第278回 「神様、お願い!」と言いたいときに思い出す詩
「神様、お願い!」と思わず空に向かってお願いしたくなるようなときがあります。
そんなときに思い出す詩があって、雷の音が聞こえたら、空にお願いをするというような詩なんです。
「雷にお願い?」と不思議に思うかもしれませんが、まずは詩を読んでみてください。
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Prayer For Lightning
Amy Lowell
My corn is green with red tassels,
I am praying to the lightning to ripen my corn,
I am praying to the thunder which carries the lightning.
Corn is sweet where lightning has fallen.
I pray to the six-coloured clouds.
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かみなりさま
エイミー・ロウエル
わたしのとうもろこしは青々として房が赤くなってきた
雷鳴が聞こえたからちゃんと実らせてねってお願いしよう
かみなりをちゃんと連れてきてねってお願いしよう
かみなりが落ちたとうもろこしは甘くなるから
虹の雲にお願いするんです
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子どものころは「雷様におへそを取られるよ」と言われたりもして、雷はちょっと怖い存在でしたよね。しかし、この詩では、雷は恵みの象徴でもあるというのが、大事なポイントになっています。
My corn is green with red tassels,
I am praying to the lightning to ripen my corn,
I am praying to the thunder which carries the lightning.
わたしのとうもろこしは青々として房が赤くなってきた
雷鳴が聞こえたからちゃんと実らせてねってお願いしよう
かみなりをちゃんと連れてきてねってお願いしよう
キーワードは「とうもろこし」と「雷」。
「とうもろこし」は、北米、特にネイティブアメリカンの間では、神や大地からの贈り物、神聖な存在でした。
そして、「雷」は、thunder「雷鳴」とlightning「稲妻」のふたつを含んでいます。昔から「稲妻」という言葉があるように、雷は恵みをもたらし作物を育ててくれる存在。「雷鳴」がまず轟き、「稲妻」が光る。まるで、雲に乗ってやってくる雷神のようです。
だからこそ、雷はただの自然現象ではなく、「お願いする相手=神様」のようになっているのです。
Corn is sweet where lightning has fallen.
I pray to the six-coloured clouds.
かみなりが落ちたとうもろこしは甘くなるから
虹の雲にお願いするんです
「かみなりが落ちたとうもろこしは甘くなる」というのは、科学的な理由もあるようです。雷の放電現象によって、空気中の窒素が酸素と結びつき、雨に溶けて地上に降り注ぐと、作物の栄養になるのだとか!
そして、the six-coloured clouds 「虹の雲」というのは、6色であると!虹が何色であるかは、世界の様々な文化によって異なりますが、灰色のどんよりした雲でなく、不思議な力を持っていそうな雲。詩らしくて素敵ですよね。
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今回の訳のポイント
今回の詩で、特に心惹かれた単語は「とうもろこし」でも「かみなり」でもなく、詩の冒頭の My です!
My corn is green with red tassels,
I am praying to the lightning to ripen my corn,
わたしのとうもろこしは青々として房が赤くなってきた
雷鳴が聞こえたからちゃんと実らせてねってお願いしよう
My corn 「わたしのとうもろこし」とわざわざ言っていることに、ドキッとしたんです。
ただの「とうもろこし」でなく「わたしのとうもろこし」。それは、とうもろこしは神聖で雷が恵みをもたらすという、文化的・科学的な客観説明をしているのではありません。
自分の大切なもの(わたしのとうもろこし)の前に、人間にはコントロールできない現象(雷)が現れたとき、「神様、お願い!」と思ってしまうということだと思ったんです。それって、誰にでもあることだなと。
実際、幸せな時間を過ごしているときには「この瞬間よ、永遠に続け!」と願うし、不幸に見舞われたときには「時間よ、戻ってくれ!」と願うし、もう会えない人のことを想うときには「もう一度、会わせて!」と願ってしまうものです。
そういう自分にはどうすることもできないことに対して、「神様、お願い!」と心の中で言ってしまう。
そう願うのは、「大切な何か」や「叶わない願い」、そういう「わたしのとうもろこし」が誰の心の中にもあるからだと思うんです。