INTERPRETATION

独学の通訳トレーニングについて

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

先週、指導先の通訳学校で体験レッスンが行われました。9月に入ってから、秋学期向けの体験レッスンを数回担当してきたのですが、毎回熱心な受講生の方々が集まっています。ほとんどが通訳学校は初めてという方たちです。

体験レッスンでは、これまで授業で使用した教材を取り上げ、通常の授業の流れを1時間ほどに凝縮して行います。クイックレスポンス、シャドウィング、リプロダクション、逐次通訳などをご紹介し、通訳学校がどのようなトレーニングを実際に行っているかを体験していただくのです。授業のあとの質疑応答時間では、学校に関することや通訳業などについて、多岐にわたる質問が寄せられます。

先日行った授業で、一つ興味深い質問がありました。「今学期は仕事の都合で入学できないが、来学期にはぜひ入りたい。それまでの半年間、どのようなトレーニングを行えばよいか?」という問いでした。非常に良い質問なので、私個人のお勧めする勉強法をここで改めてご紹介します。

(1)シャドウィングは毎日行う
シャドウィングは通訳者にとって、いわば歯磨きに等しいぐらい、日常生活の一部となっています。同時通訳者の場合、日頃から頬の筋肉を鍛えて言葉を発しやすい状態を保つことが大切です。シャドウィングは英語・日本語いずれも行うようにしましょう。毎日続ければ、表現力や単語力の実力アップにつながります。

(2)「紙の新聞」を毎日読む
今やインターネットでニュースはいくらでも読める時代です。しかし、あえて紙の新聞をお勧めする理由は、ニュースの重要性が一目でわかるからです。しかも新聞であれば、パラパラめくるだけでもどのようなニュースがあるのか、潜在意識にインプットされます。一方、インターネットでは自分でクリックしない限り、内容を読むことはできません。紙の新聞ならとりあえず写真や見出しを見るだけでもかなりの情報を私たちは吸収することができるのです。

(3)読書のすすめ
通訳者に必要なのは、語学力以上に知識力だと私は思います。どんなに言語操作能力が優れていても、肝心の内容がわからなければ、しっかりとした訳は作れないからです。知識を増やすために必要なのは読書。日頃から様々な分野の本を読むようにするとよいでしょう。たくさん読めば、読むスピードも速くなってきます。実はこの「読書スピード」も大いなる財産となります。というのも、いざ通訳者としてデビューしたら、案件のたびに大量の資料を読み込まなければならないからです。少ない時間で迅速かつしっかりと内容を把握できるようにすることも大切なポイントです。

今学期、たとえ学校に通えなくても、自力でやろうと思えばいろいろと工夫はできると思います。みなさんなりにトレーニングを続けることで、ぜひ通訳者デビューをめざしてがんばってくださいね。

(2008年10月13日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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