INTERPRETATION

美白通訳

上谷覚志

やりなおし!英語道場

先週は中学・高校に行ってEUやアイルランドについて通訳をした話をしましたので、今週もちょっと仕事関連のお話を・・・。

皆さん、フォーカスグループインタビューって聞いたことありますか?いわゆる座談会ってやつです。あるテーマに関して消費者か関係者にいろいろと意見を聞いてそれを製品開発やさまざまな施策に反映していくためのセッションで、IRと並んで通訳者がよくやる仕事です。ただ普通の通訳の仕事と違うのは、通訳をされる人は自分たちが通訳されているということを全く知らない点で、海外刑事ドラマみたいにマジックミラー越しに8名程度の人たちが進行役にリードされながら好き勝手なことを話しているのを見ながら同通していきます。

よく考えると、他人の会話を盗み見ているわけでちょっと不思議な感じがしますし、通訳されているとは思っていない分通訳泣かせなことを これでもか!と連呼されるので終わったらかなりぐったりします。トッピックによってやりやすさもかなり変わってきますが、今回はなんと“美白”。トピックを聞いた時点で、女性の方にお願いするように言えばよかったのですが、まあ一般的な商品だし、パートナーも知り合いで彼女はこういうトピックに強いからなんとかなるかなと思って、2日間の美白フォーカスグループの仕事をしてきました。

今回の化粧品に関する情報はもらったので、その情報と今売れている美白製品のリサーチをしましたが、美白製品っていろいろあるのですね!あらゆるものに美白成分が配合されていることすら知らず、ありとあらゆる製品が某化粧品メーカーの競合になりえることを知り、これでは準備のしようがない!!と半分諦めモードで現場入り。とりあえず化粧の基本アイテム、化粧水、乳液、美容液、保湿液、基礎化粧品からシミ、そばかす、くま、老班・・・といった自分が英語でこれまで考えたことのないような用語を書きだしてみたものの美白なんて考えたこともなかったので、何が飛び出すかだんだん不安になってきました。

いざ自分の番が回って予感的中。たぶん女性通訳だったら楽しくスラスラと訳せるのでしょうが、例えば“わたし〜美白だけじゃだめで〜、肌のはりとかキメとかくすみもきちんとケアしてもらわないと困るんで〜・・・”“(進行者に)これってシミですかね?かんぱんかな〜とか思ってるんですけど、どうなんですかね?”“乾燥肌なので、すぐつっぱっちゃうんですよね。だからってべっとりした仕上がりは嫌だし、さらっとした付け心地じゃないとだめなんです!”“美白は大事だけど、SPFが高すぎると伸びが悪いし、白浮きしちゃうでしょ。いかにも塗ってま〜すみたいだと、私は買いませんね”みたいな会話が延々と続きました。一瞬考えれば、もうすこしまともな訳がだせたかもしれませんが、なんせ同通なので搾り出すようにとりあえず出しました。後から自分の通訳を聞いたら(してませんけど)化粧が全部落ちるくらいの冷や汗をかくことになると思います。

自分が唸りながら通訳しているのを尻目に、隣で通訳する友人はさも楽しげに訳していたことはいうまでもありません。それにしても、女性の肌に対するこだわりは自分の想像をはるかに超えるものでした。季節や朝か夜かで化粧品を変えたり、何層もいろんなものを塗ったりとこだわり以上の執念に似たものを感じました。たまに厚塗り気味の方がいて“あっ”と見てしまうことがありますが、ここまで努力されているとわかれば敬意の念で見れるかなといろんな意味で学ぶことの多い仕事でした。

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記事を書いた人

上谷覚志

大阪大学卒業後、オーストラリアのクイーンズランド大学通訳翻訳修士号とオーストラリア会議通訳者資格を同時に取得し帰国。その後IT、金融、TVショッピングの社での社内通訳を経て、現在フリーランス通訳としてIT,金融、法律を中心としたビジネス通訳として商談、セミナー等幅広い分野で活躍中。一方、予備校、通訳学校、大学でビジネス英語や通訳を20年以上教えてきのキャリアを持つ。2006 年にAccent on Communicationを設立し、通訳訓練法を使ったビジネス英語講座、TOEIC講座、通訳者養成講座を提供している。

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