INTERPRETATION

Vol.43 「やるしかないのでやるんです」

ハイキャリア編集部

通訳者インタビュー

今回ご登場頂くのは会議通訳者の津野暁子さんです。英語に力を入れたのは、中学生の時に良い評価が貰えず悔しかったから。大学受験の結果が津野さんの通訳者への入口。通訳学校を卒業するまでは、努力と苦労の積み重ねだったとの事ですが、どんな苦労談でもとってもポジティブに話してくださいました。

<プロフィール>
津野 暁子さん Akiko Tsuno

青山学院大学 文学部英米文学科卒業。社内通訳としてベンチャー・製薬会社にて約2年就業後、ジョージタウン大学(ワシントンDC)サマースクールにて経済学単位を取得する。帰国後、金融、自動車などの大手企業にて社内通訳の経験を積み、平行して通っていた通訳学校卒業を機に、フリーランス通訳になり現在も幅広い分野にてご活躍中。

Q. 語学に興味を持たれた最初のきっかけは?

中学校で英語を習い始めた時に、周りには小学校の時から英語を学んでいた塾通いの子が多く、ちょっとくらい良い点数をとってもそれ以上が沢山いたので、英語だけがなかなか良い評価を貰うことが出来なかったんです。それが悔しくて、塾に行かなくたって自分で勉強して良い点を取ろうと頑張りました。そのまま高校でも五科目の1つとして英語の勉強をしていたのですが、たまたま友達に通訳者を目指している人がいたので、へ~そうゆう仕事もあるんだ?とちょっと通訳という仕事に興味をもつようになりました。でも実は、大学受験の時は語学関係だけではなく、幅広い分野の学部を受けました。その結果、見事受かったのは文学部英米文学科だけだったんです(笑)。その時に、神様は私に英語を勉強して通訳者になりなさいと言っているのかな?と思いました。

Q. 初めて外国に行かれたのはいつですか?

ワシントンDCにあるジョンズタウン大学のサマースクールに通った時です。たった1カ月でしたが、実はその次の年の秋から正式に入学しようと思って下見のつもりで行ったんです。結局状況が変わり、帰国後は日本で働き始めましたけど。

Q. その時の感想を教えて下さい。

たった1カ月間だったせいか、カルチャーショックやホームシックもなく、あまり東京と変わらないなと思ったのが正直な感想です(笑)。スターバックスなど、日本と同じ様な場所に同じお店があったりしたので。違いを感じたのは店員さんの態度くらいでしたね。サマースクールは様々な国から留学生がくるので、自分が日本人ということは特に意識しませんでした。通常は1学期かけて取得する単位を1ヵ月でとるので、毎日勉強づけで授業についていくのは結構大変でしたね。

Q. 通訳学校に通われていた時のお話を聞かせて下さい。

実は、大学4年生の時から通っていたんです。かなり長いですよね(笑)。初級クラスから始めましたが、上級クラスまであがり、卒業するまでには結構苦労しました。
先生方もとても厳しかったですし、思うようにいかなくて毎日のように落ち込んでいました。辛くて途中で諦めそうになった事も何度もありましたし、途中でお休みをした事もありましたが、せっかく今まで投資してきたのに、ここまできたらもう引けない!とムキになっていましたね(笑)。また、同じ立場で頑張っている周りの友達と励ましあったり、あとちょっと頑張れば!あと数点で上のクラスに上がれるのに・・という悔しさと希望をバネにどうにか頑張ってやり通す事ができました。

Q. 社内通訳からフリーランスになろうと思った切っ掛けは何ですか?

最初からフリーランスを目標に勉強していましたが、フリーランスになるには通訳学校の卒業に加え、日本の基幹産業である自動車と、やはり重要な金融の勉強の3つの条件がそろってからにしようと決めていました。
まず自動車企業で社内通訳として経験を積むチャンスを頂き、その後運よく通訳学校を卒業出来たので、本当はすぐにでもフリーランスになりたかったんです。そこをどうにか早まる気持ちを抑えて踏みとどまり、3つ目の条件である金融業界にて社内通訳の経験を積み勉強をして、やっとフリーランスになる事が出来ました。

Q. 通訳をしていて、諦めたいとか、やめたいと思った事はありますか?

毎回の仕事に対する事前準備、勉強は大変ですが、本当に切羽つまっている時はやるしかないのでやるんですよ(笑)。手を抜いて、結局あとでクライアントの前で恥をかいて困るのは自分ですからね。それを考えると諦めるとかやめたいとか考える間もなく必死こいてやりますね。通訳学校に通っていた時もそうでしたが、その渦中にいると視野が狭くなってそれ以外の事が考えられなくなるんです。自分にはこれしかない!っと思って追い詰められたからこそ、通訳にこだわって頑張って続けられたのかもしれないです。
あと、落ち込んだ時にアメリカ人が書くような楽観的な自分を励ます本を読んで、”うん、自分はまだ大丈夫だ!”って自分に言い聞かせてます(笑)。

Q. 通訳の仕事の魅力は何ですか?

事前の勉強や現場での対応など、大変な事は沢山ありますが、やっぱり楽しいのでまたやりたい!と思うんです。通訳をしているといろんな分野の仕事を頂くので、昨日知らなかった事を今日知って、今日出来なかった事が明日は出来るようになっていたりする事が何よりも楽しいです。

Q. これまでの経験で、特に印象に残っている失敗談はありますか?

実際は、”今日は凄くよく出来た!”っていう時は本当に少なくて、”まあまあ何とかなったかな・・。あ~今日はやっぱり出来なかった。”って思うのがほとんどですね。
特に印象に残っているのは、アメリカとの電話会議でスピーカーの方が全然話を止めてくれなかった時です。自分でも一回止まってほしいと言う勇気が無くて・・だんだん分からなくなってしまったんです。最終的に何とか自分なりにまとめましたが、訳抜けもかなりしてしまって、本当に怖い思いをしました。
逆に良く出来たって思う時は、事前にもの凄く勉強をして、勿論完璧ではなく失敗もあるけれど頑張った甲斐があったな、良かったな~って、終わって安心できる時ですね。あと、新しく覚えてずっと使いたかったけど中々使えなかった単語や表現が使えたりした時です。本当に小さい事で自分の自己満足ですけど(笑)。

Q. 津野さんの息抜き方法を教えて下さい。

ゆっくりお風呂につかる事ですかね。といってもすぐに逆上せてしまって10分くらいしか入れないですけど(笑)。あと、自宅で念願のエスプレッソ機で作ったカプチーノをお気に入りのソファーに座りながら飲む事です。エスプレッソ機は、通訳学校に通っていた時に、上のクラスに上がれたら自分へのご褒美に買おうと決めていたのですが、中々上がるのに時間がかかって・・やっと手が届いた思い入れのある物なんです。

Q. 通訳という職業上、普段心がけている事はありますか?

新聞は毎日読むように心がけてますけど・・なかなか読めなくて溜まってしまう時もあり罪悪感になりますね(笑)。でも重要だと思う記事は切り取って、後で読み返すようにはしてます。あと、本当は毎日シャドウイングをしたいんですけど、出来ない時は音読をしたり、電車の中で新聞のサイトラ(サイトトランスレーション)をしたりしています。毎日何分必ずやる!とは決めずに、その時の気分、時間、とフィーリングに合わせてやるものを決めてますね。
健康面では、とりあえずいっぱい睡眠をとるようにしています。少なくとも毎日7時間睡眠は心掛けていますね。あとは、昔風邪を引いて高温の熱を出して辛い思いをしたので、それ以来、手洗いうがいを必ずするようにしています。また、食生活では、食べたい時に食べて、食べたくない時は無理して食べませんが、必ず1日3食は食べるようにしています。体を壊して困るのは自分ですからね。

Q. 通訳になっていなかったら何になっていたと思いますか?

昔は外交官になりたいと思っていました。ただ通訳の仕事で、色々な分野で長けた方にお会いすると、研究者ってすごいな~と思いますし、日本の文化を極めている着付け師を見ると素敵だな~と思いますし、アナウンサーを見てると毎日違うニュースに接していて大変だけれども激動的で楽しいそうだな~とか、憧れる職種は沢山ありますね。選びきれないです(笑)。

Q. 通訳者を目指している方々へのアドバイスをお願いします。

オリンピック選手や、それぞれの業界のプロなど、才能だけでなく物凄い努力をして時間をかけてきた方でも本番で失敗する時はありますよね。それを考えると自分は失敗してクヨクヨするより、もっともっと勉強しないといけないんだなと思うんです。少しでもその人達に近づけるようにコツコツと努力する事が大切だと思います。

Q. これからも通訳者としてご活躍されていくかと思いますが、将来の夢は何ですか?

通訳として毎日の仕事を一歩ずつ着実にこなしながら、出来るところまでやれたらいいなと思っています。そしておばあちゃんになって、死ぬ前に”あ~私の人生はいい人生だったな~”って思えれば十分です(笑)。

Q. 津野さんの七つ道具はなんですか?

家族から送ってもらった物をお守り代わりに持っていったり、自分を励ます本を持って行ったりしますね。後は、のど飴・ホッチキス・紙・電子辞書、とペンの芯や乾電池の代えを持って行きます。何かあったときに自分が困らないように備えておきますね。

<編集後記>
回様々なお話を聞きましたが、大変な苦労をしているはずなのにそれを見せず、笑顔で語る津野さんの姿勢と芯の強さからは、学ぶものが沢山ありました。勉強でも事前準備でも体調管理でも何でも、手を抜いて困るのは自分!分かっていたはずなのに、改めて身に沁みました。また、話の所々で”分かります!分かります!”とつい私でも共感してしまう様な飾らない性格が魅力的で、しつこいくらい頷いてしまいました(笑)。本当に雰囲気の温かく柔らかい、素敵な方でした。すっかり余韻に浸ってます。

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ハイキャリア編集部

テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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