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第95回 ハイ・イールド債見通し②

土川裕子

金融翻訳ポイント講座

こんにちは。先月から「がっつり金融」の文章に取り組んでいます。金融アレルギーのある方は、一見しただけで放り出したくなるかもしれませんが、丁寧に読み解いて行けば恐るるに足らず。先入観を捨てて読んでみてください。

ハイ・イールド債(high-yield bonds)はじめ、個々の用語については先月説明しましたので、まずはそちらを確認してから、今回は早速訳出してみましょう。

【本日の課題】
2024 proved to be another strong year for risk-asset returns, and U.S. high yield was no exception with the ICE BofA U.S. High Yield Constrained Index returning 8.2%, led by CCCs returning 16.4%. A similar story played out in the bank loan space with the Morningstar LSTA U.S. Leveraged Loan Index slightly edging out high yield bonds at 9.0%.

指数の名前などがあって難しそうに見えますけれども、整理すると、
2024 proved to be another strong year for risk-asset returns, and
U.S. high yield was no exception with ①, led by ②.
A similar story played out in the bank loan space with ③.
という単純な構造であることが分かります。これを念頭にまずは直訳してみます。

【直訳】
2024年は、リスク資産のリターンにとってもう一つの力強い年であることが明らかとなり、米国ハイ・イールドも、CCC格債が+16.4%のリターンを上げたことに牽引され、ICE BofA米国ハイ・イールド・コンストレインド指数が+8.2%のリターンを上げ、例外ではなかった。同じようなストーリーが、Morningstar LSTA米国レバレッジド・ローン指数が+9.0%でハイ・イールド債にわずかに勝ち、バンクローン分野でも展開した。

指数の名前が長く、見慣れない単語が入っているのと、指数名にあるLeveraged Loanをbank loanと言い換えているのとで、何やら難しく見えるのですが(金融アレルギーの理由の一つはこういうところにあるのかな、と思ったりします)、ざっくり言えば、CCC格債券の高いリターンを筆頭にハイ・イールド債指数が好調、バンクローン指数もハイ・イールド債をやや上回るなど、同じような感じだった、というだけの内容です。

というだけ、と言っても、これを日本語で金融分野らしい表現にするのはなかなか大変なのでして、そこは訓練あるのみ。それでは訳してみましょう(ですます調で)。

【本日の課題(再掲)】
2024 proved to be another strong year for risk-asset returns, and U.S. high yield was no exception with the ICE BofA U.S. High Yield Constrained Index returning 8.2%, led by CCCs returning 16.4%. A similar story played out in the bank loan space with the Morningstar LSTA U.S. Leveraged Loan Index slightly edging out high yield bonds at 9.0%.

【試訳】
2024年のリスク資産は、前年同様に力強いパフォーマンスを実現する結果となりました。米国ハイ・イールド債も例外ではなく、CCC格債の+16.4%に牽引される形でICE BofA米国ハイ・イールド・コンストレインド指数が+8.2%のリターンを上げました。またMorningstar LSTA米国レバレッジド・ローン指数がハイ・イールド債をやや上回る+9.0%のリターンを達成するなど、バンクローン分野も同じく良好なパフォーマンスとなりました。

●U.S. high yield was no exception with ①, led by ②.
直訳の「米国ハイ・イールド債は、②に牽引され、①となり、例外ではなかった」よりは、英語と同じく、まず「ハイ・イールド債は例外ではなかった、実際、②に牽引されて①だった」の方がはるかに自然です。

●A similar story played out in the bank loan space
この文章の流れでは、A similar storyを主語として訳すよりは「バンクローン分野でも同様であった」とした方がはるかに自然です。あるいは単に「同様にバンクローン分野でも~であった」等でもOK。これは日本語ならではのワザかと思います。日→英方向で、主語のない状態から主語を捻り出すのも大変ですが、逆に英→日で、「主語があるのに訳さない」のはなかなか勇気がいります。しかしここを乗り越えれば、より自然な日本語に近づきます。がんばりましょう。

※なお今回の課題に含まれているwithはどちらも例示と言いますか、前の内容を具体的に説明する部分になっています。金融文では特に頻出しますので、幾通りにも訳せるようにしておくと強みになります。

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記事を書いた人

土川裕子

愛知県立大学外国語学部スペイン学科卒。地方企業にて英語・西語の自動車関連マニュアル制作業務に携わった後、フリーランス翻訳者として独立。証券アナリストの資格を取得し、現在は金融分野の翻訳を専門に手掛ける。本業での質の高い訳文もさることながら、独特のアース節の効いた翻訳ブログやメルマガも好評を博する。制作に7年を要した『スペイン語経済ビジネス用語辞典』の執筆者を務めるという偉業の持ち主。

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