INTERPRETATION

体調不良から見えたこと

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 以前このコラムで、「毎年2月になると寝込むほどダウンする」と書いたことがありました。ところが今年は新型インフルエンザもなんのその、冬の間ずっとピンピンしていたのです。「さては毎日続けているジョギングのお陰で体力がついたな。よしよし」と自己満足に(?)浸っていた4月第1週に、体調を崩しに崩しました。

 それまで連日4時起きで早朝ジョギング、週1回の筋トレに日々の栄養管理など、自分で自分の体を十分守ってきたつもりでいました。ところが4月4日日曜の夜中あたりからのどの調子がおかしくなったのです。以前、私は声を完全に失って仕事で大迷惑をかけた経験があります。次の仕事は6日火曜日の早朝・放送通訳シフト。月曜日の様子を見つつ、対応できないようであれば月曜の早めに代替通訳者をエージェントにお願いしなければなりません。

 幸い月曜日は体力も回復。ところが火曜朝、目が覚めてみるとのどがものすごく痛いのです。はたして6時間の放送通訳が務まるか、大いに不安に思いました。けれども始発で出ていくような早朝シフト。今更「風邪をひいたのでできません」と言おうにも、エージェント自体まだ業務を開始していないような時間帯です。のどあめを持ち、コンビニでビタミン系のドリンクを買い、スタジオ入りしました。

 よほど運が良かったのでしょう。オンエア中は緊張感もあってか、のどの痛みは感じることなく無事番組シフトを終了できました。けれどもその反動ゆえか、帰りの車内ではぐったり。いつもならスタジオから2駅分歩き、車内では立って帰るのですが、さすがに今回は崩れるがごとく座席に座りこみました。食欲も出なかったため、持参したお弁当箱がカバンの中でズッシリしています。

 

 この日は子どもたちのダブル習い事の日。息子は「くもん」とプール、娘は「くもん」とピアノです。夕方からは私が在住する市関連のレセプションに招かれていたので、子どもたちのお迎えと夕食はあらかじめ近所に住む義父母に頼んであります。「今日のところはとにかく子どもたちをくもんへ送り込んだら私はレセプションをキャンセルし、食欲もないから夕食後までギリギリまで寝ていよう」と決めていました。子どもたちは義父母宅で夕食を食べさせてもらい、入浴・就寝のためにわが家に帰ってくれば良いわけです。

 そんなシミュレーションを頭の中でしながら学童へお迎えに。ところが指導員の先生に「お兄ちゃん、ものすごく咳が出ています」と言われ、本人も「頭ガンガン痛い。くもん休む」と辛そうです。しかも今日は火曜日でかかりつけの小児科医は休診。とりあえず息子を自宅へ連れ帰って寝かせ、娘をくもんへ送り届けました。私自身、のどは痛いし体はフラフラ状態です。そして帰宅し、「とにかく今日中に息子を診てもらいたいから、私のかかりつけの内科医へ行こう」と決定。息子を起こして車に乗せ、1駅先の内科医の門をたたきました。

 ところが「あいにくうちの内科はお子さんの場合、中学生以上なんです」とのこと。「実はいきつけの小児科医の先生がお休みで・・・。小3ですが診ていただくことは難しいでしょうか?」「大変申し訳ないのですが・・・」というやり取りを経て再び車に。別の内科医へ到着し、診察、処方箋・薬入手ですべてが終わったのは夕方6時を回っていました。

 翌水曜日。息子はすっかり元気になり、娘ともどもかねてから約束していた「新学期が始まる前日にお母さんと一緒に本屋さんへ行くツアー」を朝から楽しみにしています。一方の私はフラフラ。午前中寝かせてもらって何とか歩けるようになり、午後、出発しました。

 しかしやはりこうした無理がたたったのか、翌日木曜の娘の入学式は微熱状態。のども相変わらず痛くて、写真撮影の笑顔もひきつっていました。そしてとうとう金曜日、「このままでは週末の講演の仕事ができなくなる!」と焦った私は総合病院の耳鼻咽喉科へ行き、のどカメラで声帯も診ていただき、薬を処方されてようやく一息ついたのでした。

 幸い週末には大分体調も良くなりました。講演も無事終了し、とにかくホッとしています。今日からは新しい一週間。先週の体調不良で仕事のバックログが大幅にたまっていますので、あとは優先順位をつけて一つ一つこなしていくのみです。

 今回つくづく思ったこと。それは「自分の体力は過信しない」「自分の健康あってこその仕事」、この2点でした。良い仕事をするためにはとにかく無理をしないことだとしみじみ感じています。「今週の一冊」は今回はお休み。また来週までに英気を養ってきますね。

 (2010年4月12日)

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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