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レシテーション合宿

いぬ

通訳・翻訳者リレーブログ

まず初めに、トナカイさん、お疲れ様でした。毎回楽しみにしていたので、お話が聞けなくなるのは残念ですが、どうぞお元気でご活躍ください!

10月16日〜17日

大学の英語レシテーション(暗唱)大会参加者有志を率いて、八王子セミナーハウスで合宿を行なった。次回のために備忘録的に記録する。

11時集合。本館3階ラウンジでそれぞれの担当スピーチの内容について、質問を受ける。ちなみにスピーチのラインナップは、ヒラリー・クリントンの党大会での演説、オバマ大統領のプラハでの「核なき世界」演説、ランディー・パウシュ先生の卒業式でのスピーチ、緒方貞子氏のダボス会議でのコメント、スティーブ・ジョブズ氏の卒業式でのスピーチだ。

「レシテーションコンテストを機会に、様々なことを学ぶ」ということを大目標にすえているので、自分の担当スピーチ以外も、課題スピーチにはすべて目を通して内容をチェックし、背景知識も調べてくるように言ってある……と言うよりは、スピーチの指導も暗唱の指導も経験がないので、通訳の事前準備を念頭において予習を指示し、「オリジナルのメッセージを正確にくみ取り、それを効果的に再表現する」という通訳・翻訳の授業と同じ考えで音読や暗唱の指導をしている。

8月頭に行なった第1回目の合宿では、担当する演説のスピーカーについてレポートを課し、それを発表させもしたが、今回はそれを踏まえて落穂ひろい的に、聞きそびれていた点を質問させた。

12時から昼食。

13時からセミナー室に移動。齋藤孝先生の呼吸法をアレンジしたウォーミングアップを行なう。

3秒で息を思い切り吸い、2秒ホールド、10秒で吐き切る×3セット
3秒で息を思い切り吸い、2秒ホールド、10秒間大きな声を出す×3セット
3秒で息を思い切り吸い、2秒ホールド、10秒間スピーチを読み上げる×3セット

続いてウォーミングアップを兼ねた発音指導。日本語が母語の話者が英語を話す場合、ポイントになるのは子音なので、毎度おなじみの1~10の発音トレーニングを行なう。この中には、日本人が苦手にする子音のうち、L以外はほぼ全て含まれているので、1~10をきちんと発音できるようにすることの効果は大きい。しかも10秒しかかからないので、反復練習もやりやすく、生活の中に組み込ませやすいのだ。

個々の数字の発音を指導した後は、2つ、3つと数字を続けて読ませてリエゾンの練習も行なう。続いてアルファベットを1文字ずつ同じように丁寧に発音。

スピーチを2回音読させて30秒時間を与え、スピーチで「これだけは言いたい!」と思うことを、スピーカーになり切って日本語で訴えさせる。

英語の強弱のリズムを取る練習。マザーグースを使う。犬が出てくるところまで。

http://mothergoose-room.com/t7/mothergooset-70_page0002.htm

手を叩かせてリズムを取り、輪唱のようにちょっとずつずらして言わせたら面白かった。その後自分のスピーチを黙読させ、意味的に重要(=強調するべき)と思う言葉に印を付けさせる。

強弱を考えて音読を2回。その後全員をセミナー室から連れ出し、林の中になる半円形の劇場のような場所へ移動した上で、一人一人スピーチを音読させた。武蔵野に差し込む午後の日差しの中、なかなか雰囲気も良い。学生たちも目先が変わって楽しかったようだ。いまだにしぶとく生き残っていた蚊に刺されまくったのが玉に瑕だったが。

15時半。セミナー室に戻って、いったん各自の部屋に荷物を置かせ、用意してきたお菓子を出してお茶にする。

15時50分からリスニング。各自音読のポイントなどを考えさせる。その後、CDをかけてシャドウイングと音読。自分の担当スピーチが流れている時はシャドウ、それ以外は音読をする。ホワイトボードに表を作って、各自1回音読かシャドウイングをするたびに丸を1つ描かせた。40分ほどぶっ続けで行なう。

17時。1人1パラグラフずつ音読させ、残りの参加者(全員で5人なので、4人)がコメント。続けて僕もコメント。

17時35分。リピート&ルックアップで出来る範囲で暗唱準備。20分ほど時間をとった後で1人1人発表させる。最初の2~3行でいいよと言ったのだが、平均して7~8行、中にはスピーチの3分の1ほどを暗唱したツワモノもいた。

18時から夕食。

19時半。息・声・英語のウォーミングアップ。シャドウイング&音読の反復練習。数十分やったところで、5人を2人と3人のグループに分けて、1人ずつ発表させてコメントをさせる。その際「良かった点」「改善すべき点」を最低1つずつは必ず言わせる。すでに一緒にご飯を食べたりお茶を飲んだりと和気藹々とやってきているので、良い感じでビシビシとコメントが入り、受けとる方もそれを積極的に吸収して行く。僕は2つのグループを回りつつ適宜追加のコメント。

20時50分ぐらいから、シャドウイング&音読の反復練習をやらせつつ、1人1人呼び出して僕の前で音読をさせ、細かくコメントをした。30分ぐらいで終えるつもりが、気がついたら22時。ホワイトボードの丸印も順調に増えている。今日のトレーニングは終了。各自入浴してセミナー室に再集合するように伝えて解散。

22時40分ぐらいから、用意したお酒やらつまみやらをセミナー室に並べて、のんびりと読書ノートを書いていた。23時前あたりに男性陣が集合したので、一足先に乾杯する。そのうち女性陣も加わって話に花が咲き、僕の合宿名物となっているいつもの飲み会の雰囲気となって大いに盛り上がった。2時半ごろに終了。就寝。

起きて6時過ぎ。身支度をして、水曜から読み直している夏目漱石の「職業と道楽」を読み切ってから、平行して読んでいる西村佳哲の「自分の仕事をつくる」を少し読む。7時半ごろにセミナー室に赴き、宴会の後片付けをして、窓を開けて空気を入れ替える。

本館3階のラウンジにある新聞コーナーで、ジャパン・タイムズを読む。普段はデイリー・ヨミウリばかりなので、紙面の違いが面白い。

8時から全員で朝食。みんな眠いようで口数が少ない。「昨日の元気はどうしたの?」と言うと、みんな「いやあ〜」と苦笑いしている。はっはっは。

9時からトレーニング再開。まずはウォーミングアップ。1~10の発音、A〜Zの発音、マザーグースを使った強弱練習と進む。本格的にトレーニングを開始する前に、いくつか話をする。

・今読んでいる、「自分の仕事をつくる」から。
「たとえば安売り家具屋の店頭に並ぶ、カラーボックスのような本棚。化粧板の仕上げは側面まで、裏面はベニア貼りの彼らは、『裏は見えな

からいいでしょ?』というメッセージを、語るともなく語っている。建売住宅の扉は、開け閉めのたびに薄い音を立てながら、それをつくった人たちの『こんなもんでいいでしょ?』という腹のうちを伝える。
 (中略)人間は『あなたは大切な存在で、生きている価値がある』というメッセージを、つねに捜し求めている生き物だと思う。そして、それが足りなくなると、どんどん元気がなくなり、時には精神のバランスを崩してしまう。
 『こんなものでいい』と思いながらつくられたものは、それを手にする人の存在を否定する。とくに幼児期に、こうした棘に囲まれて育つことは、人の成長にどんなダメージを与えるだろう。
 大人でも同じだ。人々が自分の仕事をとおして、自分たち自身を傷つけ、目に見えないボディブローを効かせ合うような悪循環が、長く重ねられている気がしてならない。」(pp.9~11)

・英文和訳レベルの理解から、相手のメッセージをくみ取るレベルへ深化する必要性。

・経験を積み重ねることでしか、理解できないことがある。そこまで到達した人が理解したことを言葉にして、そこに到達したことのない人に伝えたところで、大きな意味を持たない。だからこその合宿だ。

・一指禅の話。
http://urai2.econ.osaka-u.ac.jp/member/ken/library/gakumon/Gutei.txt

続いてシャドウイング&音読の反復練習。カーテンを全て開け、網戸になる部分は窓も開けて、朝日の注ぐ木立を見ながらやらせたが、なかなか気分爽快であった。

話を聞いている間に学生たちも目が覚めてきたのか、良く声も出ているし発音も磨きがかかってきた。それぞれのスピーカーの語り口が次第に学生たちに乗り移ってきているのが嬉しい。

反復練習中、1人1人呼び出してコメント。丸印もドンドン増殖し、一番少ない学生でも20個。スピーチ1回3分(そんなに短くないが)で計算しても、合計すると1時間以上ぶっ続けで話し続けていたことになる。昨日から合算して10時間も指導を受けているわけだから、そのぐらいにはなるだろうなあ。

自然と暗唱も出来かかっているようで、何も見ずに朗々と話している学生もちらほら出始めた。11時頃から全員の前で音読(出来る範囲で暗唱)をやらせる。ポストイットを1人2枚配って、スピーカーの良かった点と改善すべき点を聞きながら書かせ、聞き終わったらスピーカーの原稿に貼り付けるよう指示。時間の節約のため。貼り付けている間に僕から講評。

11時40分ぐらいから、リピート&ルックアップで暗唱準備をさせる。12時まで時間をとり、その後昼食のため本館に向かう。すぐに本館には入らず、本館3階へと続く渡り廊下で一列に並び、紅葉し始めた木々を見下ろしつつスピーチを暗唱させた。通りかかる他団体の先生方がニコニコと学生たちを見つめている。

結局ほとんど丸ごと暗唱してしまった学生が続出。大いに褒めて昼食を取る。

13時から最後に1回シャドウ&音読。その後、部屋の机の配置を変えて、本番風の雰囲気を作ったうえで最終パフォーマンス。それぞれに力のこもった、実に良い語りだった。昨日とはまったく別人みたいだね、と学生たちが目を輝かせている。僕もまったく同感。本当に良く頑張った。

お茶を入れてお菓子を出し、合宿の感想レポートの骨子を書かせる。指導のことばかり考えてデジカメを忘れたので、記念写真がわりに皆で寄せ書きを行なう。本館でチェックアウトする際に、カラーコピーして渡したが、いい記念になるだろう。

17時半帰宅。22時には眠くてメロメロになり、倒れるように就寝。

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記事を書いた人

いぬ

幼少期より日本で過ごす。大学留年、通訳学校進級失敗の後、イギリス逃亡。彼の地で仕事と伴侶を得て帰国。現在、放送通訳者兼映像翻訳者兼大学講師として稼動中。いろんな意味で規格外の2児の父。

END