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ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

ビジネス・経済・金融などの分野の翻訳や通訳でよく出てくる表現をイギリスのメディアから取り上げてお届けします。

第88回 第50条、ついに発動――英EU離脱交渉開始

皆さん、こんにちは。週末はお花見を楽しまれましたか。
イギリスでは先週(3月29日)ついにEU離脱のプロセスが正式に開始されました。「EU基本条約第50条発動」というプロセス(第65回参照)で、具体的には「英国は斯々然々の事情により欧州連合を離脱させていただきます。イギリスとしてはXXXいたします。EUとはXXXという関係を築くことができれば幸いです。今後ともよろしくお願いいたします」という内容の書簡(メイ首相の署名)をティム・バロウ駐EU大使がドナルド・トゥスクEU大統領に手渡したことを指します。

というわけで、久しぶりにBrexit関連の表現を取り上げます。

1.divorce bill(手切れ金)
イギリスのEU離脱は、よく「離婚(divorce)」に例えられます。上記書簡を受け取ったトゥスクEU大統領が「We already miss you」とコメントした様子はまさしく「不本意にも妻に離婚を突き付けられた夫」のようでした。円満離婚(amicable divorce)を願うところですが、EU側は「ただでは離脱させないぞ!」という姿勢を既に表明しており、手切れ金は約500億ポンド(約7兆2千億円)とも言われています。

2.a return to a hard border(北アイルランドとアイルランド共和国の国境管理再導入)
基本をおさらいしますが、一般的に日本語でイギリスと呼ばれている国の正式名称はthe United Kingdom of Great Britain and Northern Ireland(グレートブリテンおよび北アイルランド連合王国)であり、Great Britainにはイングランド、ウェールズ、スコットランドという3つの国(countries)が含まれています。それぞれの国に議会(National Assembly/Parliament) があり、それぞれの政府はdevolved administration(分権政府/自治政府/権限移譲行政機関などと訳される)と呼ばれています。つまり4つの国が集まって「イギリス(the UK)」という連合王国がある、というだけでもややこしいのですが、さらに部外者には理解しがたいのは北アイルランドとアイルランド共和国の関係です。詳細はこちらNHKサイトをご覧いただければと思いますが、今回のBrexitで解決するべき問題の1つは、北アイルランドとアイルランド共和国の国境管理 (border control)です。現在は、the Common Travel Area (CTA/共通通行地域)に指定されているので、自由に人が行き来できますが、a return to a hard border(再び国境での入国審査が開始されること)が懸念されています。

3.Free Trade Agreement(FTA/自由貿易協定)
上記書簡において、メイ首相は単一市場 (the single market) からの撤退を明記しています。これはいわゆるsoft Brexitを完全否定するものです(第65回参照)。興味深いことに、cherry-picking(いいとこ取り)をしないとも言及しています(第52回参照)。そこで、イギリスはEUと新たなFTAを締結することを目指していますが、それが不可能な場合はWorld Trade Organisation (WTO/世界貿易機関)の協定が適用されることになります。そうなると、EU圏への輸出に関税がかかり、経済にも大きな影響がおよぼされますが、メイ首相は「No deal is better than bad deal(不利な条件に妥協するくらいな交渉がまとまらなくてもいい)」と強気のコメントを発表しています。

他、安全保障 (security)の問題や、在英EU市民・在EU英国民の滞在許可、交渉期間の延長などが主な交渉内容となっています。

イギリス在住者として、EU離脱が現実化したことはまさに「離婚」のような寂しさがありますし、当面は混乱状態が続くことは避けられませんが、離婚が決まったからにはなるべく円満に収まることを願うのみです。離婚しても近所付き合いは続きます。

2017年4月3日

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プロフィール

グリーン裕美

グリーン裕美さん
結婚を機に1997年渡英して以来、フリーランス翻訳・通訳として活躍。ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。 元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。 向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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