なんです。その癖を意識し矯正するような気持でトレーニングを続けていくと徐々に改善されていくのもわかります。
後は、英語の雑誌を読んだ時や、海外ドラマ・映画を見ている時に、面白い表現などあったらいつでもノートに書き取り、移動中など時間がある時に読み返すようにしています。フォーマルな表現やカジュアルな表現など、お仕事の中で多くのシチュエーションでの使い分けが的確に出来ることは通訳者にとって必要なスキルですから。

Q.語学以外の趣味はなんですか?

 昔から活字渇望症というくらい本が大好きだったので今でも暇さえあれば本を読みますね。(1カ月10冊から11冊くらい)英語・フランス語・日本語の本をバランスよく読むよう心掛けています。本を読んでいると吸い込まれるようにのめり込めるので、その他の事は一切考えなくていいんです。あと映画鑑賞もそうですね。現実を忘れたいのかもしれません。
それ以外では、体を動かすことが大好きなので、昔から続けているバレエに通っています。以前は月1回しか行く余裕がなかったのですが、同じ通訳者として活躍されている方々も週1~3回と体を動かされているというお話を聞いて刺激され、今は週1でレッスンを受けています。バレエもレッスンのときは踊ることしか考えられないので、心身ともにリフレッシュできる自分にとっては大切な趣味です。

Q.これからも通訳者としてご活躍されていくかと思いますが、将来の夢は何ですか?

ジュネーブで鳥肌が立つくらい感動した国際会議の同時通訳の雰囲気が忘れられません。あくまで夢ですが、自分が初めて感動した場所(国際会議)で会議通訳する事でしょうか。その夢に到達できるかはわかりませんが、自分で決めた目標なので、傷つきながら茨の道を一歩一歩、進んでいくしかないのかなと思っています。

【和田一美さんの七つ道具】

    • 電子辞書
    • ストップウォッチ
    • ノート(黄色) ※仕事中に白色の資料や書類との区別を付けるため
    • USB ※PCも合わせて用意されているとの事
    • チョコレート ※国産より輸入もの!カカオの%が高いほど和田さんにとっては効果的との事
    • のど飴

<編集後記>
とってもオシャレで明るく素敵な方でした。お話をさせて頂いたなかで、決してぶれる事なく目標に向かって進み続ける事が出来る芯の強さに圧倒されました。また、ベストペートナー:素敵な旦那さまの存在や、アクティブな趣味など、私生活・お仕事ともに充実されている秘訣を教えて頂いた気がします。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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