第274回 欲張りなひとに出会ったときに思い出す詩
欲張り。
なんでもかんでも欲しがって、何かを手に入れると、すぐにまた別の何かを欲しがる。
そんな欲望に忠実な欲張りさんに出会うと思い出す詩があります。
四月から七月という美しい季節を描いた詩なのですが、欲張りとどのような関係があるのか。まあ読んでみてください。
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The Succession Of The Four Sweet Months
Robert Herrick
First, April, she with mellow showers
Opens the way for early flowers;
Then after her comes smiling May,
In a more rich and sweet array;
Next enters June, and brings us more
Gems than those two that went before;
Then, lastly, July comes, and she
More wealth brings in than all those three.
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美しい四か月
ロバート・ヘリック
まず四月 やさしく降る雨が
早咲きの花たちを迎える
それから五月 にこにこ楽しい五月
もっと豊かで甘い美しさで彩る
次に訪れるのが六月 四月や五月よりも
もっと煌びやかな宝石とともに訪れる
そして最後に七月がやって来る
四月や五月や六月を超える豊かさが
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これは、欲張りじゃないですか?
四月もいいけど、五月はもっといい。五月はいいけど、六月はもっといい。四月も五月も六月はいいけど、七月はもっといい。
子どもに置き換えると、「ハンバーグもいいけど、ピザも食べたい。ピザもいいけど、スパゲッティも食べたい。ハンバーグもピザもスパゲッティもいいけど、フライドポテトも食べたい」という感じで、欲張らずに早く決めて!という状況に近いなと思ってしまったんです。
大人だって、趣味で際限なくグッズを収集したり、予定をぎゅうぎゅうに詰め込んだりしてしまうわけで、欲張りは普遍的なものだと感じたんです。
First, April, she with mellow showers
Opens the way for early flowers;
Then after her comes smiling May,
In a more rich and sweet array;
まず四月 やさしく降る雨が
早咲きの花たちを迎える
それから五月 にこにこ楽しい五月
もっと豊かで甘い美しさで彩る
詩そのものは、春から夏への移り変わりを、この上なく美しく描いています。
四月と言うと、美しく咲く花々というイメージですが、この詩では mellow showers「やさしく降る雨」というのが、早春の美しさを際立たせています。しっとり降った雨が、花々に滋養をもたらすんですよね。
五月には春の豊かさが爆発して、甘い花々が咲き誇ります。
これだけでも十分美しく満足なはずなのですが、人間というものは欲張りで、話は終わりません。
Next enters June, and brings us more
Gems than those two that went before;
Then, lastly, July comes, and she
More wealth brings in than all those three.
次に訪れるのが六月 四月や五月よりも
もっと煌びやかな宝石とともに訪れる
そして最後に七月がやって来る
四月や五月や六月を超える豊かさが
六月の美しさは、 Gems「宝石」のように煌びやかですよね。
花々や草木の緑。それを濡らす雨粒。日が伸びて、光と色彩が満ちてくるのが六月。
最後に訪れるのが七月です。日光と雨を浴びて、生命力を漲らせる草花たち。瑞々しさとエネルギーに満ち溢れていますよね。
こうやって四月よりも五月、五月よりも六月、その全部よりも七月にはもっと美しさがあると説いていて、「欲張り」について考えさせられました。
一般的に、欲張りと言うと、満足することなく次々新しいものを求めて、軽薄な感じがしてしまいます。
しかし、この詩を読むと、欲張りの本質は別のところにあると思えてきます。
欲張りなのは、好奇心旺盛でひとつのものに囚われずに心が開かれている証拠で、どの物事にも美しさや価値を見出してしまうからですし、それぞれに対して純粋に驚きと喜びを感じてしまうからなのだと思います。
レストランでメニューを見ながら目をキラキラさせている子どもも、予定を詰め込んでにやにやしている大人も、ある瞬間から次の瞬間へ、軽く歴代1位を越えてくるものに出会ってしまったという感覚なんですよね。
それは、四月から七月という、光と色彩と生命力に溢れた季節を生きるのと同じだと思うんです。
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今回の訳のポイント
春から夏にかけての美しさを、素朴に率直に謳いあげたこの詩。その最大のポイントは、she という単語です。
First, April, she with mellow showers
Opens the way for early flowers;
まず四月 やさしく降る雨が
早咲きの花たちを迎える
この詩では、季節を she と呼んでいますが、こうした擬人化の手法は、詩でよく見られます。
単に、「四月は~です」「五月は~です」と客観的に説明するのでなく、ひとりひとりの女性の魅力を謳いあげるかのような手法は、いかにも詩らしいロマンチックさがあります。
このように季節と女性のイメージを結び付けるのは、詩の定番と言えます。
春から夏にかけては、生と再生、滋養と豊饒がキーワードで、それらのシンボルとして女性が想起されます。
結論、この she は、どうしても日本語にはできないのがつらいところで、季節自身が「迎える」「彩る」「訪れる」「やって来る」というように擬人化を強調することで、許してください!