INTERPRETATION

感動するサービスとは

柴原早苗

通訳者のたまごたちへ

 先週の3連休は本来であれば、家族でスキー旅行へ出かけていたはずでした。ところが二日前から息子が風邪気味、夫も体調不良とあり、このまま出かけてもかえって悪化するだけだろうなという状況になったのです。でもその一方で、「せっかく何カ月も前から予約していたし」「もしかしたら当日になって体力が回復するかもしれない」と心は揺れました。そのホテルのホームページを見ると、前日までの予約取り消しだと20%、当日だと50%のキャンセル料とあります。ギリギリまで悩みましたが、結局キャンセルすることにしました。

 予約課に電話をかけると、最初に女性が出て、そのあと、男性の担当者が電話口に出てきました。

 「息子が風邪をひいてしまったので、大変申し訳ないのですが、今回はキャンセルのご連絡でお電話さし上げました。ホームページを拝見したら、前日だと20%のキャンセル料と出ていたのですが、手続きはどのようにしたらよろしいでしょうか?」

 するとその担当者は、こう述べたのです。

 「今回は事情が事情ですので、結構ですよ。またお待ちしております。関東も今晩から寒くなるでしょうから、どうぞお大事になさってください。」

 私はこの対応に大いに感銘を受けました。不景気の今、キャンセル料をとらないことは、ホテルにとっても痛手のはずです。規定ではキャンセル料が発生する仕組みになっているわけですから、本来であれば、私が払わなければならないのです。けれどもそれを請求するどころか、この男性は息子の体調まで心配して、お見舞いの言葉をかけてくださったのです。

 私は、これぞ真のサービスだと思いました。

 サービスというのは、短期的なものではないと思います。また、近視眼的な損得勘定で成り立つものでもありません。むしろ、長期的に見て、良き関係を築くことがファンを増やし、ビジネスを発展させるのだと考えます。今回の例で言うならば、私はこのホテルのファンになり、いつか絶対にまた予約をして泊まりに行こうという気持ちになり、「ここのホテルは素晴らしい」と口コミで広げていこうという思いを抱くようになりました。

 このホテルおよび担当者にとって、私からの「キャンセルしたい」という電話は、ビジネスの観点からすればネガティブなメッセージだったはずです。しかし、そうした中でも相手を気遣うという姿勢は、常日頃からホスピタリティの気持ちがなければおそらく出てこないと思います。私も通訳者として、このサービスマインドを忘れずに、今年は仕事をしていきたいと思っています。

 ちなみに、どこのホテルか気になる方は、「越後湯沢 ピングー」で検索してみてくださいね。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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