INTERPRETATION

師匠を持つこと

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 みなさんは何か習い事をやっていらっしゃいますか?私はこれまでいろいろな分野の教室に参加したことがあります。好奇心から出かけたのがほとんどですが、社会人になりたての頃は慣れない仕事でストレスを抱えており、何か別のことに携わってストレス解消を図りたいと模索してもいました。

 これまで参加したクラスは実に多岐にわたります。いけばな、アラビア文字カリグラフィー、マナー教室、英語私塾、ヨガ、ウォーキング教室、アナウンス訓練などなどです。

 通訳者として稼働する今も、なるべくたくさんのことに関心を抱いていたいと思っています。ただ、仕事が不規則なのと、子どもたちがまだ小さいため、長期的なスクールや夜のクラスなどに通うことはできません。このため、私の場合は必然的に単発クラスの参加がほとんどです。今、関心があるのは「色彩が心理に及ぼす影響」についてです。カラーコーディネートの本を読んだのがきっかけで、色が心に及ぼす作用について興味を抱いています。

 さて、長期であれ短期であれ、学校に通うことには大いなるメリットがあると私は考えています。一緒に学ぶ仲間から刺激を受けられますし、スクールという場所へ物理的に出かけることで、自分の勉強のペースメーカーにもなります。また、独学では得られない貴重な情報を学校で入手することもできるでしょう。

 私が考える通学の最大の長所、それは「師匠に巡り合える」ということです。「師匠」と一言でいっても、それは別に厳格な師弟関係を示すものではありません。自分にとって、その指導者から学ぶことが大きかったり、その先生の人格そのものから影響を受けたりすることが大いにありうるのです。

 私もこれまでたくさんの素晴らしい先生方に指導を受けることができました。英語の恩師からは、たとえ著名になっても謙虚心を失わず、礼儀正しくあることを学びました。高校時代の担任の先生からは、卒業後何年たっても、教え子を大事にする姿勢を学んだのです。今、通っているスポーツクラブのインストラクターからは、「自分が教えている内容を楽しみ、その喜びを参加者に伝える」ということを学んでいます。

 自分一人で勉強することも、楽しい作業です。けれども社会が人と人との関係で成り立っている以上、自分以外の人から何かを吸収し、学ぶことは大切なことだと私は考えています。

(2008年12月22日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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