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自分への手紙(1)

まめの木

通訳・翻訳者リレーブログ

フランスに音楽留学していた友人がドイツに遊びにきた時に言っていたことを思い出した。中学卒業後、単身フランスに渡った頑張り屋さんの彼女に、バイオリンの師匠がいつも言っていたそうである。
「歩いてエッフェル塔を登るときは、たまには下を見ないとね。上ばかり見ていると果てしない感じがして気持ちが萎えるから、自分がどれ程高い位置まで上がってきたか確認するのも、時には必要だよ。」
以前書いた手紙などを発見すると、たった数年前のことなのに、良い意味でも悪い意味でも現在の自分との意識レベルの差に驚くと同時に、微々たるものだが少しは前進したことを確認できるので面白い。特に、何かに熱く打ち込んでいた時期の内容は、今の自分にとっても大きな励ましになることがある。まるで、未来への自分に宛てた手紙のようだ。今回と次回はお恥ずかしながら、そんな手紙の一部を皆さまにご紹介いたします。

先生の話は本当にいつ聞いても“雲の上”と言う感じですよね。落ち込んでしまう気持ち、とてもよく分かります。先生から見たら今の私なんか、はっきり言って『雑魚同然』で近くのドブ川しか泳いだことないようなレベルのはずなのに、まるで「マグロが太平洋を泳ぐ時はね…」のように話してくださるので、自分がなさけなくなるのですが、同時にハイレベルな話を当然のごとく自然にしてくださるのはありがたいと思っています。私、いつも思うんです。きっとエヴェレストに最初の人間が登頂する前は、絶対に登れない、人間には登れるわけがない、というのが世の常識で、普通の人は「ああそうか、登れない山なんだ」と“できないこと”として受け入れますよね。でも、いざ、登っちゃった人がいるのを目の前にすると、「登れる人がいるんだ!それもスーパーマンとか宇宙人じゃなくて、私と同じ肉体をもった人間が!」と、勇気づけられるというか、少なくとも同じ人間として生まれているのだから、頑張れば自分にもできる“可能性”があると、思ってしまうのです。本当におこがましいというか、身の程知らずかもしれませんが、通訳に関しても同じで、泣きたくなるほどなさけなくなった時には、今をときめくあの人だってABCから初めて今があるはず!大事なことはあきらめないこと!今あっての未来!と勝手に自分を鼓舞しています。それに、私達は幸いなことに、自分の将来が国に決められてしまったり、発言が原因で牢獄に入れられたり、これをやってはいけないと誰かに制約されるような環境には生まれていないので、努力次第で自分の望む姿を手に入れられると信じています。留学時代に他の国の、特にあまり裕福ではない国からの留学生にあって私に欠けていたものは、「絶対になる!」と自分を信じる力だったような気がします。「なりたいな〜なれたらいいな〜〜〜」位じゃあ全然だめで、自分を信じる力がある人ほど、努力もできたような気がします。

通訳学校に通っていた当時に一緒に頑張っていた友達に書いたメールだが、彼女は自分に厳しすぎるあまり、落ち込むことも多々あったようだ。勢いだけ立派で幼稚な内容には思わず笑ってしまう点もあるけれど、ものすごいパワーで突っ走っていた時期を懐かしく思った。

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記事を書いた人

まめの木

ドイツ留学後、紆余曲折を経て通翻訳者に。仕事はエンターテインメント・芸術分野から自動車・機械系までと幅広い。色々なものになりたかった、という幼少期の夢を通訳者という仕事を通じてひそかに果たしている。取柄は元気と笑顔。

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