INTERPRETATION

リーダーシップ

木内 裕也

Written from the mitten

 丁度今、アメリカ国内で行われているリーダーシップに関する4日間のセミナーに来ています。約30人の参加者がいて、そこに10名弱の日本人参加者も含まれているため、9時から18時までのレクチャーがすべて同時通訳されているのです。日本であれば3人体制で行うところですが、色々な理由で2人体制で行っており、3日目の今日はやや疲労度も高まっているところ。ただ今回は通訳ブースが即席で、写真のようにサウンドコントロールルームを使っています。そのため、とてもスペースが大きく、小さなブースにいる窮屈な感じはありません。資料も広げ放題。非常に興味深い内容のセミナーで、自分が同時通訳していない休憩時間もブースの中で「なるほど」と納得しながら楽しんでいる、という状況です。

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 ここではそのセミナーの詳細には触れませんが、2人の講師が様々な分野の研究や論文、そして経験をもとに教材を作り上げ、レクチャーをしていることが非常にユニークであると感じました。私も通訳者として様々なリーダーシップセミナーなどで通訳を行いましたが、例外もあるものの多くはビジネス書を読んでいるような感じで、「いかに効率性を求めるか」「いかに業績を短時間でアップさせるか」などに焦点が当てられるでしょう。そして色々なビジネスケースを持ち出して話を行い、小グループになって仮想プロジェクトに取り掛かったりします。

 今回のセミナーでもその様な話も出ますが、アリストテレスなどの哲学者の名前があったり、実践哲学の話をしたり、仏教的思想を紹介したり、ペルーに住む原住民のビデオが流されたりと、突然その場に参加した人には一体何のセミナーか分からないのではないか、と思われるほどです。これらの要素を考えてみると、色々なメッセージ性があると感じられます。その1つに多角的に世界を見ることの重要性が挙げられるでしょう。

 例えばCSRなどが流行したときには、業績だけではなく、社会への貢献を企業として行わなければならない、と多くの企業が活動を始めました。しかしそれは「利益があがっている時は社会貢献活動も行うけど、厳しいときはそんなことをしている場合じゃない」という考えも生み出しました。多角的に世界を見ることは、「厳しいときでも社会貢献をすることで、自然と利益が上がる」という可能性をCSRの考え以上に伝えているでしょう。そしてリーダーとして考えれば、アメリカビジネススクールで典型的に学ぶリーダー像だけではなく、アジア的社会でのリーダーのあり方、原住民たちにとってのリーダーのあり方などを知ることで、リーダーとして深みが出てくるのだと思います。

 私が大学で教えたり、学会に参加したりしていると、学際的研究の重要性を耳にすると同時に(今回のセミナーのように、多面的に自分のテーマを見つめるということ)、歴史や社会学など、伝統的なフィールドにバックグラウンドを置くことの重要性も耳にします。色々なことを知っているのもいいけど、Jack of all tradesになるより、何か1つ専門分野を持ったほうが研究者としてMarketabilityが高まる、という考えです。私は必ずしもその様な考えが正しいとは感じませんが、同時に1つの専門分野を持つ人々(学際的研究を行わない人々)の強みも目にしています。そんな中で、今回のようにビジネスリーダーのセミナーでも学際的なリサーチを下にセミナーを行い、世界中から参加者を集めるということにとても興味をひかれました。

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木内 裕也

フリーランス会議・放送通訳者。長野オリンピックでの語学ボランティア経験をきっかけに通訳者を目指す。大学2年次に同時通訳デビュー、卒業後はフリーランス会議・放送通訳者として活躍。上智大学にて通訳講座の教鞭を執った後、ミシガン州立大学(MSU)にて研究の傍らMSU学部レベルの授業を担当、2009年5月に博士号を取得。翻訳書籍に、「24時間全部幸福にしよう」、「今日を始める160の名言」、「組織を救うモティベイター・マネジメント」、「マイ・ドリーム- バラク・オバマ自伝」がある。アメリカサッカープロリーグ審判員、救急救命士資格保持。

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