INTERPRETATION

手間暇かけて手抜き勉強

上谷覚志

やりなおし!英語道場

先週のコラムでタンゴ!タンゴ!タンゴ!とかファッション道場ではありませんか・・・と書いたからか、今日の通訳の仕事(直前まで資料がこなくてどんな内容かよくわからず放置していました)がなんとファッション関係の同通でした。前の晩10時過ぎに帰ってから準備を始めたら、わかないタンゴ!だらけ!!普段ビジネス関連の固い内容が多いので、ファッション関係のきらびやかな、情緒豊かな表現に苦戦し、結局徹夜。フラフラで今コラムを書いています。いつまでたっても単語には苦しめられますね。

さて先週、「語彙の棚卸をしましょう」、そして「与えられたものから選んで覚えていく“通販学習”もやめましょう」ということでコラムを締めくくりました。では実際にどうすればいいのでしょうか?

一言でいうと“手間暇かけて手を抜く”勉強方法をお勧めします。まず“手を抜く”から説明しましょう。英語を勉強されている方だけではなく、通訳を生業としている人でさえ、日本語から英語に訳したり、英語で何かを表現したりして困ることはよくあるものです。真面目な人だと英語にできなかった日本語の表現をつぶしながら覚えていくという地道な作業を繰り返していくでしょう。もちろんすぐれた記憶力と根気があればこの勉強方法は理想的だと思いますが、実際にはそうはいきません。

ある日本語が出てきて、その日本語を違う日本語にどう言い直してみても英語にできない場合だけ、それに対応する英語の表現を覚えていくのがいいと思います。ここではしっかり手を抜いていただき、日本語のパラフレーズをしてみて、「どう言い換えても英語にはできない」というものだけに絞って覚えると、案外覚えないといけない表現や単語の数はかなり減らせると思います。こうすることで「どんなことでもどりあえず表現できる」という感覚と自信をつけてください。

ここでのポイントは、ある日本語に対する英語がわからなくても、すぐに駄目だとはあきらめず、別の日本語でどんどん同じ意味を表現(パラフレーズ)していきます。それからそれを自分なりの英語に直していきます。もし周りに合っているかどうかチェックしてもらえる人がいるのであれば、不安なところを確認すればいいですし、いない場合でも心配無用です。ここでは正しい英語が出るかどうかではなく、とりあえず英語で出せるかればOKとします。

生徒さんの中には、間違った「自己流の英語」を覚えるのは良くないのではと心配される方もいますが、そこまで神経質になる必要はないと思います。多くの場合は、「これが正解」というものはないのですから・・・。それに英語を常日頃から読んでいくと、何となくそれは言わないだろうなといういわゆる“語感”が磨かれていきます。逆にあまりにも自分の英語に自信がないという人は、読む量が少なすぎて英語の語感を磨くことから始める必要がるのかもしれません。

それで残りの“手間をかける”ですが、さっき手を抜いて覚える量を減らした分、調べるときはとことん調べてください。ほとんどの人が、和英辞典をつかって日本語の対訳を調べ、パッチワークみたいに置き換えて、「ハイできました!」で終わっていると思います。まず日本語のパラフレーズをするときには、広辞苑等の日本語の辞書を使い、日本語本来の意味を確認するところから始める場合もあります。それで和英辞典で引いてきた英語表現を英英辞典で確認し、その表現がカバーしている範囲が果たして日本語がカバーしている範囲と同じかどうかを確認します。

動詞や名詞を和英辞典で引いたときに、そのまま使えるのかどうかわからない場合があります。たとえば前置詞が必要なのかどうか、その動詞や名詞に使える副詞や形容詞はどういうものなのかもチェックします。案外この言葉の組み合わせ(コロケーション)のチェックが甘い人がいます。このコロケーションチェックは絶好の表現力アップのチャンスです。日本語では同じでも英語に直す時は使い分けないといけない言葉はたくさんあります。そういう細かいところは“手間暇かけて”調べあげることを忘れないでください。ここで手を抜いてはいつまでたってもちぐはぐな英語を話したり、書いたりしているレベルから抜け出せません。

そして最後に、自分で手間暇かけて調べ上げた集大成を声に出して何度も音読すればさらにいっそう定着率が高まり、次に使う時にすぐに口から出てくるようになります。

地味な作業ですが、結局単語や表現がもつ性格を知らない限りは、コミュニケーションには使えません。時間はかかりますが、一生ものの英語力をつけるためにはくれぐれも手間を惜しまないように!

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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