INTERPRETATION

第213回 やり遂げるための工夫

柴原早苗

通訳者のひよこたちへ

日常生活を営んでいると「あれもやらなくちゃ」「これもまだ終えていないし」ということがたくさんあります。「時短」「効率」などのことばがよく聞かれることから見ても、多くの人々が忙しさに翻弄されているのがわかります。

ご多分に漏れず私もそんな一人です。いかにして時間を捻出するか、家事・子育て・仕事・自分の勉強などをこなしていくかは永遠の課題です。このため、効率化につながるアイテムを導入したり、時間節約のヒントをビジネス書から仕入れたりと自分なりに工夫をしています。この取り組みはおそらくずっと続くのではないかと思うほどです。

ただ悲しいかな、今の時代は時間を節約したからと言って、大海原の時間がプレゼントされるわけではないのですよね。効率化してもさらに忙しさが倍増するように思えるのです。結局のところ、なぜかいつもあわただしい―そんな状況が続いてしまいます。

ではどうすれば少しでも「やり遂げられる」のでしょうか?最近私は以下の5つを意識しながら毎日暮らしています。

1.完璧を自分に課さない

何かに取り組もうとすると、つい人は「きちんとやらなくちゃ」という思いにとらわれてしまうようです。「正しくちゃんとやらねば」という考えは、それだけでも大きな負担になりますよね。ですので私は「すぐやる、ただし完璧でなくてよい」と言い聞かせてから取り組むようにしています。

2.二度手間を避ける

たとえば「やること」を思い立ったものの、「今はこれをやっているから後で」と考えたとします。以前の私は「やるべきこと」をとりあえず手元のメモ用紙に書いていました。そして後になってから手帳とにらめっこして「できそうな時間帯」を探し、その欄に書き写していたのです。けれどもこれでは二度手間になってしまいます。しかも進歩と言えば「メモを手帳に書き写したこと」だけ。先の作業を少し中断してでも仕上げられるならば、メモに書いている間に取り組んでしまおうと最近は思っています。

3.「~しなきゃ」と思わせる行動を改める

お土産のスイーツがおいしくてついつい食べ過ぎてしまった。「ああ、明日からダイエットしなきゃ」という経験は誰にでもありますよね。でも「~しなきゃ」ということば自体、私にはとても負荷がかかるように聞こえます。今の自分を否定して、よっこらしょと重い腰を上げなければいけないような語感なのです。ならばそもそも「~しなきゃ」と思わないような行動を日頃から心掛けるしかないと思います。「食べ過ぎた→やせなきゃ」「本を買いすぎた→読まなきゃ」と思うぐらいであれば、あとで感じるであろう後悔を思い描きつつ「今日は腹八分目にしておこう」「まずは1冊だけ買って、これを読了したら次を買おう」という行動に改めるべきなのかもしれません。

4.サボっても自分を責めない

「やらなくちゃいけないのはわかっている」「本当は今日こそ取り組むつもりだったのに」。こうした思いは私も頻繁に抱いています。けれども本来は「やらなかった」という事実を認め、「じゃ、今やろう」で済むはずなのです。それなのに「またさぼっちゃった」「この間も、その前も同じだったなあ」と過去を顧みては自分を責め始めてしまうのですよね。でもこれでは一向に前に進めません。それどころか後ろ向きに全力疾走しているにすぎません。事実を認めたならば、あとは「今」行動あるのみなのです。

5.まずは体を動かす

「できなかった、あ~あ」とため息をつきそうになったなら、体のどこかを動かすことに私はしています。たとえば「今日こそ仏検の過去問をやろう」と思っているのであれば、まずは「ペンを持ち」「テキストを開き」「CDをプレーヤーに挿入する」というところまでやります。重いものを持ち上げるわけではありませんので、「これぐらいは簡単!できる、できる」と自己暗示をしながら体を動かすようにしています。ここまでくれば、「せっかくプレーヤーに入れたから、再生ボタンを押してみようかな」と思えるようになります。

いかがでしたか?これらはあくまでも私個人の流儀なのですが、参考にしていただければ嬉しいです。大事なのは「やり遂げれば次のステップに到達できる」という喜びを体感し、それを繰り返し積み重ねていくことだと思っています。足踏み後退では前に進めないからこそ、わずかな行動をも大切にしていきたいと感じています。

(2015年6月1日)

【今週の一冊】

「北欧女子オーサが見つけた日本の不思議」オーサ・イェークストロム著、メディアファクトリー、2015年

ここ数年コミックエッセイが大ブームだ。ダイエットに関すること、一人暮らしの体験談、マラソン出場の話、片づけなど著者本人が体験したことをマンガとともにつづった本がたくさん刊行されている。

今回ご紹介する一冊もそんなコミックエッセイ。著者はスウェーデン出身の女性漫画家だ。子どものころに日本のアニメと出会い、その世界に魅了されて来日し、今では日本で暮らすのがオーサさんだ。

この本との出会いは偶然だった。紹介記事が出ていたのは読売新聞系列の英字新聞The Japan News。本紙では定期的に日本文化の紹介ページがあるのだが、そこに本書の一部が取り上げられていたのである。オーサさんはコンビニおにぎりが大好きなものの、開け方がわからず面倒に感じていた。しかしある日のこと、実はパッケージに書かれた番号順に引っ張れば手を汚さず開封できることに気づいたのである。そして4コマ漫画の最後のオチが「なぜ気づくのに半年もかかったの!?」というセリフであった。

日本でフツーに暮らす私たちにとっては何気ないことも、北欧出身のオーサさんにはフシギがいっぱい!日本の良さや面白さをたっぷり味わえる一冊である。

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記事を書いた人

柴原早苗

放送通訳者。獨協大学およびアイ・エス・エス・インスティテュート講師。
上智大学卒業、ロンドン大学LSEにて修士号取得。英国BBCワールド勤務を経て現在は国際会議同時通訳およびCNNや民放各局で放送通訳業に従事。2020年米大統領選では大統領・副大統領討論会、バイデン/ハリス氏勝利宣言の同時通訳を務めた。NHK「ニュースで英語術」ウェブサイトの日本語訳・解説担当を経て、現在は法人研修や各種コラムも執筆中。

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