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予習とアウトプット

かの

通訳・翻訳者リレーブログ

 今や入試シーズンたけなわ。
 「通訳という仕事は毎日受験勉強をしているようだ」とよくたとえられる。当日体調が万全でなければならないのは、入試にしても通訳業務にしても同じ。できる限りの予習をしてヤマをかけても、当日になるまで何が出るかわからないところも同じだ。
 ただし私の場合、「体調万全・全資料読了・単語リスト作成済み」で臨んでも適訳が出てこず、悔しい思いをすることが少なくない。集合時間の30分前には最寄り駅に到着、訪問先も下見し、お化粧直しもしてミーティング場所に姿を現したにもかかわらず、である。一方、風邪気味で熱っぽかったり、花粉症でボーっとしていたりなどという時に「同時通訳絶好調!お〜、意識していないのに単語が出てくる!」という日も年に1度ぐらいはある。となると、こと私に関しては体調と通訳アウトプットは絶対的な相関関係がないことになる。
 ただ、集中力がすべてのカギを握っているのは確か。訳語が思いつかない時というのは往々にして何か自分の集中力を妨げる要因がある。ある会議でウィスパリングのとき、窓のブラインドが自動的に上がり始め、その「ジー・・・」という音で集中力が一瞬途切れてしまった。以降、それ以外の音も気になり始めてしまったのだ。別の会議のときは左手親指のささくれが気になり、「ハンドクリーム、塗っておけば良かったなあ」と思ったのが運の尽き。そういう雑念のあるときに限ってうまく訳語が出てこない。どんなに頭を切り替えても潜在的にミスが尾を引いているのだろう、ますます舌が回らなくなってしまうのである。
 ある芸能人は舞台に上がる前にトイレットペーパーを三角に折ることで集中力を高めると話していた。大相撲の高見盛が土俵で見せる気合も有名だ。通訳者は現場で大げさな気合を入れることはさすがにできないが、自分なりに集中力を持続させるおまじないを持っていた方が良いかもしれない。そこで私なりにやってみたのが「本番1時間前までに食事を済ませる」こと。これが今のところ意外とうまくいっている。1時間を切ってしまうと胃が重くなって脳が活動しなくなってしまう。どうやら私の場合、多少空腹の方が頭もさえるようだ。

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記事を書いた人

かの

幼少期を海外で過ごす。大学時代から通訳学校へ通い始め、海外留学を経て、フリーランス通訳デビュー。現在は放送通訳をメインに会議通訳・翻訳者として幅広い分野で活躍中。片付け大好きな2児の母。

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