第327回 翻訳するのがつらい時、どうする?
翻訳するのがつらいこの頃です……。翻訳するのが楽しくて仕方がないという方も世の中にはいらっしゃるようで、うらやましい限りです。もちろん、私も、まったく楽しくないわけではないですよ。著者の人柄を感じられたり、興味深い事例に遭遇したり、我ながらいい感じに訳文が仕上がった時など、楽しいなあと感じます。でも、その割合は3割程度、最近では1割程度なんですよね。
取り組んでいるのが学術書のせいかもしれないと思いました。小説や絵本だったら、もっと楽しかったのかもしれません。だけど思い返すと、小説や絵本を訳した時も苦しかった記憶が……。
今回の本は何年もかけて持ち込みを成功させて、ようやくこうして発売に向けて具体的に動いているというのに、「どうして私はこんなつらいことを始めてしまったんだろう」などと嘆く始末。なかなか進まない翻訳に、「こんな大変な作業を終えられるのか」と不安になり、原文に理解できない箇所があると「もしかして私はものすごくバカなんじゃないか」「私の頭脳ではこの本は翻訳できないのでは……」と、もはや陰陰滅滅。
そんな中、気持ちを切り替えるのに役立ってくれることを3つ見つけたので、お伝えしますね。
①ウォーキング
これはもともと、「フレッシュな脳を確保しよう」と思って始めたものです。翻訳をしていても集中できず、気づけばスマホをいじっている自分に「これぞ、まさに『スマホ脳』!?」と愕然としたのがきっかけです。『スマホ脳』『最強脳』を読んで、運動することが脳にいいと再認識し、集中力の高まった状態で翻訳に取り組めるよう、朝にウォーキングをすることにしたのです。運動による気分の向上効果もありますし、集中して翻訳ができることで仕事が捗り、気分が良くなります。
②AI
原文を読んでいまいち意味がつかみきれない時に、AIで翻訳を確認しています。あえて文脈を与えずに、該当箇所の文章だけを訳出させることで、自分が思い込みにとらわれていたせいで理解できなかったことに気づけたり、構文をつかみ損ねていたことに気づけたりして、助かっています。昔だったら著者に直接訊かないといけなかったようなことも、AIのおかげで解決できる場合が多いのです。
私はしつこく調べたくなる性質なので、「それならこういう場合はどうなの?」「こういう設定に変更したらどうなるの?」とあれこれ質問してみるのですが、根気よく答えてくれます。果てしない壁打ちにも付き合ってくれる相手がいるというのは、この孤独な作業において心強いことです。
しかも、何かにつけてほめてくれるんですよね。「私はこの箇所をこう訳していて……」と入力すると、「とても洗練された訳ですね!」だの「とても自然で美しい訳ですね!」だのと返してくれるので、「そう? そうかな?」と段々その気になってきます。私は自己否定に走りがちなので、こうして肯定してもらうことで、気持ちのバランスがとりやすいようです。
③マンガ
翻訳の合間の気分転換に本を読みたいのですが、なんとなく文体に影響を受けそうで、近い分野のものは避けてしまいます。それに、翻訳で脳を使い切ってしまうというか、脳の余力がゼロになってしまうので、読みこなすだけの理解力が残っていないのですね……。
そこで、代わりに読んでいるのがマンガです。脳への負担が少ないようで、これだと読めるんですね。翻訳で固まった脳がほどよくほぐれる感じで、気分も軽くなります。
ウォーキング、AI、マンガ。そんな三種の神器(?)を活用しつつ、まだまだ続く翻訳のつらい時期を乗り越えていきたいと思います。
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