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サイトトランスレーション

ハイキャリア編集部

サイトトランスレーション

サイトトランスレーション

サイトラ

 私たちは中学校や高校生の授業で、英語を文の後から訳すように習いました。英語は動詞が主語のすぐ後に来ますが、日本語では文章の終わりのほうに来ますよね。だから、英文を最後まで読んでから訳す、ということがなされたのです。しかし英語の一文を最後のピリオドまで読まなければ意味を理解できないとしたら、どうしても時間がかかってしまいます。最後まで読んだら、最初の部分を忘れてしまったので、再度読み返さなくてはいけなかった、という覚えのある人もいるでしょう。TOEICのテストで問題を解いていて時間切れになったなんて経験はないでしょうか? しかしよく考えてみてください。最後まで文章を読まないと意味が分からないなんて、おかしいと思いませんか? 英語のネイティブスピーカーは、英語を聞いたまま、読んだまま、頭から理解しているはずですね。それと同じように英語を理解するトレーニングが、サイトラのトレーニングです。

 もしも英語を頭からどんどん理解でるようになれば、読むスピードは格段に早くなります。そして英語を聞いていても、頭の中がゴチャゴチャになってしまった、などということが無く、理解できるようになるでしょう。「英語を頭から理解したり、訳すなんてできない」と、最初はそう思うかも知れません。でも日本人同士のコミュニケーションを思い浮かべてみましょう。相手の言うことを最後まで聞かないと、相手が何を言おうとしているのか理解できないなんてことはないと思います。

 話しを聞いていくうちに「これは昨日何かあったな?」とか「これは○○のことかな?」と予測しながら、聞き手は話しを聞いています。そもそもそんなことを意識すらしていません。話し手も「これとこれを話そう」と最初から文章全体をすべて決めてから話す訳ではないですよね。話しながらどんどん情報を追加したり、訂正しながら話しをすると思うのです。英語ネイティブ同士の会話も同じです。英文和訳に慣れている私たちはつい英語を後から理解しようとしますが、相手の言おうとしていることを頭からどんどん理解していくことが、スムーズなコミュニケーションには不可欠です。

 このコーナーでは、「サイト・トランスレーション」というトレーニング法をご紹介します。まさに「英文を前からどんどん訳していく」という訓練方法です。通称「サイトラ」と呼ばれ、通訳者または通訳を目指す人たちには一般的なトレーニング法として多くの通訳学校で用いられています。サイトラは通訳を目指す人のためだけではなく、総合的に英語力を付けたい人、英語力が今一歩伸び悩んでいる人にも効果が高いトレーニング法です。是非1日5分でも10分でも毎日継続的にサイトラにチャレンジしてください。数カ月後にあなたの英語力は飛躍的に伸びているでしょう。

サイトラのやり方

 いきなり英語を頭から訳すといっても、初心者にはなかなか難しいと思います。まずサイトラのやり方をご紹介します。サイトラは英文のテキスト(音声があればリスニングもできるのでなお可)があれば、いつでもどこでも手軽に始められます。英語のテキストはインターネットなどいたるところで簡単に入手できると思います。通訳学校では政治経済や時事問題をサイトラすることが多いのですが、自分の好きな海外TVドラマや映画のスクリプトが入手できれば、それを教材にすることもできます。小説や、記事、タブロイド誌も立派な教材になります。食べ物と同じで、同じものをずっと食べ続けるのではなく、いろんなものを食べるほうが栄養のバランスが取れるように、いろんな分野の教材で練習することで、豊かな表現力を身につけることができるでしょう。もちろん自分のレベルに合った英語で、何かしら興味の持てる内容であることが重要です。サイトラで理解する前に、単語レベルで躓いてしまったら、どうしようもありませんからね。ですから、サイトラをする前に、事前に知らない単語をチェックしておくということも、いいでしょう。

教材を選んだらさっそくサイトラの練習です

 英文を意味のかたまりごと区切り前から順番に日本語に訳していきます。この段階では、特に英語をきれいな日本語にしようとする必要はありません。少しくらいおかしいかな、と思う日本語訳でも、それほど心配しなくても大丈夫です。英文を目で追いながら、情報の単位または意味のかたまりごとに、スラッシュ(/)を入れていくようにします。スラッシュを入れるときには、訳を気にする必要はありません。

 スラッシュを入れ終わったら、サイトラの実践です。頭の中だけで訳を考えるのではなく、声に出して訳していきましょう。つまり文章を頭から小さな意味の単位で区切って訳すのがサイトラのポイントです。

 サイトラは、同時通訳者が事前にスピーカーの読み原稿を入手したときによく現場で使います。読み原稿があっても、それは本番の5分前に手元に届くといったふうで、和訳を作る時間はありません。そして、スピーカーがその原稿の通りに話すかどうかも分かりません。ですから同時通訳者はその原稿にスラッシュを入れて、耳からの音声と原稿の内容を一致させながら、頭ごなし的に訳出します。

 音声がある場合には、スラッシュごとに音声を止めて訳をしていくといいでしょう。

サイトラ実例

 それでは、実際に以下のような英文をサンプルに考えてみましょう。

 2005 was concurrently a hopeful yet troubling year for global baseball. On the one hand, in July 2005, the International Baseball Federation (IBAF) had a joyful moment as it held a press conference in Detroit, Michigan, to announce the launching of the World Baseball Classic (WBC). Major League Baseball (MLB) and its players’ association, MLBPA, helped this development along with non-American professional baseball leagues and federations, including the ones from Asia.

 最初の文章から考えてみます。2005 was concurrently a hopeful yet troubling year for global baseball. という文章を2つに分けるとしたら、YearとForの間で分割することができますね。ですから、最初の文章は

2005 was concurrently a hopeful yet troubling year / for global baseball.

 としましょう。2つ目の文章はもう少し長いですね。On the one hand, in July 2005, the International Baseball Federation (IBAF) had a joyful moment as it held a press conference in Detroit, Michigan, to announce the launching of the World Baseball Classic (WBC).ですから、まずはOn the one hand(「一方で」という意味)が1つの塊。In July 2005も1つの塊ですね。The IBAF had a joyful momentも意味が分かりますよね。As it held a press conferenceも1つの塊です。In Detroit, Michiganも「ミシガン州デトロイト市で」と意味が分かります。To announce the launchingで1つ、そしてOf the World Baseball Classicで1つです。

 まず、この段階で「どこで区切るのが正しいか」などと迷う必要はありません。例えば最後の文章で、To announce the launching of the World Baseball Classicを1つとしても全く問題ありません。これ位の長さであれば、最初の内容を忘れてしまうことも無いですよね。逆に少し不安であれば、もっと短く切っても構いません。1文目を2005 was concurrentlyで切りたかったら、切ってしまっても問題ありません。重要なのはどこで区切るかを気にすることではなく、ある程度の細かい意味の塊を作り上げることです。こう考えると、ひとまず以下のようなサイトラ用の英文が出来上がるでしょう。

 2005 was concurrently a hopeful yet troubling year / for global baseball. // On the one hand, / in July 2005, / the International Baseball Federation (IBAF) had a joyful moment / as it held a press conference / in Detroit, Michigan, / to announce the launching of the World Baseball Classic (WBC). // Major League Baseball (MLB) and its players’ association, MLBPA, / helped this development / along with non-American professional baseball leagues and federations, / including the ones from Asia.//

 サイトラをする際には、スラッシュ単位で意味を考えます。以下のようになるでしょう。

 2005年は希望を持たせると同時に不安も残る1年だった/世界の野球界にとって// 一方で/2005年7月に/国際野球連盟が輝かしい時を迎えた/記者会見を開いたとき/ミシガン州デトロイト市で/WBCの開催を発表する為に// MLBと船主協会のMLBPAは/この発展の手助けをした/アメリカ以外のプロリーグや連盟と一緒に/アジアを含め//
さて、以上の訳を読んで、意味は十分に分かるのではないでしょうか。そのまま読み上げたら、文章として非常におかしなものですから、同時通訳者はこの様な情報をある程度聞きやすい日本語に直すトレーニングも受けます。しかしTOEICでの点数アップや、英語の理解度アップにはそこまでを求める必要は全くありません。

サイトラの効果

 サイトラで英語力は飛躍的に伸びることが実証されていますが、特に下記の効果が期待できます。

○文を頭から訳すので、読解のスピードが上がる。最初はスラッシュを入れることで余計な時間をとられるように感じるでしょう。しかしこのトレーニング法に慣れれば、スラッシュを入れることなく、上手なピアニストが初見の楽譜をそのまま奏でるように、見たままの英語をそのままで理解できるようになります。

○英語のロジックをできるようになる。文章の最後まで待ってから日本語に訳す、もしくは日本語として理解する、というのは、大切な結論を最後まで述べない日本語のロジックを用いて英語を理解しようとしている典型例です。英語の場合は大切な情報が最初に出てくるので、そこにずれが生じるのです。そのずれを超えて、文頭から情報を理解することで、英語のロジックが少しずつ身につくでしょう。

○リスニング力がつく。リスニングをしながら、英文読解のように文頭に戻って日本語に訳し、その間にも英語の音は先に進んでしまい、結局何が話されていたのかわからない、という経験があるのではないでしょうか? 英語を聞くだけでも難しいのに、文頭に戻る作業は一層英語の理解を妨げてしまいます。しかもその間にも英文は先に進んでいるのですから。英文を頭から理解することで、そのようなことがなくなります。

○英語を読む量が増え、情報量が格段に増える。先に述べたように、英語を読むスピードが格段に上がりますから、同じ時間でより多くの英文を読めるようになります。その結果、必然的に皆さんの情報量が増加するでしょう。

 サイトラはお金をほとんどかけずにできる効果高いトレーニング法です。是非英語のトレーニングにご活用ください。

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テンナイン・コミュニケーション編集部です。
通訳、翻訳、英語教育に関する記事を幅広く発信していきます。

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