INTERPRETATION

講師もつらいよ!

上谷覚志

やりなおし!英語道場

こんにちは。お元気ですか?蒸し暑い日が続いていますね。

さて私事で恐縮ですが、先週の土曜日に5月から始まった私の学校の授業が月末でタームが無事終了しました。クラスに来てくれた方の中にはもう何年も授業を担当させてもらっている方もいて、感謝の気持ちで一杯です。次のクラスも受講してもらい、よかったと思ってもらえる授業にしないとと今から次の9月末からの授業の構想を練り始めています。

今回は通訳クラスの講師のつぶやき・・・について書いてみたいと思います。いつも難しいと感じるのが生徒の方のモティベーションをいかに持続してもらうかということです。生徒さんのほとんどが社会人の方で、ご自身で決断をされ入学されてきたので、入学数週間は皆さんかなりやる気もありいいのですが、「どうも通訳になるというのは思ったよりも時間もかかりそうだし、勉強も大変そうだ」ということで挫けてしまいそうな方のやる気をいかに維持してもらうのかと、「時間がないんです!」と悲痛に訴えてこられる方にいかに自宅で練習してもらうかの指導が一番難しいと感じます。

前者のパターンだと、あとどれくらい勉強すれば通訳になれるかというマイルストーンを示すことができれば一番いいのですが、実際にはそううまくは行きません。

講師としては各生徒の方が通訳として仕事をするのに、どれくらい練習をすればいいのか、これまでの経験値から感覚的にわかるのですが、それを言葉で表現するのは至難の業です。受験の偏差値のように他人との相対的な数値で自分の通訳スキルを評価することができないので、あとどれくらい頑張ればということを伝えられないもどかしさをいつも感じます。

「今のレベルであれば、秘書兼通訳とか簡単な社内通訳であればスタートできます」とは言えても、「あと半年勉強すれば秘書兼通訳とか簡単な社内通訳になれますとか、〜を覚えたら秘書兼通訳とか簡単な社内通訳になれます」とはなかなか言えないものです。

もちろん生徒の立場からすれば、自分がどこにいてどれくらい目標に近いのかわからず、勉強を続けるのは難しいということもよくわかります。ただ海外のように、通訳になるための国家資格があるわけではなく、ある一定レベルを超えないと絶対に通訳になれないわけではなく、具体的な基準がないということも話を難しくしている一つの要因とも言えます。

それから後者のパターンも、どこまで踏み込んで話をしていいのかの判断が難しい場合があります。場合によるとキャリアカウンセリングや人生相談のようになってしまう場合も少なくありません。ただ、時間がないという問題の本質は、仕事とか家事育児が大変ということよりも、時間をいかに捻出するかというタイムマネージメントの問題である場合が多いようです。そういう場合によく使う手は、先輩通訳のスケジュールや繁忙期の自分のスケジュールを説明し、宅配便で送られてきた膨大な翌日の資料を夜仕事が終わってから、読み始める話をするとほとんどの方は黙ってしまいます(笑)。

サイトラやメモ取りといったわかりやすいスキルを教えるよりも、いかに生徒の方のモティベーションを維持し、自宅での勉強を継続してもらうかの方がはるかに難しいと感じます。

よく授業で言うのですが、学校の中のどのクラスにいるとか、進級できるとかできないということを学習の基準や目標にしないようにと。大切なのは客観的に自分の今の力を判断し、いつ通訳デビューするのかを自己プロデュースする力だと思います。進級を目標にすると勉強が非常に偏ったものになってしまい、大局的に自分の力をつけるという勉強をしない生徒さんを数多くみてきまし、通訳になるというのもキャリア選択の一つだと思いますので、学校の決めたクラスではなく、今の自分を客観的に判断し、いつマーケットに飛び出すかのタイミングを講師と話をしながら計画を立ててもらえればと思います。

そのためにも進級できないからといって学校をすぐに変えるのではなく、相性の合う講師を見つけ、長期的なデビュープランを一緒に考えてもらい、訓練をしていくのが一番近道だと思います。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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