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第280回 冒険に出たくなったときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

冒険。

うまくいくか分からなくても、未知の世界に飛びこむこと。

夏のある日、まぶしい日差しと風を感じながら砂浜で過ごしていたら、「アドベンチャー」という詩があることを思い出しました。目の前に広い空と海が広がっているイメージで、読んでみてください。

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Adventure
Adelaide Crapsey

Sun and wind and beat of sea,
Great lands stretching endlessly…
Where be bonds to bind the free?
All the world was made for me!

*****

アドベンチャー
アデレード・クラプシー

太陽と風と寄せては返す波
どこまでも広がる果てのない世界
自由な人を縛りつけるものなんてある?
この世界のすべてはわたしのためにある!

*****

たった4行の詩に、大きな空と海を見ているときの「この世界のすべてはわたしのもの!」という気分が、ぎゅっと詰まっています。

Sun and wind and beat of sea,
太陽と風と寄せては返す波

詩の最初は、全身で感じる「海」!

じりじり肌を焦がす太陽と、肌を撫でるべたっとした潮風と、ザザーンと寄せては返す波。この3つのキーワードだけで、海に行った気分になれるから不思議です。

英語としては、3つを並べるときはふつう A, B, and C. という風に、and は最後だけに付けるのですが、この詩では全部に and を付けていて、舌足らずな子どもが書いたような無邪気さがあって、キュンとします。

Great lands stretching endlessly…
どこまでも広がる果てのない世界

次には、もはや海を飛び越えて、果てなき世界へトリップしてしまっています。

終わりもなく、境界もない。これぞ「アドベンチャー」ですよね!

英語の面で言うと、land でなく lands という複数形になっているのがポイントです。land という単数では目の前の大地という感覚ですが、lands と複数形になるともっと広がりがあって、この世界のあちらこちらというイメージになります。The water で「海」を表すこともあるのですが、The waters と言うと「大海」という雰囲気になるのと同じです。

Where be bonds to bind the free?
自由な人を縛りつけるものなんてある?

「海」から「世界」にイメージが広がって、次は「人」!こういうイメージの連想が、詩のいいところですよねえ!

なぜ「人」かと言うと、free「自由だ」→ the free 「自由な人、自由というもの」という the の使い方があるからなんです。

冒険に出るには、自由な心がなければいけない。限界も境界もないかのように、無限の可能性を追求する勇気。

これぞ「アドベンチャー」ですね!

All the world was made for me!
この世界のすべてはわたしのためにある!

そして、「海」→「世界」→「人」と来て、最後は「わたし」!

目の前の自然である「海」からスタートして、もっと大きな「世界」に話を広げたところから、「人」という小さくも具体的な話になり、最後に「わたし」というものすごく主観的な話で締めくくる。

この急展開が「アドベンチャー」そのものですね。大海に漕ぎ出さなくても、大空に翼を広げなくても、気持ちだけで「アドベンチャー」に出かけられる。それが詩のいいところなんです。

*****

今回の訳のポイント

広い海を見て、心の「アドベンチャー」に出かけるこの詩。最大の難関は、最後の行です。

All the world was made for me!
この世界のすべてはわたしのためにある!

All the world was made for me! という台詞はよく見るので、意味はよく分からないけど、なんとなく雰囲気でかっこいいと思ってしまって、これまであまり深く考えてこなかったんです。けれども、この「アドベンチャー」という詩の中で出会い、突然色々な考えが思い浮かんだんです。

All the world was made for me! は、直訳すれば「この世界のすべては、わたしのために作られた」という意味になります。日常生活に近づけて考えてみると、そう感じることってけっこうあると思うんです。

服を買いに行ったときに「この服は、わたしのために作られた!」と思えるほど自分にぴったりの服に出会うことがあると思うんです。サイズ感も良くて、自分の雰囲気に合っていて、自分をさらに自分らしく見せてくれるような服。

誰かと出会って「この人は、わたしのために現れてくれた!」と感動するときもあると思うんです。自分と価値観が合っていて、自分と同じようなユーモアのセンスを持っていて、同じタイミングで笑える人。自分の暗い面はやさしく包んでくれて、自分の良い面は一層輝かせてくれる人。

そんな風にして、どんな困難や難関があると分かっていても、世界が自分にとって可能性がある場所に感じられて、自分らしく可能性を無限に追求してみようと思える。

そう思えたら、「アドベンチャー」に出かけられるのではないでしょうか!

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

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