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やりなおし英語道場

プロとアマの差?

10年以上も前のことですが、大阪のある通訳学校に通っていたころのことです。本科に上がった最初の授業で、講師の先生が“皆さんと私の英語力は恐らくそれほど変わらないと思うけど、私と皆さんの違いは通訳力です”とおっしゃいました。その初回の授業の後、その先生の授業をほとんど受けることなく、オーストラリアに行ってしまったので、おっしゃっていた“通訳力の差”というのはどう意味だったのかを確認することはできませんでした。英語力が変わらないとおっしゃったのは、謙遜もあったのだと思いますが、最近、この“通訳力の差”というのは、理解力の差という意味でおっしゃったのではと思うことがあります。

もちろん通訳力というのは非常に曖昧な言葉ですから、人によってその定義も変わってくると思います。パフォーマンスという人もいるでしょうし、表現力や語学力という方もいるでしょう。様々なものを総合したコミュニケーション力(伝える力)が通訳力と言ってもいいのではと思います。

現場に出たことがある人とない人は通訳力の差は明らかです。現場経験者の通訳は、何を伝えないといけないのかを確定させてから、言葉を選びます。伝えるべきポイントを聞いた瞬間に整理し、通訳を始めたらそれを一気に出していきます。

しかし現場経験のない人(あっても少ない人も含めて)は、まず聞こえた言葉をとにかく書き出していきます。その時には何を伝えるかという判断はなく、聞こえた単語にほぼ全力が注がれます。いざ訳すとなると、メモを見ながら、“さて、何を書いたっけ・・・。”とこの時点で考え始めるのです。

ある程度のストーリーは頭に残っているでしょうから、何となく(危なっかしい橋を渡りながら)訳し始めますが、突然頭が真っ白になり“あれ?ここの部分って何の話だっけ?この単語って何?なんて書いてあるか読めない!!”って止まってしまいます。また折角取れた単語なので、使わないともったいないと考えるのか、最悪の場合、その単語から連想される話を適当に創作したり、“ここで、〜みたいな単語が聞こえたような気がしたのですが・・・”と途中で訳を止めてしまうケースもあります。

現場に出たことがある方であれば、そんなことは絶対にしません(できません)。逐次であれば、不明な点を確認しながら、通訳をしますが、場合によっては全体の判断で、ある部分をカットしてしまうこともあります。どこの情報をどう出し、どこをどう編集するかの判断は通訳を始める前に決めてしまいます。中途半端に誤解を招くような言い方や、途中で訳が止まってしまうようなケースも極力避けないといけません。

このような瞬時の判断は、現場に出ないとなかなか難しいかもしれませんが、通訳訓練を受けている方でも、普段の練習の視点を少し変えるだけで、かなり変わってくると思います。1つは、自分は単語を訳しているのではなく、メッセージを伝えているという視点を持つことだと思います。

確かに単語の積み重ねでメッセージが構成されますので、正確に単語を捉えることは重要です。例えば、テクニカルな内容であれば、固有名詞が怒涛のごとく飛んできますから、単語をしっかりと取れないと通訳不能になることはあります。しかし基本はやはり何を伝えるかを瞬時に整理する理解力だと思います。いくら詳細情報や固有名詞が取れても、その情報によって何を伝えないといけないのかが自分の中でクリアになっていないと、誰にも何も伝わりません。

聞こえたら何か取らないと不安になる気持ちはよくわかりますが、文脈の分からない単語をいくら集めても、混乱または創作の元になるだけです。聞きながら何を伝えないといけないかを整理する聞き方をまずは、日本語から練習することが通訳訓練の基本だと思いますが、皆さんどう思われますか?


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プロフィール

上谷覚志

上谷覚志(かみたにかくじ)さん
1992年大阪大学経済学部卒業後、南イリノイ大学言語学部に留学し、特許事務所翻訳者・英語講師を経て、97年にオーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士課程入学。99年同大学院の修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律、商談、セミナー等幅広い分野で活躍するとともに大手通訳学校での講師も勤める。2006 年に英語力を生かして仕事で活躍できる人材を養成するAccent on Communicationを設立。後進の指導にも力を注いでいる。