INTERPRETATION

第78回 イギリス、単一市場から撤退の方針を明確化

グリーン裕美

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

皆さん、こんにちは。ついに第45代米大統領が就任されました。実にトランプ氏らしい就任演説でしたね。ただこちらは世界中で十分報道されているので、今回は今年注目の世界ニュースのNo. 2を取り上げます。先週は、米国からのニュース以外にスイスのダボスで世界経済フォーラムが開催されたので、このBrexitの新しい動きを見逃した人もいるかもしれません。

米大統領就任式の数日前にイギリスのメイ首相がBrexitの基本方針を示す演説を行いました。EU離脱についてはこれまでSoft、Hardの(第65回参照)どちらの方向で進むのかをはっきりさせてほしいという産業界からの強い要望がありましたが、今回のスピーチで「EUの単一市場にとどまることはできない」と述べ、Hard Brexit(強硬離脱)の方針を明らかにしました。ただし、英政府はHard Brexitという言葉ではなくClean Brexit(完全離脱)という表現を好んでいます(hardには「難しい/大変だ」という否定的なニュアンスが含まれているため)。

主要な点は以下です。

1. The final Brexit deal will be put to a vote in both houses of parliament.

(最終的な合意内容は上下両院の投票にかける)

2. Immigration: The UK will control the numbers of EU citizens moving in.

(EU市民の流入数に制限を設ける)

3. The UK will pursue “bold” free-trade agreement with the EU, but not membership of the Single Market.

(EUとは「大胆な」自由貿易協定の締結を求めるが、単一市場からは撤退する)

4. New trade deals with non-EU countries

(非EU各国とは新たに貿易協定を締結)

5. Britain will not retain full membership of the customs union.

(基本的には関税同盟からも撤退する)

6. The UK may continue to make payments to EU

(場合によってはEUへの拠出金を多少は支払う)

7. Control of our own laws

(欧州司法裁判所の管轄から独立する)

8. Maintain the Common Travel Area with Ireland.

(アイルランド共和国との共通通行地域(CTA)は維持する)

注:イギリス(UK)とアイルランド共和国は自由な移動を認める特別な協定を結んでいる。アイルランド共和国(独立国)と北アイルランド(UKの一部)は陸続きでもあり、日常的に多くの人が行き来しているので、この協定がどうなるのかを懸念する人が多い。

以上が演説の主要点ですが、この演説前後に金融市場ではどのような動きがあったでしょうか。

先週明け16日の欧州為替市場では、メイ首相が「強硬離脱」を示唆するとの懸念から大幅なポンド安となりました。しかし、演説内容が市場が恐れていたほど強硬ではなかったということでポンドが買い戻されました。株式市場も意外に堅調です。

(昨年6月24日以降、ポンド安ですが、おかげで英輸出産業は大変好調です)

またトランプ米大統領は、Brexitに好意的で、英国との自由貿易協定にも非常に前向きなコメントを出しています。1月27日にはメイ首相が早速ワシントンDCでトランプ大統領と会談をするとのこと。英米の急速な接近が予想されます。

米国だけでなく、オーストラリア、ニュージーランド、インドなど過去にイギリスの息がかかった国々とは、新たな関係を築くための交渉が進んでいるようです。

今年行われるフランス大統領選およびドイツの総選挙の結果によってはEUのあり方自体が大きく変わる可能性もあり、EUがいつまで強気姿勢で交渉できるのかは疑問です。

イギリスのEU離脱の正式手続きは予定通り今年3月末までに開始するとのこと。メイ首相の言うGlobal Britain(世界を舞台に活動を広げるイギリス)に向けて、引き続き今後の動きに注目です。

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記事を書いた人

グリーン裕美

外大英米語学科卒。日本で英語講師をした後、結婚を機に1997年渡英。
英国では、フリーランス翻訳・通訳、教育に従事。
ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。
元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。
英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
2018年ITI通訳認定試験で最優秀賞を受賞。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議(UN、EU、OECD、TICADなど)、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。
向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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