第339回 佳境の翻訳家は何を読む?
夏休みの宿題が終わらずに、今頃必死でやっている子も多いのでしょうか。なんだか、そんな子どもたちの姿に自分を重ねてしまいます。というのも、手がけている本の翻訳を終わらせようと、私も必死でPCの前にへばりついているのです。
これまで決してサボっていたわけではありません。ただ、取材や原稿依頼が続き、なかなか集中して取り組める時間が取れずにいました。そして気づけば早くも8月が終わろうとしていて、必死で追い上げているというわけです。
そんな中でも、やっぱり本は読みたいもの。ところが困ったことに、読むものを選ぶのが難しいのです。
私はもともと人文書が好きなのですが、今手がけているのも人文書なので、仕事の延長線上に感じてしまい、手が出ません。というより、読みこなすだけの理解力がもう残っていないのですね。一時期はマンガがいい気分転換になってくれていましたが、視覚情報が多いのも、結構疲れることがあります。
絵本も読むのですが、短いから読みやすいという点はあるものの、短い中にひとつの世界が凝縮されているという点では、密度が濃いんですよね。そこまでお腹いっぱいになるものを求めているわけではないのです。
もっとあっさりした、軽いエッセイなんかがいいのですが、エッセイだと今度は、「この文章表現が素敵!」「この視点は新鮮だなあ。こんなこと考えたことなかった」などと反応する箇所が多くなります。しかも私はそういう箇所に付箋を貼りながら読むので、読んでいるのか、付箋を貼っているのかわからないくらい面倒な作業になり、リラックスできる読書にはならないのです。
なんとも悩ましいこの問題。佳境に入った翻訳家のみなさんは、一体何を読んでいるんでしょうね。
そんな中、「これはいいかもしれない!」と思ったのが幼年童話。幼児から小学校低学年の子どもたちを対象にした読みものです。絵本だと、子どもに読み聞かせをしたり、あるいはアートとして触れたりなど、大人も読む機会があると思います。それに比べて幼年童話は、もしかしたら大人がいちばん手に取らないジャンルかもしれません。
でも、密度が濃すぎず、文章もきれいで優しい。かといって付箋を貼りまくらなければならないこともない。文字が大きくてひらがなが多くて、ぐんぐん読める。幼年童話は、実に快適なのです。
そんなわけで、『椋鳩十のネコ物語』や『あおい目のこねこ』なんかを読んでいます。まるで猫好きのセレクションですが、そういうわけではなく。『椋鳩十のネコ物語』は、「狂犬病にかかっても飼い主を噛まないために必死で頑張った犬の話」として、ある作家さんが記憶していたんです。対談の場でそのお話をされたんですが、図書館関係者が多くいる場で、「それは『ネコ物語』です」と指摘が入り……(笑)。そのやり取りから印象に残っていた作品です。『あおい目のこねこ』は、『ドゥリトル先生のブックカフェ』に登場していて、そこから芋づる式に読んでいます。
そんな幼年童話とともに、ラストスパートをかけています。
※月刊「清流」9月号の特集「大人の読書の楽しみ方」に取材記事を掲載していただきました。ご覧いただけたらうれしいです!
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