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ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!

ビジネス・経済・金融などの分野の翻訳や通訳でよく出てくる表現をイギリスのメディアから取り上げてお届けします。

第82回 企業買収(takeover)

皆さん、こんにちは。今回は、2月17日にビジネス面のトップニュースとして報じられた史上2番目の規模となりうる巨大企業買収の案件を紹介します。

BBCニュースでの見出しはMarmite owner Unilever sees no merit in Kraft takeover。でも、イギリスに来たことがない方はMarmiteという最初の言葉でもやもや感を感じられるかもしれません。

Marmite(下図参照)とは、かわいい瓶に入っていて、「どろっとしたチョコレート?」と思わせるような茶色い飴状の中身で、ふつうトーストに塗って食べます。でも、間違ってもたっぷり塗ってはいけません! とても強烈な味です。You either love it or hate it(大好き派と大っ嫌い派に二分される)がキャッチコピーになるほどなので、イギリス人だからと言って誰もが好む味でもなさそうです。でも、いったん癖になると止められない味。私も最初はその匂いと強烈さに愕然としましたが、何度も挑戦するとだんだんと慣れ、甘いジャムよりも健康的なので今ではときどき食べています。

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前置きが長くなりましたが、好む好まないにかかわらず、イギリス人なら誰でも馴染み深く感じているMarmiteのオーナーであるユニリーバに米食品大手のクラフト・ハインツから買収提案があり大きなニュースとなりました。ユニリーバは、日本ではリプトン紅茶(Lipton tea)がよく知られているかと思います。一方のクラフト社はハインツ(Heinz)ブランドを傘下に持ち、イギリスではケチャップやBaked Beansで知られています。このように一般家庭によく知られているブランドをhousehold brandsと言います。

今回のトピックは「企業買収」とは、文字通り「ある企業が別の企業に買収されること」ですが、具体的には、「買収側が、買収先の株式を一定割合以上を保有すること」で、買収側が買収先の経営の主導権を握るようになるので、従業員の気持ちも穏やかではありません。外国企業に買収される場合は特に国民的感情にも影響を与えます。また、その案件がうまくシナジー効果を生み出すかどうかで株価も大きく影響されるので、株主も敏感になるニュースです。

ではその「企業買収」の英訳は、上記見出しのtakeover以外に何が思い浮かびますか?

よく知られているのは、M&A(merger & acquisition)のacquisitionではないでしょうか? でも「買収する」と動詞で表現したいときはどうでしょう?

acquisitionの動詞形はacquire。
「ソフトバンクがARM社の買収に合意した」だとSoftbank has agreed to acquire ARMのように使えます。他にbuy outも使われますが、どちらも思いつかなかったら堂々と単純にbuyを使いましょう。幼稚に聞こえる心配は不要です。
→Softbank has bought ARM(ソフトバンクがARMを買収した)
ちなみにbuy outのスペースを取り除いてbuyoutとすると名詞として使えます。
→ARM agreed to a billion buyout offer from Softbank(ARMはソフトバンクによる320億ドルでの買収提案に合意した)

企業買収というのは、「結婚」にもよく例えられます。SoftbankとARMのような電撃結婚もあれば、長くお付き合いをした後にやっと結婚を決める場合もあります。釣書に相当するのはDD(Due Diligence/デューデリジェンス、口語では「デリューデリ」)の調査書かもしれませんが、DDの場合は法務、財務、ビジネス、人事、環境といったさまざまな観点から綿密に調査されます。どんな相手かしっかり見極めた上で結婚を決めるというわけです。プロポーズ(買収提案)を断ったものの、その後経営難に陥り断ったことを後悔する場合もあります(Yahoo!とマイクロソフト)。あるいは、狙っていた相手がライバルに先を越される場合もあります。

また両想いでラブラブの結婚もあれば、どちらかが一方的にのぼせて強制的に結婚する場合(そんなのあってほしくないですが)もあるように、企業間でもfriendly takeover(友好的買収)とhostile takeover(敵対的買収)があります。acquisitionという場合は、たいてい両想いです♡

両想いであっても親に反対されることがあるように、企業買収の場合も親(政府、規制当局/antitrust authorities)が口をはさむ場合があります。その場合、与えられた条件に従えば結婚の可能性が残されます。

やっと結婚し、一緒に生活を始めたものの「あれ? こんなはずじゃなかったのに」ということはありがちです(ドキッ?!)。話し合いで解決できなければ、残念ながら離婚を決めるかもしれません。「離婚は結婚の3倍大変だ」と聞いていますが、企業の離婚も大変です。国際結婚の場合は、通訳を通して裁判所で争うこともあります。divorce(離婚)にあたるのはdemerger(企業分割、合併破棄)。

結婚資金がない場合は、LBO(Leveraged Buyout /レバレッジドバイアウト)という方法を使うことができます。これは結婚相手の資産や収益力などを担保に結婚費用を調達することです。

MBO(Management Buyout / マネジメント・バイアウト)は、企業の子会社や事業部門の経営陣が親会社からその事業を買収することで「結婚」よりも「子の親離れ」に近いかと思います。

先週のニュースでは、ユニリーバはクラフトからの提案にsee no merit, either financial or strategic(財務的にも戦略的にもメリットがない)と断りましたが、今後クラフト側が条件を引き上げることによってユニリーバの心が動くのかどうかに注目です。

以上、企業買収について取り上げました。グローバル化が進む中、日系企業の国際結婚(国際M&A)も増えています。その際、翻訳・通訳が必要となることも多いでしょう。このトピックが出たら上記のような視点で分析することがお役に立てば幸いです。

2017年2月20日

ビジネス翻訳・通訳で役立つ表現を学ぼう!


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プロフィール

グリーン裕美

グリーン裕美さん
結婚を機に1997年渡英して以来、フリーランス翻訳・通訳として活躍。ロンドン・メトロポリタン大学大学院通訳修士課程非常勤講師。 元バース大学大学院翻訳通訳修士課程非常勤講師。英国翻訳通訳協会(ITI)正会員(会議通訳・ビジネス通訳・翻訳)。
グリンズ・アカデミー運営。二児の母。
国際会議、法廷、ビジネス会議、放送通訳(BBC News Japanの動画ニュース)などの通訳以外に、 翻訳では、ビジネスマネジメント論を説いたロングセラー『ゴールは偶然の産物ではない』、『GMの言い分』、『市場原理主義の害毒』などの出版翻訳も手がけている。 また『ロングマン英和辞典』『コウビルト英英和辞典』『Oxford Essential Dictionary』など数々の辞書編纂・翻訳、教材制作の経験もあり。 向上心の高い人々に出会い、共に学び、互いに刺激しあうことに大きな喜びを感じる。 グローバル社会の発展とは何かを考え、それに貢献できるように努めている。
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