ENGLISH LEARNING

第278回 「神様、お願い!」と言いたいときに思い出す詩

にしだ きょうご

今日をやさしくやわらかく みんなの詩集

「神様、お願い!」と思わず空に向かってお願いしたくなるようなときがあります。

そんなときに思い出す詩があって、雷の音が聞こえたら、空にお願いをするというような詩なんです。

「雷にお願い?」と不思議に思うかもしれませんが、まずは詩を読んでみてください。

*****

Prayer For Lightning
Amy Lowell

My corn is green with red tassels,
I am praying to the lightning to ripen my corn,
I am praying to the thunder which carries the lightning.
Corn is sweet where lightning has fallen.
I pray to the six-coloured clouds.

*****

かみなりさま
エイミー・ロウエル

わたしのとうもろこしは青々として房が赤くなってきた
雷鳴が聞こえたからちゃんと実らせてねってお願いしよう
かみなりをちゃんと連れてきてねってお願いしよう
かみなりが落ちたとうもろこしは甘くなるから
虹の雲にお願いするんです

*****

子どものころは「雷様におへそを取られるよ」と言われたりもして、雷はちょっと怖い存在でしたよね。しかし、この詩では、雷は恵みの象徴でもあるというのが、大事なポイントになっています。

My corn is green with red tassels,
I am praying to the lightning to ripen my corn,
I am praying to the thunder which carries the lightning.
わたしのとうもろこしは青々として房が赤くなってきた
雷鳴が聞こえたからちゃんと実らせてねってお願いしよう
かみなりをちゃんと連れてきてねってお願いしよう

キーワードは「とうもろこし」と「雷」。

「とうもろこし」は、北米、特にネイティブアメリカンの間では、神や大地からの贈り物、神聖な存在でした。

そして、「雷」は、thunder「雷鳴」とlightning「稲妻」のふたつを含んでいます。昔から「稲妻」という言葉があるように、雷は恵みをもたらし作物を育ててくれる存在。「雷鳴」がまず轟き、「稲妻」が光る。まるで、雲に乗ってやってくる雷神のようです。

だからこそ、雷はただの自然現象ではなく、「お願いする相手=神様」のようになっているのです。

Corn is sweet where lightning has fallen.
I pray to the six-coloured clouds.
かみなりが落ちたとうもろこしは甘くなるから
虹の雲にお願いするんです

「かみなりが落ちたとうもろこしは甘くなる」というのは、科学的な理由もあるようです。雷の放電現象によって、空気中の窒素が酸素と結びつき、雨に溶けて地上に降り注ぐと、作物の栄養になるのだとか!

そして、the six-coloured clouds 「虹の雲」というのは、6色であると!虹が何色であるかは、世界の様々な文化によって異なりますが、灰色のどんよりした雲でなく、不思議な力を持っていそうな雲。詩らしくて素敵ですよね。

*****

今回の訳のポイント

今回の詩で、特に心惹かれた単語は「とうもろこし」でも「かみなり」でもなく、詩の冒頭の My です!

My corn is green with red tassels,
I am praying to the lightning to ripen my corn,
わたしのとうもろこしは青々として房が赤くなってきた
雷鳴が聞こえたからちゃんと実らせてねってお願いしよう

My corn 「わたしのとうもろこし」とわざわざ言っていることに、ドキッとしたんです。

ただの「とうもろこし」でなく「わたしのとうもろこし」。それは、とうもろこしは神聖で雷が恵みをもたらすという、文化的・科学的な客観説明をしているのではありません。

自分の大切なもの(わたしのとうもろこし)の前に、人間にはコントロールできない現象(雷)が現れたとき、「神様、お願い!」と思ってしまうということだと思ったんです。それって、誰にでもあることだなと。

実際、幸せな時間を過ごしているときには「この瞬間よ、永遠に続け!」と願うし、不幸に見舞われたときには「時間よ、戻ってくれ!」と願うし、もう会えない人のことを想うときには「もう一度、会わせて!」と願ってしまうものです。

そういう自分にはどうすることもできないことに対して、「神様、お願い!」と心の中で言ってしまう。

そう願うのは、「大切な何か」や「叶わない願い」、そういう「わたしのとうもろこし」が誰の心の中にもあるからだと思うんです。

Written by

記事を書いた人

にしだ きょうご

大手英会話学校にて講師・トレーナーを務めたのち、国際NGOにて経理・人事、プロジェクト管理職を経て、株式会社テンナイン・コミュニケーション入社。英語学習プログラムの開発・管理を担当。フランス語やイタリア語、ポーランド語をはじめ、海外で友人ができるごとに外国語を独学。読書会を主宰したり、NPOでバリアフリーイベントの運営をしたり、泣いたり笑ったりの日々を送る。

END