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アースの皆既日食旅行記(18)最終回

アース

通訳・翻訳者リレーブログ

2017年8月21日の皆既日食。最後まで雲に遮られることなく、第3接触を迎えた。

第3接触とは、完全に重なっていた月と太陽がずれ始める瞬間を言い、再びダイヤモンド・リングを拝むことができる。2回目だから感動が薄いかと言えば、むしろ逆で、1回目よりは落ち着いて見られるだけに、感動もまたひとしおである。

わたしにとっては9年、前回の日食(2016年3月インドネシア)を見た人にとっては1年半のあいだ待ち焦がれた数分間が終わった。

太陽が月の後ろからほんの少し顔をのぞかせただけで、あたりは急速に明るくなり、非日常の感覚が薄れてゆく。あと何年も、あの空気を感じることができないとは。

しかし我々Eclipse Chaserにとって、一つの皆既日食の終わりは次の皆既日食の始まりを意味する。実際、帰りの車の中で早速サラが「次の日食は・・」とネット検索し始めた。深く同調するやら呆れるやら。

さて。

これ以上、書くことはあまりないが、日本に帰り着くまでのエピソードをひとつだけ。というより、エピソードはひとつしかない。

これまでの、ある意味きつい行程が響いてか、サンノゼにあるジョンとサラの自宅に帰り着いた途端、3人そろって体調を崩したからだ。そのため結局、帰国までの4、5日はほとんど彼らの家の中で過ごした。今回はできればシリコンバレーに連れて行ってもらいたかったのだが、やむなく断念。

といっても、特に高熱が出たとか、どこかが痛んだとかではなく、胃や腹具合が悪いという程度。図らずも、「体調の悪い時のアメリカ人の過ごし方」を身をもって学んだわけであるが、これがきつかった。

これまで、海外で長く過ごしても、体調を崩しても、特に日本食が恋しくなった経験はないので、この旅行でもビタミン剤以外は持って行かなかったのだが、今回、いかにもアメリカンな病人食には閉口した。

クソまずいオートミール。ほんとまずい。ぱさぱさのクラッカー。彼らなりに「A社のBクラッカー○○入り」みたいなこだわりがあるようだが、どれもあんま変わらん。

独特のきつい匂いのする缶詰めのスープ。ツナサラダ缶とやらも、健康な時ならおいしいのだろうが、ひたすらくどく、気分が悪くなる。水を入れてレンジでチンするだけだったか、とにかく簡単だったので作ってみた「グルテンフリーのCREAM RICE」とかいうシロモノ。見かけは柔らかい餅だったので、これなら行けるかもと口に入れた途端、あまりの塩辛さに顔が歪んだ。

だが全員、調子が悪いため、誰かが腕を振るっておいしい料理を作ってくれるわけもない。

これでは餓死すると危機感を抱いたわたしは、何とか外出できるようになって行ったスーパーで、ごくごくプレーンなパンと、カリフォルニア産「最高級ササニシキ」を購入。

いや、スーパーに「最高級ササニシキ」しかなかったのであって、わたしが我儘を言ったわけではない。(普段は食にうるさいジョンは、当然ながら炊飯器を所有している)

しかし・・カリフォルニア産のジャポニカ米はけっこううまいと聞いていたのに、これがぱさぱさのぽろぽろ。水とか炊飯器とかそういう問題じゃない。「これのどこが最高級!!」と日本語でおもいっきり毒づきながら、笑顔で食べるわたし。

だが米のメシは米のメシだ。

幸い、ジョンがどこかで買ったらしい「瀬戸の香り」というおかかの振りかけ(日本産。涙)があり、また予感があったのか、わたしが成田空港でふと思いついて買ったおみやげ用の玄米茶とほうじ茶のティーパックで、涙のお茶漬けとあいなった。

いまここであれを食べてもぜんぜんおいしくないだろうが、あの時はほんとうにおいしかった。ビバ、お茶漬け。もう少し元気なら、やはり成田で買った虎屋の羊羹まで手を伸ばすところであったが、お茶漬けだけで満足してしまった。(結果的にティーパックは、わたしが滞在中にほとんど飲んだ)

帰りの飛行機に乗るまでにはなんとか機内食も大丈夫かなと思えるまでに回復。たまたま全日空だったので、最初の食事にあった「うどん」をまた涙を流しながら食し、成田到着。

国内乗り継ぎ便を待っている間、成田空港でわたしが何をしたか、言うまでもないだろう。だし茶漬け屋さんに入り、ほんまもんのお茶漬けを心ゆくまで味わったのである。後にも先にも、あれほどおいしいお茶漬けは食べたことがない。

だが言っておく。

また皆既日食さえあれば、そして体調さえよければ、ぱさぱさハンバーガーと1リットルコーラと山盛りポテトしかなくても、大統領がTであっても、わたしはまたアメリカに足を踏み入れるだろう。世界のどこへでも行くだろう。

現在は、2021年、南極で起きる皆既日食に行くかどうか、検討中である。相棒と2人で行くと、大型の車を一台買ったくらいの値段になる可能性はある。だが宇宙より遠いところにある南極と皆既日食の組み合わせが、我らを呼ぶのである。

※国際宇宙ステーションは地上400kmのところに浮いているが、日本から南極までの距離は実に1万4,000km。

以前話したように、2、3年に1回は世界のどこかで必ず皆既日食が起こる。皆さんも機会があれば、文字通りの非日常空間を是非体験してほしい。

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記事を書いた人

アース

金沢在住の翻訳者(数年前にド田舎から脱出)。外国留学・在留経験ナシ。何でも楽しめる性格で、特に生き物と地球と宇宙が大好き。でも翻訳分野はなぜか金融・ビジネス(英語・西語)。宇宙旅行の資金を貯めるため、仕事の効率化(と単価アップ?!)を模索中。

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